fragment8 逃亡者
震えているのその指先 いいえ振動しているの
なぜ あなたが怖いから
怖いなら震えるのでは 怖さがわたしの身体を超越したから
超越者 僕は君に心から賛辞を捧げよう ハインツグデーリアンの武装兵が
わたしたちの部屋に押し入った わたしはいつものように手馴れた仕草で機関銃で射殺した
幻であるべき血が 僕とあなたを赤く染める
ソビエト赤軍第13軍の司令はすでに解任されているというのに
ほら やっぱりあなたは怖い人 君を守るために撃った銃弾は 兵士だけではなく
めくるめいてふたりの情念をも突き刺してしまったから 超越者は
逃亡者を祝福すると誓ってくれた 僕と一緒に逃げよう ベルラーシの三日月は
僕たちの逃亡を見て見ぬ振りをするか
ミンスクの北 ヴィーツェプスク クリヴィチの民族が住まう地 プスコフは
僕たちを迎えた ヴィソチノエコリツォで飾った女が 酒を注いでくれる
冷たかった心がすこし溶けたわ 今夜はあなたにすこしだけ素直になれる
そう 逃げるのは楽しい 超越者は僕たちに 束の間の激しい夜と
寝息を立てる安息を与えた
旅立ちに族長がくれた亜麻の衣で顔を隠す その逃亡者にお似合いの姿に
ほら 雪が降ってきた 積もりゆく雪は 逃亡者の肩と背を重くした
野生の鹿の群れが 僕たちの傍を走り抜けていく その後ろに
兵士たちの姿が見えた 銃弾が切れた僕は腰のレイピアを抜く
あなたは北に逃げて わたしがあなたは西に逃げたというから
あなたと過ごした日々は楽しかったわ そして幸せだった ありがとう
わたしはドイツのスパイ さようなら アウフヴィーダーセーエン わたしの愛する人
君の誕生日にふたり ビールで乾杯したね 何度、僕は震える君の肩を抱き締めた事だろう
走り去る君の後姿は 雪映えして まるで天使とお別れしているようだった 超越者が
与えてくれた祝福は ひとりだけの限定だったのか 君の好意に報いるために僕は北に走った
これからは ひとりぼっちの逃亡者
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