第54話 これはいくらしたのか怖くて聞けない…。


勇者パーティメンバーには先に魔術師団の所へ行ってもらい、私とルークは魔導技巧師の元へ向かった。


別の中庭に出るとそこは町にもあるような家がぽつんと一つあった。小さな池と水車もあり、中から小人でも出てきそうな可愛い家。




その家の玄関扉を叩くと中からどうぞーと声がした。

ハインツから言伝があったからかすんなりと入ることができるみたいだ。


ルークに引き連れられ、中に入ると外装からは思いも付かないほどの広い空間が広がり、色々な真新しい魔導具が所狭しと飾られていた。


ふよふよと浮かんだ緑の丸い球体。

ポーション容器も彩どりある。

縁が宝石に彩られた姿見鏡や新しい木で作られただろうピカピカの箒。ぐるぐる巻きの大きな絨毯も2.3本立てて置かれている。



「外の大きさとあってないよね…?3倍以上は広く見える…。それに雑貨屋みたいに色々置いてあるね。」

「空間拡張魔法だ。花型の照明器具があるだろう?あの魔導具が照明兼拡張の役割だ。」

「へー。」


「ふぉ、ふぉ、空間拡張魔法は初めてですな?」


唐突に声をかけられて私は体をビクつかせて驚いてしまう。何処にも誰もいないようだが、何処から声がしたのだろうと辺りを見回したが誰も居ないようでぞっとする。


ルークが呆れたように目の前を見つめて言った。


「ベム、出てこい。鼻が見えてるぞ。」


ルークが声を掛けると、私達のすぐ側からばさりと布が落ちた。そこには小さな目のまんまるな白鬚の小さなお爺さんがぽつんと立っている。


「ふぉ、連絡が来ていたから隠れておりましたがやはりまだ鼻が隠れておりませんか。

どうにも直りませんな。透明化は難しいですなぁ。」


ベムと呼ばれた小さなお爺さんは自分の丸い鼻を揉みながら被っていた布を弄っている。

チカチカと動く布は周りに合わせて同化している様だ。



ルークは少し困った顔をしながらも優しい顔で話しかけた。


「久しいな。相変わらずのようで何よりだ。言伝通り、魔導具を貰いに来た。」

「ふぉ、ほい、ルーク殿。久々ですな。どんな魔導具を探してるのですな?」


「その前に紹介する、この人がロティだ。

ロティ、魔導技巧師のドワーフのベムだ。

他にも技巧師はいるが、滅多に客人に姿を表さないんだ。」

「初めまして、ベムさん。ロティ・キャンベルと申します。ルークと一緒に魔導具見させて下さい。」


「ふぉ、いいぞ。見ておくれ。

森守りみたいにべっぴんな人ですな。」


ベムは白い長い髭を緩やかに撫でて穏やかな顔をしている。私は首を傾げて聞き直す。


「森守り?」

「妖精の別称だ。世界樹のある森を守ってる事ならそう呼ばれることもある。古い呼び方ではあるな。


ベム、とりあえずロティを守る様な物、魔力変換で攻撃魔法が使える物もほしい。後は魔導具を破壊できる物。後は適当に色々欲しい。」 


ルークがベムに伝えると、ベムは私達に背を向け部屋全体を見回していた。


「ふぉむ、とりあえず少し見繕いましょうかな。」


そう言うとベムはその場から離れてしまった。他の場所にもまだ魔導具があるのだろうか。

ここだけでも沢山あるというのに凄いものだ。


そんな事を考えているとルークが少し屈み私を優しく見つめながら話し掛けてきた。


「少し待とうか。そこの椅子に座っていよう。」


ルークが私の手を引き窓際の4脚ある椅子の場所へと歩く。簡易な小さなテーブルにも魔導具なのか黒猫の置物がある。


「うん、勝手に座っても大丈夫?」

「来客用だ、いつも使ってるから大丈夫。」


「よかった、なら座るね。こんなにいっぱい魔導具があるけど、私見ただけじゃどんなのかわからないなぁ…。」


ドレスを汚さない様に気をつけて座る。

スカートの中で見えないが、靴も新しい為少し足が痛む。

その足をくるくると回しながら辺りを見るとなんかの石や木の枝みたいなのもある。全部魔導具なのか、ただの石や木なのかもわからない。

ルークも私の見ていた石をじっと見て答えた。


「見ただけでわかるのは製作者だけだろうな。

鑑定魔法を使えるなら触っただけでどんな魔導具か解るし、魔力もどんなもんかわかるんたが、使える魔導師は希少で魔導師団にも1人、後はサイラスが使える位だ。俺は使えないんだ。」


ルークからそんな言葉が出ると思わず驚いて聞き返す。


「ルークにも使えない魔法があるんだ!?」

「最強魔導師と呼ばれてもそれはある。

特殊魔法は魔導書でも覚えられるものもあれば、

会得に時間がかかったり、特殊条件があったりする。

自分に合わない魔法は使えなし、その中でも鑑定魔法は生まれた時にその魔法を持ち合わせていないと後から取得はできない特殊魔法なんだ。


俺も色々魔法は使えるが、長年使っていないものもあるからいくつ使えるかは数えた事がないな。」


「そうなんだ、いやそれでも充分凄いんだけど、なんかルークの勝手なイメージで使えない魔法なんてないと思ってた。」

「確かに人より多くの時間があったから色々覚えたりしたのは確かだな。魔力も王国内の人族なら俺を超えるものはいないだろう。


人族以外ならいるかもしれんし、魔女とかは余裕で超えるだろうけどな。

今のロティの魔力はどうなんだろうな?

