第34話 嫌だと言ったら嫌なのよ!◆

◆◆◆

ルークは道中私をあまり見てくれず、ギルドに着くなり私の手を離し早々とカウンターへ行ってしまった。

焦りすぎて私の事を忘れているみたいだ。


ルークには休めと言われたが、仕事依頼に目を通すくらいなら、と思いギルドの中を探検も兼ねて彷徨いてみる。


仕事募集があるにはあったが、冒険者が扱うものしかなく一般人の仕事募集はないみたいだった。

普通の仕事をするのなら、露店や商店などの求人募集を見るしかなさそうだ。



前にも来ようと思ったこの王都のギルドはどこかのお城のホール並に綺麗だし、広い。


一般受付カウンターだけでも10台、特別受付カウンターは3台ある。カウンターには各自ギルドの職員がいるため素早く対応してくれるようだ。


後は冒険者が自由に出入りできる所では簡易な食堂、鍛錬場、解体室、図書室、救護室、申請すれば使える会議室等があるようだ。


後はギルド職員と一緒じゃないと入れなかったり、高等級の冒険者じゃないと入室出来ない部屋もあるようだ。


ギルドの中は広くて案内版を見ないと迷ってしまいそうだ。ギルドのカウンターそばにあった室内案内板を見ながら、頭になんとなく各部屋を刻み込みながら目指す場所を決める。今は図書室にでも行こう。




私は図書室に入り、どの本を読もうかと背表紙を見て選ぶ。

魔物の詳しい図鑑や魔法の使い方初級、ポーションの作り方など色んな本がある。


初心者がギルドに来た時はまず初めに基礎知識の勉強が出来ればよいのだが、王都から冒険初心者は多く排出されないだろう。


貴族や商人が多く、冒険者は外から来る方が多い。

地方の冒険者ギルドに同じように本を揃えられればよいのだが、予算や場所の関係上多くは置けないでいる。


(怪我や亡くなる冒険者が減ればいいのにな…。)


そう思っても私はもう今世は魔法を使えない。

呪術や解術の次に得意な回復魔法も。


私はどの本を読もうか目線だけで探していると【薬草について①】と言う本が見えたので手に取り中を眺めた。

薬学を覚えられたらもしかしたらルークが傷を負った時なども痛い思いをしないで済む上に、生計も立てられるのではないかと淡い期待を込めて、その本の中身にのめり込んでしまった。






ふいに肩を叩かれ、びくっと驚いてしまう。


完全に本に気を取られ、椅子にも座らずその場で立ち尽くし読んでしまっていた。

叩かれた方を見ると知らない男性2人がいた。

邪魔になっていたのだろうかと思い、私は慌てて本を閉じた。


「すみません、気付かなくて。すぐに退きます。」

「あ、違うよお姉さん、本は別にどうでもいいんだけど、声を掛けても反応ないから肩叩いちゃった。ごめんね?

