第36話 私だって欲しいんだよ。◆
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「ふああー…疲れたあー…」
倒れ込む様に私は【宿屋詠う美獣】の部屋のベッドに身を沈める。
ギルド内で攫われそうになったことは目撃者がルークとギルドの職員だけだった為、今は内密にしてほしいと頼まれた。
回復し救護室を出た後、待ち構えていたギルドの職員に攫われそうになった経緯を聞かれた為、救護室を案内してくれようとした女性の職員に手早く話した。
あの男達はギルドの地下にある牢屋に一時的に入れられているらしく、今日中に事情聴取をするらしい。
本当ならギルドマスターが行わなければならないことなのだが、生憎今ギルドにいないようだ。
私はまた明日、詳しい事を話にギルドに行かなくてはならない。
ギルドを出て軽く夕食を済ませて宿に戻ってきたがクタクタだ。
このまま寝る事が出来ればさぞ気持ちが良い事だろうが、入浴をしたいがため寝てはいられない。
ほんの少しだけ休憩したくてベッドに飛び込んだものの、体が思った以上に疲れているのを再確認させられた。
「ロティ…せめて靴は脱ごうか。」
ルークは見兼ねてベッドから伸びる私の足を掴んで靴を脱がす。
飛び込んだが靴はベッドに乗せていなかったためすんなり脱げた。
「ありがとう、ルーク…疲れたねぇ。」
私は足をくるんと丸め体に引き寄せ、目を閉じた。
ルークの事も、私の今後の事も、攫われそうになった事も、考える事が沢山あり頭から煙が出そうだ。
顰めっ面で目を閉じていると、ベッドの軋む音と同時に頭の近くが凹む様な感触とシーツの音が聞こえた。
「ん?」
目を開けるとルークの手と手首が見えた。
私の上にはルークの顔。
覆い被さる体勢になっている事に気付いた。
体勢に恥ずかしさを覚えるが、ルークは何処か思い詰めたような顔をしていた為、恥ずかしさよりも心配になってしまった。
顔と手だけ動かし、ルークの頬に触れると困ったようにルークは笑う。
「…ロティは俺を煽ってる自覚はある?ない?」
「…いや、あの、煽ってはない…から、ない?」
そんな事を言われるとは思っておらず、辿々しい答えを口にするとルークも私の頬に触れてきた。
僅かに私の頬よりもルークの手の方が暖かい。
切なそうなルークの瞳は焦る私を写していて、緊張と恥ずかしさでじわじわと心が燻ってしまう。
「前世は…幸せにできなかった分、今度は沢山の幸せをあげたいし、貰いたい…。
なのに俺の不甲斐なさと不安から……後はロティが無意識に煽るからもあるけど、ロティを早く全部俺のものにしたくて堪らない。
ドロドロに甘やかして俺だけの事しか考えられないようにして…。余す事なく愛したい。
……余裕なくて…ごめん。
でもそれは覚えていて欲しい…。今すぐじゃなくてもロティは俺のものにしたい。」
ルークの言葉に私の心臓は早くなる。
私もルークもいい大人だ。ルークの言っている意味はちゃんとわかる。わかる分、顔も体も熱くなって仕方がない。
頬を触っていた手ともう一方の手をルーク頭に伸ばし、そっと引き寄せるとルークは抵抗する事なくすんなり私の胸元に頭が降りてくる。
と、同時に体もくっつく。
少しの息苦しさはあるが、それもまた心地良い。
顔が見えないルークの頭を撫でながら出来るだけ優しく言う。
「ルーク…。
私はルークの事、愛してる。
だからルークを私のものにしたいと思ってるの。
嫉妬して呪いをかけちゃう程、離したくなかった…。記憶が戻って、私の事をまた思い出してくれて。私は嬉しかったの。
私はルークには何をされてもいいよ。
恥ずかしがるかもしれないけどね。
我儘を言ってしまうと、神様に誓った後がいいな。
神様に私はルークのだからって言っておかなきゃだし。」
ルークからクスッと笑いが漏れたと後、するりと私の腕から抜け体を起こしたルークは、私の手首を掴みそのまま私の頭の横に置く。
見下ろされて動けない私にルークの顔が近く、その顔は妖艶な笑みを浮かべている。
「早く神様に誓ってしまいたいね。」
それだけ言うとルークはキスをしてきた。
触れるだけのキスを短くされたと思ったら、噛み付く様に何度も角度を変え求められる。
前世ではこんなキスはしたことがなく、されるがまま。
息が苦しくて口を開けるたびに、絡まれて溺れてしまいそうになる。
やっと離されたと思ったら私の息はすっかり上がってしまったが、まだ物足りなかったルークにその後も唇を貪られた。
結局、昨日の夜は充分に堪能された挙句、同じベッドで寝たいと強請られ一緒に寝る事になった。
野宿中は隣同士で寝ていたとはいえ、一つのベッドのサイズではなかったからそこまで恥ずかしくは無かったものの、ベッド一緒に寝るとなると結構意識してしまうものだ。
勿論、神様に誓っていない為キス以外にはなにもなかったものの、ピッタリと体を抱きしめられて何度か軽いキスを落とされながら眠りにつく事になった。
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