第22話 どんな君も見ていて飽きない。
タルソマの町から歩き、男の家に向かった。
勿論ロティの手は離さず。
男の父親を見た時のロティは何を考えているかはわからないがクスッと笑っていた。
懐かしい笑顔に胸がドキッとした。
そういえばまだ笑顔を見ていなかった。
前は沢山の笑顔を見せてくれたロティ。
今は赤い顔が殆どだ。
紅潮している顔も可愛いのだが、やはり1番好きなのは笑顔なのだと自覚する。
男の家をまじまじと見るロティは欲しいものを見る様な目で見ていた。こういう家に住んでいたのか、或いは住みたいのか、それとも何か他の事があるのか。
ロティが考えている事を知りたくて聞こうとしたが辞めた。
今はまだロティ自身の情報が足りなすぎる。
長い話はロティと2人きりの時でもできる。
今はあまり多くに触れずやり過ごそう。
その方が事が早く進むだろう。
◇◇◇
ロティが花の加工をしている時はじっとそれを眺めた。
ロティの使う魔法は優しくて好きだ。
魔力を込める時の優しい緑色の光の粒が柔らかく心地良い。昔から変わらないものに安らぎを感じた。
すり鉢の中のクリーム色のもったりした液体を見ながらロティは口を開いた。
「よし、これで完成!アリリセ、うまくできたよ!
妹さんまだ寝てるかな?
ルマさんと一緒に薬を塗りたいから呼んできてもらえる?」
ロティにそう言われ男は了承するとドタバタと外に出て行った。
ロティと2人、静かな空間になる。
俺はじっとロティを見つめた。
ロティは男が出て行った扉を見つめていたが、ふと俺の方を見たが目が合うと直ぐに逸らされる。
2人きりのなのと、ロティが俺を意識している事を考えるともっと欲しいと欲が湧く。
ロティの隣で作業工程を見ていた為、直ぐに手は届く位置だ。
無防備な左手を掬い自身の口元に寄せ、チュッと軽く音をさせ左手の甲にキスをした。
「なんっ!」
「この依頼が終わったら、話したいことが沢山ある。俺と一緒に来て欲しい。」
文句を言われると思い、真面目な口調で言う。
顔が紅潮し、少し戸惑う顔をしたロティは素直に了解してくれた。
「わ、かりました。私も色々聞きたいですし。」
「それと。」
「?」
「敬語やめて欲しい。後、名前、ロイヴァじゃなくルークと呼んで。」
最初から気にはしていた。
ロティからの敬語はどうも距離を感じてしまい使って欲しくない。名前だってあの男は呼び捨てだったろうに。
愛しい人から呼ばれるのにさん付けなどいらない。
ありのままで話したり、名前を呼んでもらった方が打ち解けるのにもいいだろう。
なのにロティは渋った。
「年上の方に敬語なしですか…。しかもロイヴァさんって凄い方?英雄さん?なんですよね…?それって大丈夫なん」
「ただの英雄の1人に過ぎない。称号など俺にとってはあまり興味がないからな。そうだ。敬語使ったらその都度頬にキスする。」
「ひょぇ!わ、わかった!ルークさん!
「さんもいらない。ルーク。」
「う、ぅ。」
「出来ないならさん付けする度に抱きしめる。」
「ル!ルーク!!これでいいね!?」
「今抱きしめるのも頬にキス出来ないのは残念だけど、それでいい。ロティ。」
多少強引だったが成功はしたようだ。
思わず笑みが溢れる。頬にキスが出来ないならとまた左手の甲にキスを落とす。
慌ててロティは手を引っ込めようとしているが、勿論きっちり握って離さない。
「待って待って待って!キスしないはずじゃ!?」
「ん?頬にはな。他にしないとは言ってない。」
このまま手を引っ張り俺の元に引き寄せたい。
だがそろそろ男も戻ってくるだろう。可愛い人が困らない様にしないと嫌われるだろうか。
そう考えていると玄関のドアの音と足音がした。
名残惜しいがゆっくりとロティの手を離した。
◇◇◇
ロティが薬を塗るために部屋を出ると男と2人きりになるが、俺から話す事は何もない。
男はちらちらと俺を見ている。
俺は目を閉じて寝たふりをしたが男は尚も熱い視線で見てきた為、何もしていないはずなのに心労がたまる様な気がしてならなかった。
暫くするとロティが部屋に戻ってきた。
閉じていた目を素早く開けるとロティは軽く微笑んでいた。きっと薬は上手く塗布出来て、瘴気の跡も消えたのだろう。
男の安堵のため息がもれたと思ったら、勢い良く椅子から立ち上がった。
「ありがとう!!ロティ!本当に妹の命の恩人だ。
今は報酬金通りにしか渡せないけど、お金を貯めてきちんと報酬を払いたい!
それにロティが困った時には今度は俺が手伝いたい!薬草採取とかも手伝うから!」
エルダーの花の採取と加工なら結構な高値なのだろうに言葉尻がおかしい。
ロティが受けた依頼なのだから、深く突っ込みたくはない。
「アリリセ、頭上げて。今回はこれでいいんだよ。
シラーも無事に治せて良かった、お金の事もルマさんから聞いたから。
家の手伝い、頑張ってね!
後は、シラーが森に行く時には必ず一緒に行動してね。
何が危険なのか教えてあげて。
私の事は気にしないでいいよ。また今度、どこかでパーティを組む機会があったら一緒に頑張ろう!」
ロティは男を宥めたが、あまり効いていないようだ。
「でも………足りなくて…。」
「気にしないでって言っても気にするなら、困ってる人がいたら助けてあげれたら嬉しいな。
ギルドの掲示板とか見ても、町を見ても困ってる人はいるでしょ?だから、ね?」
子供をあやすかのように優しく話すロティに助太刀すべく俺はすかさず立ち上がり、ロティの肩を引き寄せて言った。
「それに、次からは俺がロティの側にいるから困る事は無いと思うぞ。」
「…ルーク、距離感おかしくない?」
「全然おかしくない。寧ろこれでも足りないくらいだが。」
ロティの髪を掬いキスする。これくらい見せつけておけばこの男に関しては大丈夫だろうか。
だがロティは恥ずかしいためか顔を赤くし、微妙に肩に力を入れていた。
「あー…そうか。ロイヴァさんが居ればロティは大丈夫なのかな?敬語じゃないし、名前も呼んでるし。いつの間にそんな仲良くなったのかわからないけど。」
男は鼻水と涙を溢れさせながら納得した様だが、ロティの顔は更に赤みが増していた。
本当ならこれだけじゃ全然物足りない。
ただの挨拶の様な触れ合いに満足出来ずに俺はロティに想いを募らせたのだった。
❇︎個人の依頼は内容により報酬額が変わる。
エルダーの花、加工までなら人数と日にちにもよるが、1人あたり15〜20万Gはする。
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