第9話 真面目にお勉強

 朝食を食べ終えた後、クレマンさんの入れてくれた紅茶に舌鼓をうっていると、陽菜ちゃん達が来てくれた。

 今日から本格的に色んなことを学ぶ予定なんだけど、まずはこの世界について学ぶという事で、一緒に勉強する予定の私を迎えに来てくれたらしい。


 皆と一緒に部屋を出ようとすると、料理長が慌てて私の前に立ち塞がり何か言っている。


「桜さん、料理長が料理を教えて欲しいって言ってるんですが・・・。」

「はい?」


 何それ初耳です。言葉も分からないのに教えられないよ。

 私が断ろうとすると、何故か陽菜ちゃん達まで頼んでくる。


「桜さんお願いです。朝食もそうでしたが、私ここの料理じゃ満足出来なくて・・・。」

「通訳なら僕達が交代で手伝うので、お願いできませんか?」

「俺また昨日の唐揚げが食べたい!」


 1人ちょっと違いませんか。

 確かに私も美味しいご飯が食べたいし、3人が喜んでくれるなら頑張ろうかな。

 美味しくするコツをいくつか伝えたら、料理長さん達なら応用してくれるだろうしね。

 とりあえず午前中の勉強が終わったら、厨房に行く約束をすると納得してくれた。




 さてさて、お勉強の時間です。

いつまでも王宮に居るわけにはいかないし、これからこの世界で生きていく為に、まずは常識を知っておかないとね。

 教えてくれるのは国王の甥で、普段は内政の事務方の仕事をしている人らしい。便宜上先生と呼ぼう。

 あ、歴史とかは結構なので、生活に直結した内容をお願いします。


 まずはお金から。

 鉄貨・・・1枚約10円

 銅貨・・・1枚約100円

 銀貨・・・1枚約1,000円

 金貨・・・1枚約10,000円

 白金貨・・・1枚約100万円

 金板・・・1枚約1億円


 馴染みのないお金でも、日本円に換算すると分かりやすいかも!でもやっぱり紙のお金は無いんだな。燃えやすいから?


 時間や暦は先輩勇者様達のおかげで、地球とほとんど変わらないみたい。

 1日は約24時間、1月~12月まであり、一月は28日、一週間は7日。

 春夏秋冬もあるみたいで、何だか嬉しかった。


 近隣諸国についても、地図を見ながら教えてもらう。

 まず今私たちがいるこの国はシューレ王国。国としてはかなり大きく、軍事力に力を入れているらしい。

 シューレ王国の西側には、カティアの森という名前の大きな森があり、この森には凶悪なモンスターが生息しているという。森の中心部にはダンジョンが発見されてるが、中々攻略が進まず未踏破との事。


 シューレ王国とカティアの森を挟んだ、向かい側にあるのはエールランド帝国。この国も軍備拡大に精力的だそうです。ちなみにシューレ王国とは敵対国。ここ最近緊張状態らしい。・・・ん?


 カティアの森の北に位置するのは、女神を信仰するアマリア聖王国。先代聖女様の嫁ぎ先なんだとか。


 カティアの森の南には、魔法の研究・発展に力を入れている魔道都市エテルネ。先代賢者様は晩年この国に身を寄せ、魔法の発展に尽力されたそうです。

 ちょいちょい先代勇者様御一行についての情報入ってくるな。


 他にも商業都市ハンメル、ドラゴ龍王国、獣王国べスティア、ドワーフの国ツヴェルク王国、エルフの住むエスプリの森etc.....

 ファンタジーの世界だ。日本では忙しくて旅行にあまり行けなかったから、この世界では色んな国に行ってみたいな。


「はい!質問があります!私が街で暮らそうと思ったら、どんな仕事がありますか?」

 私が元気よく挙手しながら言うと、説明してくれていた先生が嫌そうな顔をした。分かるよー。私はあくまでオマケで、説明したかったのは陽菜ちゃん達にだもんね。

 でも気にせず、聞きたい事は聞いてくよ。私が王宮に居られる時間は少ないだろうし。


 私の質問を優斗君が通訳してくれたので、先生も無視は出来ない。先生が言うには、

 ○私はステータスがないから、まず冒険者は無理。

 ○そもそもステータスがない為、身分証を作る事が出来ない。

 ○出来るのは使用人か店の店員ぐらい。

 ○特技もスキルもないんだから、せいぜいおとな・・・・


 ここまで通訳してくれていた優斗君が突然口をつぐみ、先生を睨みつける。

 隣を見ると陽菜ちゃんや大河君も椅子から立ち上がり、先生を凄い形相で睨んでる。

 先生も思わず本音を言ってしまったみたいで、顔が青くなってる。


 私はというと、全く気にしてません!本当ならここで3人を宥めたい所だけど、もう1つだけ聞きたい事がある。

 これを聞くにはむしろ、今の状況は好都合かも。ニヤリッ。


「優斗君もう1つだけ聞いてもらっていい?」

「桜さん、でも!」

「私は大丈夫だから。むしろこれからする質問は、今後の優斗君達の為になると思うから。」

「?分かりました。」

 優斗君が渋々引き下がると、陽菜ちゃん達もとりあえず座ってくれた。


「じゃあ通訳よろしくね。勇者召喚は魔物の驚異からこの国を守るためではなく、エールランド帝国と戦争をするためですか?」

「「えっ!?」」

「はっ!?」

私の言葉に3人が絶句する。


「優斗君お願い。彼の反応が見たいから聞いてみて。」

「わ・・かり・・・ました。」

 優斗君が質問する間、私は彼の表情の変化を見逃さないように、じっと観察する。


「・・・!?※※※※※※※※※※※※※※※※※!!」

 先生は表情見ないでも、反応で分かりやすいね。やっぱりそうか。

 でも私が見たかったのは彼、ヒューゴさんの反応。普段は表情をあまり表に出さないようにしている彼が、本気で驚いている。

という事は、騎士団は本当の召喚理由を知らされていないのかもしれない。王国も一枚岩では無いのかな。

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