第21話 踊る大熊亭

 ラースよ!私は帰ってきた!

 なんて事を考えながら、クレマンさんが別れ際に手渡してくれた地図を見ながら、目的地へ向けて歩く。


【⠀踊る大熊亭 ⠀】


 クレマンさんの知り合いが経営している宿屋らしい。名前が凄く気になるけど。

 この宿に泊まりながら、お金が尽きる前に働けるところを探そう。


 地図によると、冒険者ギルドの隣にある宿屋さんらしい。

 近くにはこの前ヒューゴさんに連れていってもらったギムルさんの武器屋や、ミレイユさんの雑貨屋がある。

 何となく知り合いが近くにいると思うと、少しホッとする。


 暫く歩いていてやっと辿り着いたその宿屋は、名前では想像できない素敵な宿屋だった。

 キャラメル色の落ち着いた外観に、可愛い小熊を象った看板が掛けられている。ワクワクしながら扉を開ける。


 カランカラン


 ドアベルが鳴ると、奥から背が高くガッチリした体格の女性が出てきた。

「コンニチワ。ワタシ サクラ。クレマンサン テガミ。ヨロシク。」

 必死に伝えて、頭を下げる。伝わったかな。


 女性は手紙を読み終わると、ニカッと笑いながら握手してきた。

「桜ってんだね。私はアンナ。この大熊亭の女将だ。よろしくな!」

 姐御肌で気風が良いサッパリとした女性だ。姐さんって呼びたい。


「色々と話したいけど、とりあえず2階の部屋を使って良いから、荷物を置いてきな。朝飯食べてないんだろ?」

 そう言うと、アンナさんは部屋の鍵を渡してくれた。

「アリガトウ。」


 アンナさんがくれた鍵は、2階の1番奥の日当たりが良い部屋の鍵だった。

 部屋も綺麗で布団もふかふか、テーブルと椅子も備え付けがある。


 ・・・・・この部屋高いんじゃ?お金足りるかな。早く仕事探さないと。

 気持ちが少し焦るけど、腹が減っては戦は出来ぬ!戦はしないけど、ご飯食べに行こう!



 1階に降りると、アンナさんがご飯を準備して待っていてくれた。

 パンとサラダと焼いたお肉、それとスープ。

 空腹は最高のスパイスだね!王宮で食べた時より美味しく頂きました!

『ご馳走様でした。』


 食べ終わるとアンナさんが食器を下げて、紅茶を持ってきてくれた。

 あ、この香り・・・クレマンさんが入れてくれた紅茶と同じ香りだ。


「オイシイ。アンナサン アリガトウ。」

「どういたしまして。一息ついた所で、早速話したいんだけど、良いかい?」

 私が頷くと、厨房からアンナさんより更に大きくガタイの良い男の人が出て来た。


「先に紹介しとく。この宿の大将であたしの旦那のガイン。厨房を担当してるんだ。」

「アンナから話は聞いた。よろしく桜。」

 おお~!やっぱりアンナさんの旦那さんなんだ!2人とも王宮の騎士さん達より体格良いかも。


「でさ桜、あんた仕事探してんだって?良かったらうちで働かないかい?」

 何と!!クレマンさんが頼んでくれたのかな。


「桜は料理が上手いって、クレマンの手紙に書いてあったんだよ。良かったら料理作るの手伝ってやってくれないかい?部屋もこのまま2階を使えば良いし、どうかい?」

「ヤル!!!ヨロシク!!!」

 言葉だけでは伝わりきらないと思い、頭を下げる。


「よし!決まりだ!今日は疲れてるだろう?ゆっくり休んで、仕事は明日から頼めるかい?」

「ダイジョウブ! ハタラク!!」

 ゆっくり休んでるのは性にあわない。それに何より美味しいご飯を広めたい!


 私の気合いの入った返事に、アンナさんが思わず吹き出した。

「はははっ!じゃあ頼もうかね!ガイン任せたよ!」

「おう。」

 クレマンさんのおかげで、幸先の良いスタートがきれました。本当に感謝してもし足りない。



 ガインさんに付いて厨房に入ると、仕込みに使う肉や野菜が山盛り置いてあった。

「早速だが仕込みの手伝いを頼む。」

「ハイ!」

 ガインさんの指示通りに野菜を切っていく。

 王宮では何人もの人でやっていた仕込みを、1人でやってるなんて凄いな。


 夢中で切っていると、ガインさんから提案が上がった。

「2人でやった分仕込みも早く終わりそうだ。せっかくだから、何か作るか?」

「ツクル!!!」

 勢い良く答えてしまった。ガインさんが笑ってる。


 余ってる食材からなら使ってもいいそう。何作ろうかな。

 余ってる材料は・・・硬いパン、肉、卵、きのこ。うん!和風のハンバーグにしよう!

 本当はデミグラスソースのハンバーグとか食べたいけど、ケチャップもウスターソースもない。いつか調味料増やしたいな。

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