第35話 貴女の1番は嫌い以外全て俺が欲しいのに。◆
◆◆◆
「……あ、あー。あ、痺れが抜けてきた。助けてくれてありがとう。」
「…いや、ロティを探していたら図書室の方から叫び声が聞こえたから慌てて探しに行ったんだ。1人にしてごめん…。」
ルークは私を広い救護室の1番出入り口から近いベッドに寝せて、私に異常状態回復薬を飲ませてくれた。
本来なら麻痺消しのポーションでよかったのだが、私が麻痺毒だと伝えられなかったので大体の異常状態を回復出来る方にしてくれたみたいだ。
ここの救護室は一部カーテンの仕切りがついているものの、殆どがそのまま寝かせる為のベッドのようでざっと20台以上はある。
この他にも救護室があるようだが図書室から1番近いこの救護室にしたみたいだ。
メインで使う救護室では無い為か私達以外の誰も居なくて物静かだ。
私の体はすぐに処置してくれたのもあり、麻痺が解けるのも早かった。
上半身を起こし手や足を動かすがもうきちんと動く。
ルークは安堵しながらも、まだ眉は下がっていた。
「いやいや。流石にギルド内で襲われるなんて想定外だよ。冒険者の集まる所で犯罪なんて聞いたことないよ?あっ痛…。」
手をパタパタと横に振った時に痛みを感じ、顔を顰めた。
手首を見るとどうやら強く握られ過ぎたみたいで赤くなっている。
ルークにもそれが見えてしまい、血相を変え急いで救護室の棚から上級回復ポーションを勝手に取る。
普段は誰かしらのギルドの職員がいるはずの救護室なのに、ギルドの館内アナウンスで全員招集をかけられていたため誰もいないのだ。
本来なら鍵付きの棚だが、職員がいなくなる前に事情を話したら一部の棚のみ解錠した後、呼び出しに向かっていた。私を攫おうとした件の呼び出しだろうか。
上級回復ポーションを持ってきたルークは私の手首に液を垂らしてくれる。
徐々に赤みと痛みが引いていく。
ルークは自分の手にもポーションを垂らすと私の頬や口元にも塗った。
「色んなところが赤い…。」
「上っ級回復っポーションっじゃなくともっ赤みならっ下級でっも消せっるよっ?もったいないよ…。」
眉を下げ怪訝な顔をしているルークに赤くなっているであろう頬にポーションをこれでもかと塗り込まれてしまう。
頬をむにむにと動かされて話しにくいが、そんな事はお構いなしにルークは手を動かしながら言う。
「人攫いががギルドに入っている時点でおかしい。
ロティに傷が残ったら困るからこれくらいはいいだろう。
あとは何処か痛むか?
異常状態回復薬を使ったが、結局は何を盛られたのかわかるか?」
「魔物に使う麻痺毒の葉の粉だね。
あれはそこらへんの森でも一応手に入るし、規制もされてないから知ってる冒険者なら持ち歩く人もいるよね。
私には少量しか使ってない様に見えたから多分使い慣れてるんだろうね…。
後はー…後ろから体を締められたけど、怪我まではしてないかな。口元も今塗ったし。
ありがとう、ルーク。」
頬から手が離された後、自分の体を軽くチェックする。
特に捕まえられていた辺り。体を動かすが、骨などにも異常はないように思える。
完全に回復したようで安心したが、ふと見たルークの顔はまだ曇っている。なぜ機嫌が悪そうなのか分からず狼狽えてしまう。
「どうしたの。ルーク…?」
「…ロティ。」
顔を崩さないまま、両方を広げるルーク。
私はベッドから立ってルークに飛び込んでいこうとしたが、肩を掴まれて反転させられ、抱きしめられた。
先程の男と比べるまでもない安心感と優しさにほっとする。
「まだこうして抱いてもいないのに、知らない男にそれをとられたのは腹が立つ。消毒しないといけないよね。」
「うん?消毒?」
ルークは私の肩に顔を近づけ私の首筋を指でなぞる。
息がくすぐったくて、肩が窄まってしまう。
髪を掻き分けたと思ったらそのまま首筋にキスを落としてきた。
「そん、なことはされて、ないよ。」
「されてたらその男を消さないといけなくなるね。」
体温が上がる感じがする。
恥ずかしいし、ルークの息がくすぐったいし、体がぞくぞくする。
体に回された手は程良い力で私を離さない。
「んっ!?ルーク!?」
一瞬首筋に痛みが走る。
すぐに首筋をルークにも吸われたものだと気付く首元から離れない唇とルークの吐息で背筋がぞくりと痺れてしまった。
ルークが体から離れるとまたもくるりと回され正面から抱きしめられる。
「はぁ…。本当はもっとゆっくり、じっくり時間をかけたいんだけど…なんかもうもたなそう…。
いや、でも、はぁ〜〜〜〜。」
頭の上で長いため息をするルーク。
なんとなく察してしまい私の顔の熱が上がった気がした。
少し離れたルークが私の顔を覗き込むとルークの顔も見えた。ルークの表情は紅潮し困った顔をしている。
困った顔が可愛くてクスッと笑いが漏れてしまった。
「ロティ。一回だけ…で終わればいいんだけど、キスしていい?今2人だしいいよね…?」
急に近づく綺麗な顔の口元を手で覆うとルークは眉間に皺を寄せた。
「2人だけど、ここはギルドの救護室で急患が運ばれる可能性もあるから今は駄目…。」
「…こんなに煽られているのに耐える俺も褒めてほしいところではあるけど…仕方ないか。」
ルークは言う事を素直に聞いてくれて顔をあげた。
ほっとしながら手を口元から離すと、すぐさまルークは私に近づき軽く触れるだけの短いキスを落とした。
「今はこれで我慢…。」
驚いてしまう一方、キスされるのは嬉しくて困ってしまう。
キスの後上唇を舐めるルークは言葉と裏腹に物足りなさが残る顔を隠し切れていなくて。
ルークからのキスを拒む選択肢はなく、もう2回ばかり短いキスを静かにされてしまった。
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