第48話 苦しいよりも優しい方が好き。

ロティsideに戻ります。



夕食はルークが結構な量を食べたからか、予想に反して多くは余らず、この量ならと明日の朝ルークがまた食べると嬉しそうに言っていた。


食後の片付けはルークが魔法を使ってくれたため、私は何もせずに終わってしまった。


紅茶を入れ、ソファの前のテーブルに置く。

ルークも何も言わずとも移動してきたが、どことなくルークの様子がおかしい。なんというか、私をチラ見してそわそわしてる。


「ルーク?どうかしたの?紅茶いらない?」

「いやいるけど、その前にロティちょっといいか?」


そう言うと返事も聞かずに私を後ろから抱きしめてきた。

いきなりの事で少しドキッとしながらルークに尋ねる。


「ど、どうしたの?」

「どうもしないけど、抱きしめては駄目か…?」


耳の近くで響くルークの声は少しだけ切なそうに聞こえた。私は体に巻き付かれているルークの腕にぽんぽんと安心させる様手を当てる。


「駄目じゃないよ。でもルーク、なんか前よりスキンシップ多いよね?」


まだ全てを思い出してはないが、明らかに触られる数が多い。

前から手を繋ぐというのはよくあった。が、抱きしめるのに至ってはかなり増えてる。

キスにしても1日2日に1回だった気がするし。

ルークの表情は抱きしめられているため見えないが、

私に巻きつく腕が少しだけ締まり少し不満げな声を出す。


「ラルラロの町に行ったら、と色々我慢してた。

記憶を無くしたのにそんなにがっついていいのかと迷っていたのもにある…。

でももう今は100年以上触れてなかったロティにやっと触れる。

本当なら横抱きでもいいから一日中抱いて側にいて欲しいくらいなんだが。」

「ひぇっ、それはやめようねっ!?」


体重も気になるし、私だって好きに歩きたい時もあると思うし、そしてなにより人に見られていないとはいえ恥ずかしい。

私が拒否したからかルークは私の体から離れ、ムッとした顔でソファに座る。


一度キッチンに避難がてら人参ケーキでも取ってこようとくるりとルークに背を向けた。


「ロティ。」


名前だけ呼ばれぎこちなく、ちらりとルークを見ると不機嫌な顔のまま自分の太腿をぽんぽんと叩いている。


「うん?なに?」


どうしたいのか分からずとりあえず笑って何事もなかったかの様に返事をするとルークは眉間の皺を深くして言う。


「ここに座って。」

「ここって…。」


ルークが尚も自分の太腿の上を叩く。


(自分から乗れと!?)


意味がわかってしまった私は一気に顔の熱が上がった。

それを見たルークは眉間の皺が和らいだ。


「座らないなら俺が座らせるけど?」

「っ…!」


また強制的に風魔法を使う気なのだろうか。

まだ慣れない風魔法は多少怖さもある。キッチンに行くのを諦め、ルークの前まで歩く。


目の前に立つとすっかりルークは優しい顔をして私を待っている様だった。


「ルーク、隣じゃ駄目なの?」

「駄目。」


微妙な抵抗も許さない頑固とした意志に負けた気がした。


「…わかった。でもどうやって座るの?」

「ロティの好きなように座っていい。」


パターンは3つだろうか。

対面で座るか、横に座るか、ルークを背にするか。

少しだけ悩んでいるとルークが手を軽く広げた。


「早くおいで。」


待ちきれないルークは手までそわそわとし出している。


(えーーい!儘よ!!)


