第52話 言い忘れ防止機能魔法はないかな…。ないか…。
陛下が去った後、ルークは残った紅茶を眉間に皺を寄せて飲んでいた。何か文句を言いたげではあるが、追いかけないだけホッとする。
さすがにルークはしないと思うが、そんな事でもされたら私の心頭が強制終了しかねない。
ルークと話す陛下は本当に友達と話すような表情を見せていた。緊張しっぱなしではあったが、最後に見せたルークへの意地悪がなんとなくおかしくて思い出して笑ってしまいそうだった。
未だに胃は緊張が解けないのか違和感が残る胃を重たく感じながらも、私もゆっくりと紅茶を飲むと近くにいたハインツがスッとルークに近寄り、白い箱を差し出しながら柔かに話す。
「ルーク様、ロティ様、折角いらっしゃったのですからどうぞお菓子はお召し上がりください、といっても今ではなく自宅に帰ってからにでも。ルーク様、これを鞄に入れていって下さい。」
「すまない、ありがとうハインツ。」
「あ、ありがとうございますっ。」
ルークは白い箱を受け取るとひょいと鞄の中にしまった。
先程お菓子を私に渡そうとした時に断ってしまった為申し訳ないと思っていたが、ハインツは私ににっこりと微笑んでくれていた為慌てて会釈をして返した。
(ルークとお茶する時にでも頂けたら嬉しいなぁ…。)
と、密かに楽しみが増えて私も嬉しくなってしまう。
ルークが魔法鞄をしまうとハインツに改めて向き直り真剣な顔をして切り出した。
「ハインツ、俺達は王宮でまだする事がある。
パーティメンバーに正式に脱退の事を話す。」
「え!?」
唐突に言ったルークの言葉に私が反応してしまった。
そんな話聞いていない。
ルークが勇者パーティを辞めるなとど全く考えもしなかった。
私がルークと一緒に色んなことを出来たら嬉しいと言ったからだろうか。
前世の様にまた私のせいでパーティを抜けさせる事になってしまったのではないかと思い出し、血の気が引いてしまう。
勇者パーティに入りつつ、私との生活しながら冒険もするだなんて無茶に決まっていたのに何も考えていなかった。
私は居た堪れなくなり不安が表情に出てしまう。
ルークは青くなる私を不思議そうな目で見つめながら口を開いた。
「言ってなかっただろうか…?言った様なつもりでいたのだが…。
俺はロティが見つかり次第勇者パーティを脱退することにしていたんだ。
何十年も前から陛下や側近、勇者パーティのメンバーやギルドにも言ってある。」
「ルーク…言い忘れがよくあるよ…?
それ…結構大事なことだよ……?」
「それはすまないが…俺はロティの前世からロティと一緒に居たかったんだ。だが叶わなかった。
だから次こそはと思って、いない間に準備していたんだ。
その間に色々な人に何度もロティを見つけたら俺はロティ優先に動くことにすると言っていたからてっきり伝えたと思っていた。」
「勇者パーティは抜けないと駄目なの…?」
「何十年も俺はそこにいて、時には体をバラバラにされても戦い続けたんだ。もう無理にいることはない。普通なら20年いると長い方なんだからな。」
どこか切なそうなルークの表情に私の心臓がドキンと跳ねた。体をバラバラに、と言うルークの言葉に酷く恐怖を感じて、今はなんともないルークの体に視線がいってしまう。
ルークはその死なない体でどれだけ傷付きながら戦ってきたんだろう。私がいない期間の冒険を詳しく聞いていないのだ、ルークが負った傷は今、体を見てもきっとわからない。
その冒険譚を聴く時間も設けていなかったのが悔やまれる。
私の為に頑張ってきたルーク、が私のせいで頑張らせてしまったルークに脳内変換されるような感覚だ。
「それは……ごめんなさい…。」
謝った後に何に謝ったのか自分でわからなくなった。
ルークの好意に?体を傷付けてまで戦ってくれた事に?私がいなかったことに?
自然と出た謝罪の言葉にルークは眉を顰めたが、すぐに表情を戻し優しく私に言う。
「なぜロティが謝る?俺が好きでやっていた事だ。
とりあえずもう俺が勇者パーティにいる事はない。王国の為に役立ったと言っていただろう?
おしまいでいいって事だ。
もし王国の屈強の冒険者を集めて討伐しなければならないやつが来た時には手を貸すつもりだ。
王国を見捨てるわけじゃない。ロティの方が俺の中では1番優先順位が上なだけだ。」
「……うん、ありがとう。」
まだ蟠りが心に残っていたが、此処で不機嫌になるわけにも動けなくなるわけにもいかない。不満や悩みは後からじっくりルークに言おうと決めて気を取り直す。
ルークは私からハインツに視線を戻し、再び話し始めた。
「話を折って悪かった。
約束の通り勇者パーティは抜ける。今の会話の通り本当の緊急時には手を貸すが、基本は居ないもんだと思ってくれ。
今日はこの後アレックス達に会いに行ってからベムの所に行く。
その後は魔導師団にも顔を出す。そちらにも言っておかないと後からが面倒だからな。
その後はまた魔女に連絡するから通話機を借りる予定だ。」
「なるほど、しなければいけない事が多い様ですね。
畏まりました。」
ハインツが頭を下げるとルークはスッと立ち上がり椅子に座る私の元まできて、手を差し伸べてきた。
「行こうか、ロティ。」
「うん。」
手を取り立たせてもらうと腕に捕まる様にルークは腕を出してきたためそっと手をその腕に乗せた。
(いつもの手を繋ぐ方が…私は好きだな…。)
私には貴族の様な真似事は似合わないし、向いていないのだろう。だがここは王宮だ。
似合わなくとも向かなくとも多少の表向きは必要になる。
私の我儘は口に出すべきじゃない。
ルークが歩き始めるとすぐに私もその横を付いて歩いていく。そうして緊張塗れの中庭からエスコートして漸く退出したのだった。
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