第42話 色んな事をしたい、が正解かな。

宿から私の荷物を受け取り、最後にタリスに握手をしてからギルドに向けて歩き出す。


モーリスも最後に握手をと手を出してきたが、タリスに睨まれて止められたのとルークが変わりに握手をしていたので、モーリスは興奮状態で叫びながら見送られた。





タリス、モーリスと別れてからというものルークは口数が少なく眉間に皺を寄せている。


「ルーク、顔、強張ってるよ?」

「ん?ああ、すまない。」


「何か考え事?」

「…ロティはまだ記憶を全て思い出してないから今の感情でいい、教えて欲しいんだが…。


冒険者をまだ続けたいか…?」


「え?」


唐突的な質問に一瞬何を聞かれたのかわからなかった。

私が今まで冒険者として暮らしてきたからその生活が変わる事への配慮だろうか。前世の私がルークの冒険を止めてしまったのを気にかけたように。 



今までは冒険者をしないと生活していけなかったからしていたのだが、ルークと共に生活すればきっと冒険をしなくとも生きていける。

それこそ屋敷の庭の薬草で薬師としても私はやっていける。


いつかはのんびり暮らしたいと思ってはいたが、もっともっと後の人生の話だと思っていた。


私は少しの間自問自答を繰り返す。


ルークは中々口を開かない私を静かに待ってくれた。

歩きながら考えているため、既にギルドに着きそうになっていた所で私はルークを見つめ口を開いた。



「私ね、生きるために冒険者してたの。

いつかはのんびり暮らせればいいなと思ってたんだけど、今はちょっと違ってね。

ルークと暮らしたいのもあるけど、一緒に冒険もしてみたいの。

前世の私はルークと一緒に冒険もしたかった。

でも魔法も使えなかったし、何も出来ないまま死んじゃったから。今度はルークと一緒に色んなことを出来たら嬉しい。それが答えかな。」


私は思っている事を素直を伝えた。

グニーの事をどうにかしなきゃとも思うが、ルークと一緒に生きていたいのは記憶が戻っても変わらない様な気がする。


ルークは私の答えに安心したような表情を見せたが、まだ何か言いたそうに口を開きかけていた。

聞こうかと思ったが、ギルドに着いてしまった為一先ずは聞かずにギルドでの用事を済ませてしまおう。



◇◇◇



ギルドのカウンターに行く前にふと掲示板に目をやるとウルカが依頼書の張り替えをしていた。

チャンスと思った私はルークに手を離してもらいウルカに近づいた。

私が近づいても仕事に集中しているウルカは気付く様子が無かった為声を掛ける。


「ウルカさん!こんにちは。依頼書張り替えお疲れ様。」

「あ!ロティさん!お久しぶりです。あれからギルドにいらっしゃらないので心配していたのです。…ですが、なにやら大丈夫そうですね。ふふっ。」


ウルカは私を心配そうに見ていたが、ルークを見つけた途端に耳をピンと伸ばし顔はニヤついていた。

何をどう大丈夫と解釈したのか気になったが、ウルカはニヤついた顔を辞め、掲示板に貼ってある一枚の紙を指で差しにっこりと微笑んだ。


「これ、シュワールの森に出現していた大型の犬の様な魔物の件の報告書です。

他の冒険者数名にお願いして調査してもらいましたが、他の個体はいませんでした。

いつもの森に戻ったみたいでよかったです。


ロティさんの怪我も英雄様に治してもらったと聞きましたが、痛みとか跡とかは大丈夫ですか…?

脱獄したグニー・アレグリアにロティさんが狙われていると聞きました…。

魔狼もアレグリアのせいだと…なんでロティさんが狙われなくちゃならないのか…。私…ロティさんが心配で…。」


ウルカに体調を尋ねられた上、心配されてしまい内心焦る。痛みや跡は無いものの実は呪いをかけられました、とは言いにくい。


グニーの件はギルド内でも何故私を狙っているかを詳しく知る人が限られているのだろうか。


それこそ100年以上前に1度殺されていて、転生したからまた命を狙われていますと言っても信じられない話だろう。

公にしても混乱を招くだけだろうからそこはありがたい。



私は表情を崩さないように答えた。


「うん、傷は大丈夫だよ。確かにグニーに狙われているみたいだけど、ルークが守ってくれているから、大丈夫。


それでねウルカさん、話は変わるんだけど私この町から離れてルークと一緒に王都に住む事にしたの。だから今後は中々このギルドに来る機会も少ないと思う。

今まで沢山気遣ってくれてありがとう。

また何かあった時にはよろしくね。」


そう言うとウルカの表情は一気に崩れ、耳も尻尾も垂れ泣きそうな声で話す。


「そうなんですね…。

英雄様がロティさんを探しているとギルドに来た後からここを出て行くのではないかと察していました…。

英雄様ならきっとロティさんを幸せにしてくれると思います…。

また会いにきてくださいね。待ってますから。」


涙を目に溜めながらそっと笑うウルカにつられて私まで泣きそうになってしまう。


「ウル」

「うぉおおーん…。寂しいこっちゃあ…。」


背後から来た野太い鳴き声に驚き、私もウルカも涙が引っ込んでいってしまう。

見るとゲオーグが顔をべちゃべちゃに濡らし鼻水まで垂らして泣いているではないか。


「ゲオーグ…。その男泣きはどうなんだ…?」


ルークも呆れた様に言うが、ゲオーグは構わず大きな鼻声で泣きながら話す。


「娘みたいに思っとったロティが中々会えんくなるのは寂しいもんですぞぉお…。

ロティ…。ルーク様と喧嘩して行き場が無くなったらギルドに来いよぉ…。全力で匿うからなぁあ…。うぅ…。スビッーー!」


ルークがゲオーグを睨んだが、ゲオーグは全く見えておらず、自分の持っていたハンカチで鼻をかんだ。

綺麗な面で涙も拭うが止めどなく溢れる涙はその一枚のハンカチじゃ間に合わなそうだ。

私は鞄からタオルを出してゲオーグに差し出す。


「ゲオーグさん、あげる。使って?」

「うっっ…うぉぉお…ルーク様…ロティはいい子ですからな!俺が溜めに溜めた書類も時々手伝ってくれて…ズビビビビッッ。

ロティ…また遊びに来るんだぞ……。」


「うん。もう書類溜めない様にね?」

「……ズビビッッ。」


返事をしないところを見ると約束はできない様だ。

私は苦笑してしまった。

軽い溜息をつきながらルークはゲオーグに言う。


「ゲオーグ、魔狼の件は片付いたでいいな?あと聞く事もないだろう?」

「ズズッ、そうですな。調査も問題なかったですし。追加の聞き取りも必要なさそうです。だがしかし、くれぐれもお気を付けて…。」



グニーが何故私を狙っているかゲオーグは事情を知っているからの言葉だろう。

ゲオーグは泣き目ながらも眼光は鋭く、ルークを見つめ釘を刺している様だった。



ルークはそれに真剣な目で返して言った。


「もう2度と殺させはしない。ロティをもう失いたく無いからな。」



❇︎ルークは50年ほど前にロティの髪色や瞳の色、名前をギルドに伝えていた。

ただし混乱や説明が大変な為、前世から待っている事を知っているのはギルドマスター、サブマスターのみ。

代替わりの時にも忘れずに引き継ぎするように釘を刺されている。

冒険者新規登録の際必ずギルドマスターかサブマスターがチェックしているため、タルソマの町でギルドの登録をしたロティに、後日ゲオーグがルークの事を尋ねたが全く知らない様子だった事を王都のギルドに報告した。


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