私はそのままルークに飛び込んだ。

ルークと向き合い対面で座ってしまったため、私は完全にルークとソファに乗っている。

恥ずかしくてたじろぐ私にルークは満面の笑みで私の体を自身に引き寄せ抱きしめてきた。


抱きしめられたことにより思った以上にルークに体重がかかってしまい気が気でない。

だがルークは体の隙間なく私を抱きしめ嬉しそうな声で言う。


「この座り方とは思ってなかった…。嬉しい。

本当にロティを離したくない。ロティは俺と離れたいの?」

「いや、あの、違うけど…。恥ずかしいんだって…。」


もぞもぞと動いた私にルークは擦り寄る。


「ロティ…いい匂いだよね。他の奴に嗅がれたのは腹が立つ…。」

「モーリスのこと…?こんなに近づいてないよ…。」


「それは良かった。

ロティ、今まで誰かと付き合ったりした?抱きしめられたりキスは?」

「えーと、付き合った人はいないよ。

抱きしめられたり…キス…は…あー…うーん…。

前に祖母と一緒に住んでいた時にまぁ、あの、ほら、うん。」


曖昧な事をぼそぼそと言っていると、急に勢い良く体が離された。

バランスを崩すかと思ったがルークががっちり肩を捕まえていてなすがままの状態の私。

ルークの私を見つめる目がまた猛禽類のようになっていて僅かに恐怖を感じる。


「なにをされた。」

「ずっと前だよ?12歳とかそんな歳だったような…。」

「何をされたか言って。」


いつもより低い声で私を問い詰めるルークは絶対的に引かないようだ。私は決心し!溜息混じりに話す。



「幼馴染のシーヴァって男の子がいてね、その当時はよく追い回されたり抱きつかれたりはしてたかな…。口にはなかったけど、頬にはキスされっ」


全ていい終わらない内に荒々しく唇を塞がれてしまう。

いつの間に頭を抑えられたのかわからないが、頭をがっちり捕まえられていて抵抗しようにも出来ない。

離れてはまたくっつき、微妙に角度を変えながら攻められていく。



離してくれないルークがそのまま私を食べるのではないかとぞくりと体が震えてしまう。



「っはぁ…。」


漸く離された時にはすっかり息が上がり、力が抜けルークにもたれかかった。

その間にもルークは私の頬や耳にキスを落としている。


「…ル、ルーク。ちょ、っと…落ち、着いて…。」


力が入らない状態でルークを押すが、びくともしない。

耳がぞくぞくする。少しの痛みがあり、齧られたのがわかった。その耳元でルークは苛立ったような声が聞こえた。


「頭が苛立ちですっきりして、落ち着いているが?」

「…っ私に、苛立ちを、ぶつけないで!」


息が上がってしまっているため、語気が強くなってしまった。私は怒っているわけじゃなくただ困ってるだけ。


だが息が上がり苦しくなっているせいで怒ったように聞こえたからかルークは動きを止め静かになった。その隙に息を整える。

力が入るようになり、身を寄せていたルークから離れ顔を見ると悔しそうな泣きそうな表情をしていた。


「ルーク、言葉が強くなったけど怒ってないからね。」


そう優しく伝えると今度は私の肩にルークの頭が乗る。


「ごめん…。苛立ちをぶつけるつもりはなかったんだ…。不安で、寂しくて、ロティが足りないだけ…。何でこんなに不足してるのかもわからない…。」

「記憶を無くしてるのを待つのは…不安だよね。

それはわかるよ…。私もそうだったもの…。」



ルークの記憶がない時、私は不安だった。

もし、記憶が戻っても前と同じじゃなかったら?今世は別に生きたいと言われたら?私は1人になるの?


そんな不安を今度はルークが抱えてる。

ルーク頭をそっと抱いて髪を撫でて言う。



「神様に先に誓えば、安心できるの?」


びくっとルークの体が震えた。ルークが頭を動かさそうとした為手を離した。

ルークは眉が下がったままだが、若干顔は赤らめているがもう泣きそうではなかった。


「本当にごめん…。我儘を言った…。急かすつもりはなかったんだ…。だから…それは記憶が戻るのを待ちたい…。」

「そう、ならもう少し待ってね。スザンヌにも少し相談してみようね。優しいスザンヌだもの。手伝ってくれるかもね?」


微笑んで言うと僅かに眉間に皺が寄るルーク。

私がルークから落ちないよう腰に手を添えて話し出した。


「魔女はロティには優しいからな。まだ言ってなかったが、魔女が保護されたのは魔女の血を狙い襲われそうになっていた所を、定期的に魔女のとこに行っていた俺と鉢合わせしたんだ。

幸い怪我などはなかったが、同じように血を狙う奴が何人も居たから魔女も大人しく王国に保護されたんだ。」

「魔女の血…?なんでそんなものを…?」


私が怪訝そうに尋ねるとルークは私の眉間を撫でながら話を続けてくれた。


「ただの噂から始まったらしいが、魔女の血を自分の体内に取り込むと力を得られると言う話が流れていたらしい。

実際に実験はしたが、何の効果もなかった。

何処から出た噂なのかもわからない。

時が過ぎれば風化するだろうと言っていたが、風化した今でも王都が気に入ったらしく保護という名目で10年間住み続けている。

魔女に頼る事もあるから王国的にはそれでいいらしいがな。」

「そうだったんだ。今はその噂はないの?」


「10年前の話だからな。一般的にはもう出回ってないし、実験結果も寧ろ悪い噂で流したから落ち着いている。」


それを聞いて一気にホッとする。

命まで狙われなくても血は回復薬では戻せないものだ。

取られすぎても死んでしまう要因になるものを黙って見てる事なんて出来ない。

きちんと後始末の噂も流してくれるとはさすがだ。



「ならよかった。ってここでする話の内容でもないね。」


こことはルークの膝の上だ、そんなとこでスザンヌの話をしなくとも良かっただろうが、スザンヌの話をして少しの時間で気が紛れただろう。

私が笑うとルークも微笑んでくれて、幾分落ち着いた様子だ。


私はルークの頬を両手で包みながら言う。


「いつでも私達は時間が足りないね。

もっと沢山話したいけど明日は王宮に行かなきゃならないし、あんまり夜更かしもできないね。」

「そうだな…。明日は忙しくなる…。でももう少しだけこのままでもいいだろうか…。というよりも、さっきは少し荒かっただろうから、キスし直したい。」


私の両手に挟まれたルークが眉を下げて言う。そんなルークが可愛くなってしまって私は頷く。


「…ん、いいよ。」



そう言うとルークは私の頬に手を当て、目一杯優しいキスをくれた。

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