前世はかなりあった方だと思うが、測っていないからわからないな。わかるか、ロティ?」


私は首を横に振る。

前世だってかなりあった、とはわかるがとのくらいかもわからない。


「わからないや、どうやって測るかもわからないし…。と言うか魔力って無くなったら死んじゃうよね?


思い出したんだけどスザンヌに魔力をあげたのに何故私は死ななかったんだろ?」


「ロティは魔力暴走をしたことがあるのだが、仮に魔力満タンなら10。

枯渇したら0とすると魔力暴走は0.5以下余るギリギリの状態だ。

スザンヌに魔力をあげたのは魔力譲渡で満タンの状態から魔力自体を全て渡すと、魔力のタンクが消えるために魔力を使えない人間になるんだ。


魔力を渡された方は自分の魔力に上乗せで魔力が増えるが、渡した方が死ぬとその魔力は失われる。

元の体へと魔力が還ると言われてはいるが、死んでしまうと魔力の計測はできないからそこはわからないそうだ。国での実験を元にした話だから確実性はある。」


人体の神秘のような話で頭が混乱しそうだ。

私は死んだから魔力が戻った、と考えるならまた前世くらいの魔力があるのだろうか。

魔力が多かったとしても私は回復しか出来ないし、魔力が枯渇するほど回復魔法を使ったこともない。


回復役は治癒師とは違う。

治癒師は異常状態にも対応出来るし、回復の種類も多い。

回復役はせめて回復魔法3.4種類を使えるくらいだ。


「なんだか難しい話ね…。」


私が伏せ気味に答えると同時に足音と物同士がぶつかり合う音が聞こえた。

その方を見るとベムが手一杯に魔道具を抱えて歩いている。


大きめのテーブルに向かいそれらをゆっくりと置いたため、私達は椅子から立ちベムの所へと移動した。


「ふぉ、ふぉ、お待たせしましたなっ。

持ってきましたぞ。言われた通り、盾の腕輪と魔法攻撃変換用腕輪。主人に危険が迫った時に身代わりになるリングが3つ。

この兎の人形は番になっていて血を人形に染み込ませ、お互い相手の人形を持つと相手の状態がわかる物ですな。

この蜘蛛は探したい人の髪の毛を食べさせるとその人へと導くもの。後は姿を一時的に変えるピアスとか。魔封じの縄とか。魔導具破壊のピックとかですな。


合計ざっと1億〜2億Gはいきますが、どうせ陛下持ちならいくらでもいいですな。」


「い、いちにおくじー!?」


ベムの最後の言葉に私の目玉は飛び出しそうになる。

そんな大金の物を持っていくと言うのだろうか。


一生暮らせるだけの金額に眩暈が起きそうだ。

血の気が引いている私を見ずにベムはさっきの布を引っ張って言う。


「ふぉ、鼻は隠れませんかこのマントも中々ですな。

鼻は手で覆えば隠れますな。これもいかがで?」

「今言ったもの全てもらう。

後は魔力を測る魔導具はあるか?魔法攻撃用の腕輪を使うなら念のため測っておきたい。」


「ふぉ!5000段階で魔力を測るものがありますな。

前のは4000段階で測るものでしたが、記憶の魔女にヒビを入れて壊されたので、5000段階のものを作りましたな!

それでも3500以上だってほとんどいないんですがな。

ちなみに陛下は1600ですな。ただの人間は0。普通の魔導士なら100〜1500程。SS級なら2500前後ですな。」


ベムが話しながら棚に置いてあった青い水晶玉を持ってきてテーブルに置く。


髭を撫でながら目を閉じにやにやと笑っていて自信あり気な感じだ。ヒビを入れられたため、次は壊される事などないという表情なのだろうか。


ルークが私の前に出て水晶玉に触りながら私に言う。


「まず俺がやってみよう、以前に測ったのはだいぶ前だったな。こうして水晶に手を当て魔力を流す。」


手から流れる魔力が水晶に吸収されると、その魔力の光が水晶の中で泳ぐ。

10秒ほど経つとゆっくりと数字が現れた。


【3970】


「ふぉ!言ったそばから4000近い数字を出されましたな。3000段階のもありましたが、それなら壊れてましたな。危ない危ない。」


いつの間にか目を開けていたベムは驚いて声を上げている。魔導具は基本高い。

直せるとしても壊されるのは困るのだろう。


ルークが水晶から手を退けると数字も消え、元の青い水晶玉に戻った。私も水晶に触る。


「じゃあ私もやってみるね。」


水晶に触り魔力を流そうとした。



ッッパリン!!!


「へ…?」

「ロティ!!手が!」


私は水晶に当てていた手を退け水晶があった場所を見た。

そこにはハンマーで叩き割られたように壊れ粉々になってしまった水晶の破片だけがある。

更には壊れた水晶の破片が刺さってしまい、血が出ていた。


それを見たルークは口を開けて叫び声のない叫びをして慌てて私の手を取っている。


ベムに申し訳ないと気不味い顔でベムを見ると眉間に皺を寄せて興味津々に私と水晶を交互に見た。


「ふぉ……魔力を流し始めて1秒ほどでこれを壊すだなんて…ロティ殿は魔女かなんかですな?」


その鋭い眼光はまるで犯人を見つけた探偵の様だった。




❇︎スザンヌがロティに魔力をあげたのは魔力補充。自分の魔力を相手に分け与える。

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