第20話 お別れ

 早朝陽菜ちゃん達は、ダンジョンに向け出発して行った。

 直接見送りには行けなかったけど、遠くからそっとお見送り。

 アレンさんやルイスさんの姿も見える。他にも多くの騎士さん達が随行するみたいだから、きっと大丈夫!

 そろそろ私も自分の準備をしておこう。


 部屋に戻って、私も自分の準備をする。

地球からこの世界に持って来た荷物や服は、いつの間にか無くなっていた。だから準備といっても、街で買っておいた袋に、露天で稼いだお金を入れておくぐらい。


 支度も整い椅子に座って待っていると、廊下が急に騒がしくなった。

 内容は聞き取れないけど、ヒューゴさんとクレマンさんが誰かと言い争っている。


 いよいよ来たかな。


 部屋の扉を開けて顔を出すと、いつぞや情報を漏らしてくれた先生がいた。


「自ら出てくるとは!ははっ!手間が省けたわ!お前ら邪魔だ!退けっ!王の命令に逆らう気か!」

「「桜様・・・。」」

「ダイジョウブ。ワタシ イク。」

 私がそう告げると、2人の顔が悔しそうに歪む。


「手間掛けさせやがって。さっさと付いてこい!」

 そう言うと先生が私の手首を力いっぱい掴んで歩き出した。かなり痛い。

 この手、捻り上げてもいいかな?いいよね?


 そんな物騒な事を考えていると、ヒューゴさんが先生の手首を掴んだ。ミシミシいってる気がする。

 痛みに怯んだ先生の手が私の手首から離れた瞬間、ヒューゴさんが私と先生の間に割って入った。


「私は桜様の護衛です。王の間まで、護衛させて頂く。」

「なっ!お前はこいつの見張りだろう!」

「いえ、王からは桜様の護衛をしろと仰せつかっております。」

「それは建前で・・・」

「王命を無視しろと?」

「!!勝手にしろ!!!こんな事をして後でどうなるか、覚えてろよ。」


 そう言うと先生は足早に歩き出した。

「桜様、申し訳ありませんが、ご同行頂けますか?」

 私が頷くと、いつものように私の前を歩き先導してくれる。

 自分の立場が悪くなるだろうに・・・ヒューゴさんありがとう。




 暫く歩くと、趣味の悪い金ピカな扉の前に着いた。

「申し訳ありません。ここから先へは、私は同行出来ません。どうかお気を付けて。」

 ヒューゴさんが辛そうな顔をしている。分かっていた事だし、そんなに気に病まないで欲しいな。


「ヒューゴサン アリガトウ」

 ペコリとお辞儀をしてから、先生に続いて王の間へ足を踏み入れる。


「・・・・・・・・・・・・」


 王の間は言葉が出なくなる程趣味の悪い部屋だった。

 黄金色に輝く玉座、黄金色の柱、黄金色のランプ、黄金色の・・・・・あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙。部屋中キンキラ光って目が痛い!!


 そんな私の様子に全く気付く事もなく、先生は王様の前まで私を引っ張っていく。

「叔父上連れてまいりました!」

「御苦労。下がって良い。」

「はっ!?」

 いくら身内でも、人前で王様を叔父上呼びはダメだと思う。きっと出世出来ないね先生。


「お前、桜と言ったか。そろそろこの世界にも慣れたであろう。今日より街で暮らすが良い。」

『はいはい分かってましたよ。こんな朝早くに呼びつけて出て行けとか、どれだけ小さい王様なんだか。』

 コクリと頷きながら、日本語で返事してみる。


「なっ!言葉が話せるようになったと報告を受けておったが・・・。」

「スコシ。」

 片言で私が答えると、王様の肩が震えている。

「ならば初めから分かる言葉で話せ!!!」

 相変わらず短気な王様だな。少しぐらい意趣返ししないと、私の気が済まない。


「オウサマ コトバ ハヤイ。ワタシ ワカラナイ。『3人は絶対好きにさせないから。せいぜい首を洗って待ってなさい。』」

 ニコリと微笑みながら日本語で宣戦布告。分からないだろうけど。


「分かろうが分かるまいがどうでも良い!さっさとこの城から出て行け!!二度と城へ入る事は許さん!!」

「ワカリマシタ。」

 あー!スッキリした!言いたい事言えるって最高だね!


 踵を返し王の間を出ようとすると、扉傍で控えていた騎士に両脇を抱えられた。

 なるほど、今すぐ強制的に出ていかせると。別に逃げないのに。




 ズルズルと連れて行かれる私の姿を見て、ヒューゴさんが止めようとする。

「ヒューゴサン ダイジョウブ。アリガトウ。サヨナラ。」

 これ以上はさすがに彼を巻き込めない。彼も私の気持ちを察したのか、動きを止める。

 今まで本当にありがとう。釣ったりして遊んでごめんね。


 出口までの道すがらも、リリーさんや料理長、料理人の皆が騎士さんを止めようとする。

本当にありがとう。でも巻き込みたくない。


「ミンナ アリガトウ!ダイジョウブ!サヨナラ!」

 リリーさんが泣き崩れてしまった。リリーさん泣かないで。今までありがとう。



 暫く引きずられて来たけど、ここはいつもヒューゴさんと街に行く時に出る扉じゃない。裏門ってやつかな?

 着くなりポイッと扉の外に放り投げられる。


『うわぁっ!』

 転びそうになった私を、後ろから誰かが支えてくれた。振り向くとクレマンさんが立っている。


「女性に対して随分な扱いをされますな。それが誇り高き騎士がする事ですか?」

 クレマンさんからドス黒いオーラが出ている気がする。怖い。怖過ぎる。

 真っ青な顔をした騎士達は、そそくさと去って行った。


「桜様に対してあの様な無礼な扱い。お止めする事も出来ず、誠に申し訳ございません。」

 クレマンさんが謝る事じゃないのに。


「クレマンサン ワタシ タスケル。アリガトウ!」

「感謝などされますな。力及ばず、本当に情けない。」

「クレマンサン!ナサケナイ チガウ!!」

 言葉が通じないもどかしさ!どうしたら伝わるんだろう。


 そうだ!言葉が伝わらなくても、きっと歌なら!

 私は今までの感謝の気持ちを込めて歌った。

 いつの間にかリリーさんや料理長達、ヒューゴさんも聴いていた。

 皆本当にありがとう!元気でね!


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