お姉さん綺麗だからさ、俺達と食事でもしない?」

「料理も酒も美味しい店知ってるから、行こうよ。」


「…。」


ルークと一緒に居たから安心し切って顔を隠す事を完全に忘れていた。


私はそわそわ落ち着かない2人を半ば閉じた目で見つめて言う。


「申し訳ないのですが、邪魔になっていないのなら失礼します。連れがいますので。」

「え〜?ちょっとだけだしさ?その連れって人は女の子かな?一緒でも全然大丈夫だよ!」

「そうそう、どこにいる?一緒に探そうよ。」


「……。」


本を元にあった場所に戻し、その場を立ち去ろうとすると、男の1人に肩を掴まれて動けなくなってしまった。肩を掴んでいる男を睨みつける。


「っっ。ツレと言っても恋人ですから。邪魔しないで頂けます?離してください。」


男達は同時に「えー!」と声を上げた。

だが、まだ肩を離してもらえない。


「男かー…じゃあそいつはいいや。お姉さんだけで!」

「大丈夫、大丈夫!楽しいとこにも行くからお姉さんだけ行こうか!」


「そうそう!俺らと一緒だから怖く無いよ。じゃ、行こうか。」


肩に力が入れられ無理に歩こうとするのを必死で止める。

此処で連れて行かれたらまずい。

魔法なしでの対処も何も考えていないし、咄嗟にでは何も出来ないだろう。

逃げようとすると両手首を掴まれ阻まれてしまう。


「行きません!!嫌よ!離して!」

「どうする?抵抗されんの面倒だな。この女は逃したく無いなぁ。」

「あれ使ってちゃちゃっと行こうか。時間が惜しい。」


私を阻む男はニヤついた。

もう1人の男が鞄から布の袋を取り出していた。

その布の袋の中身は緑色の粉だったが、見た事のあるもので一瞬にして血の気が引く。


以前ギルドの依頼にこの葉を採取したがあり覚えている。

魔物の動きを制御するための麻痺毒の葉の粉だ。

咄嗟に出来るだけ大声を出した。


「きゃーーー!!!っっぐっ。」

「こいつ!!」

「チッ!」


叫ぶ途中で口を手で塞がれた。

口を塞がれている手は結構力が入っていて痛い。

しかも叫んでる途中で男は素早く私の後ろに周り、後ろから抱きついた様な格好になってしまっている。


気持ち悪いし、顔や締められている体が痛い。

もう一方の男は麻痺毒を布に少量付けて擦り合わせていた。


「一瞬離せ。」

「おう。」


男達は短い会話の後私の口を覆う手を退け、その布を私にあてがった。

咄嗟に吸わないようにするが、息を止めているのが段々苦しくなり思いっきり吸ってしまった。


「……!!」


全身が痺れるような感覚で力が抜ける。

後ろから抱きついていた男が私の体を支えた為倒れずには済んだものの、本格的にまずいと本能が告げていた。


「早く行こう。裏口からならいけるだろう。」

「ああ。」


ひょいと男の肩に担がれてしまった私。

余りにも慣れている様子に恐怖を覚える。

表情すら変えられないのに涙だけ溢れてきた。


(嫌だ、助けて…ルーク…。)


男達は図書室から廊下に出ようとしている。廊下を見ながら男の1人はもう1人に言う。


「まだ誰もいない、さっさと」

「その人を離せ。《突風》」


「「うわ!!!」」


声と同時に突風が吹き、男達と担がれている私も宙に浮かされてしまったようだ。


私を担いでいた男がバランスを崩して体から離れる様な感覚があり、私も宙に放られ体が不安定になった。

だが痺れている体では対処が出来ない。

自分の髪が目に入りそうで瞼だけはなんとか閉じた。


ふと体が誰かの腕の中で抱き抱えられたため、恐る恐る目を開けるとそこには鬼の形相を男達に向けるルークがいた。

眼球を動かし男達を見ると、小さい竜巻の中をグルグルと回されていて動けない様子だ。


「……ぅ。」


声を出そうとしたが痺れていて無理そうだ。

表情すら動かせない私がルークに麻痺毒を盛られたと伝える手段がない。

どうしようか考えているとルークが私に尋ねてきた。


「ロティ!!大丈夫か!?怪我は!?」


心配するルークに伝えたいのに動かせるのは辛うじて眼球と瞼だけ。

私は何度か瞬きをするとルークは心配そうな顔を更に歪ませた。



徐々にバタバタと人が集まってきたようだ。

集まっているのはギルドの職員らしく、皆腕にギルドのマークが入った腕章を付けていた。


ルークは1人のギルドの職員に向かって急いで話す。


「救護室を使わせてもらう。あと、この人がさっきの叫び声の主だ。なにかの毒を盛られた可能性がある。体が動かないようだ。」

「毒!?では急ぎましょう!救護室はこちらです、異常状態回復薬もありますので、私が一緒に行きます。」


女性の職員が案内しようと前に出たがルークは止めた。


「場所はわかるから大丈夫だ。

ギルドに人攫いが侵入されているとバレたくないなら早急に対処した方がギルドのためだろう。こちらはいい、対処を頼む。他の薬も必要ならば使う。」

「…お気遣いありがとうございます。はい、こちらの失態ですので、気になさらずお使い下さい。」


「分かった。」


ルークはそう言うと私を横抱きのまま急いで救護室へと向かってくれた。

私は痺れて動けない中、不謹慎にも胸を高鳴らせてしまっていたのだった。

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