fragment3 砂嵐(ハムシーン)

 水のない河のほとりをしずんでいく くちびるにはさまれ

 とぎれない笛の声が日没をしらせている 栗色の羊たちは

 自らの色を忘れてうすあかく染まり 埃っぽい幾千の心を

 素はだかにして いのちを熱くしたままベドウィンたちの

 帰りを待っている サマルカンドへ続く果てしなく遠い道

 遥かな尾根づたい ねじれて振り向く寡黙な民族が見える


 夜を這ってきみじかな風がわたる 砂はこぼれ嵐となって

 つめたさのなかに溶け込んでいく ふいにはじける薪の音

 眠らずに昨夜のつづきから ふたつめのものがたりになる

 立ちすくんで媚びないハレムの女 だがチャドルのしたの

 柔らかな皮膚に食い込む墨絵は ほしいままに誘っている

 黒くつぶらな瞳 見つめながらすくむように差しだした頬

 と舌先は 砂漠の蜃気楼が見せた夕日で赤く染まっている


 砂の嵐になって身をひとつにする からまる何本もの手が

 たかまりを抑えながら 昔 部族を捨てた女の愛を動かす

 ひときわうつくしい見知らぬ身体から その振動が伝わる 

 抱きしめてほろ苦いテントの外で ロバの悲鳴が聞こえた


 インシャラーと呟く 薪の火はまだにぶくくすぶったまま

 それでもふたりの身体と心に似て熱くて荒い息をしている

 その曇った煙のひとひだに 中央アジアの暮らしが見えた

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