第19話 お土産

 街から戻り、お風呂で汗を流して部屋へ戻ると、サッと紅茶を出してくれるクレマンさん。

 ちなみにヒューゴさんはリリーさんに注意を受けたらしく、最初の日以降お風呂場の扉の外で待つようになった。


 私が一息ついていると、陽菜ちゃん達がやって来た。

 一通りスキルや魔法の使い方を覚えたそうで、明日からは魔物を倒す実地訓練をしに連れて行かれる事になったみたい。


 場所は王都から1日かけて馬車で移動した所にある、初心者向けのダンジョン。日程としては2泊3日になりそう。


『ここからは日本語で話そう。まずは最初にお土産を渡させてね。』

 3人に街で買ってきたプレゼントを渡す。


『わぁ~可愛いブローチ!桜さんありがとうございます!』

『綺麗な羽の色のペンですね。ありがとうございます!』

『おお!懐中時計!桜さんありがとう!』

 3人共喜んでくれたみたいで良かった!


『じゃあそういう事で、明日か明後日にはお城を出る事になると思うから、皆気を付けて行って来てね!住むところが見つかったら、必ず知らせるから。』

『何がそういう事なんですか!?』

 私の言葉に、優斗君が怒った。

 陽菜ちゃんは泣き出しそう。

 大河君は驚いて固まっている。


『理由は簡単。私が料理を教え終わったからだよ。』

 終わったこのタイミングで初めての実地訓練を、近場ではなく3日もかかる場所でやるのは、私の追い出しを止めさせない為以外にない。


『もう少し先かと思ってたけど、早く追い出したいみたいだね。多分王宮から出されるだけだと思うから、とりあえずラースで住む所を探してみるから大丈夫だよ!』

 明るく言ってみたけど、3人の顔は沈んだままだ。


『訓練が落ち着いたら遊びにおいで。準備が整ったら脱出する為の計画も、進めていかなきゃいけないしね。』

 脱出という言葉で我に返ったのか、3人共落ち着いてきた。


『はい!絶対遊びに行きます!』

『取り乱してすみませんでした。少しでも早く脱出出来るよう、今は力をつけます!』

『2人は絶対俺が守るから、桜さんも気を付けて!』


『皆も魔物と戦って怪我をしないよう、気を付けてね!』

 いくら騎士さん達と行くにしても、皆が危険な場所へ行く事に変わりはない。


 明日の朝出発する予定らしいけど、王様達が見送りに出るらしい。

 今は波風立てるのは得策じゃないので、ここで3人としばらくの間の別れの挨拶をしておく。どうか怪我せず、元気に帰ってきますように。



 3人と別れた後、お土産を渡しに厨房へ。

「オミヤゲ ドウゾ。」

「おお!これは手拭い!ありがとうございます!」

「リョウリチョウ、ミンナ、アリガトウ。」

 明日挨拶に来れるか分からないから、今のうちに気持ちを込めて伝えてみる。


「桜様、こちらこそありがとうございます!今夜も腕によりをかけて作りますので、楽しみにしてて下さい!」

 うん!今夜のご飯も楽しみにしてるね!



 次はリリーさんへ渡しに行く。

 どこにいるのか分からないけど、案内はヒューゴさんにお任せ!


 連れて来られたのはお風呂場だった。本当にここ?

 私の訝しんだ表情を察したのか、ヒューゴさんが肩を竦めてから、風呂場の扉をノックする。


「はーい。」

 リリーさんが出てきた!本当だった。

 思わずヒューゴさんを見ると、満足気なドヤ顔。


「リリーサン、オミヤゲ ドウゾ。」

 ヒューゴさんをスルーして、リリーさんにお土産を渡す。


「桜様・・・私なんかにこんなに綺麗な物をありがとうございます・・・。」

 リリーさんが瞳を潤ませている。

「リリーサン ツカウ。ニアウ!」

 絶対に似合うって言いたいのに!語彙め!流暢に喋れるようになりたい!


 気持ちは何とか伝わったみたいで、リリーさんが受け取ってくれた。休みの日にでも使って欲しいな。



 部屋に戻ると、クレマンさんが出迎えてくれる。

 帰ったタイミングで、何で紅茶が出てくるのか・・・。美味しいけどね。


「クレマンサン、ヒューゴサン。オミヤゲ ドウゾ。」

 2人にもお土産を渡す。

「桜様、私にまで・・・ありがとうございます。」

「俺は一緒に街に行ったのですが・・・。」


 今回のお土産は、お世話になったお礼も兼ねてるから、ヒューゴさんにも渡したかったんだよね。

 監視目的だとしても、随分お世話になってるし。


「クレマンサン、ヒューゴサン。アリガトウ オレイ。」

 片言では伝わらないと思い、ペコリと頭を下げてみる。

 何かを察したのか、神妙な顔をしながらお辞儀を返してくれる。

 2人はきっと王様サイドの色んな情報を知っているだろうし、これからの事も分かってるんだろうな。


 明日がどうなるか分からない。今日は夕食食べたら早めに寝ておこう。

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