第21話 相手に期待するなら自分も相当に。
軽く唸るロティも可愛い。
俺は暖かい気持ちでロティに優しく笑顔で話し掛けた。
「おはよう。ロティ。」
きっと。
(?!おはよう!ルーク!!会いたかった!)
と驚いて笑顔で抱きしめてくれるかもしれない。
計り知れない期待でロティを見る。
「………ん???誰???どうなってるの??」
ロティは驚きながら硬直し、更には俺の膝枕に気付き体を起こそうとした。
「な、な、な、なんでこんな体勢に!?すみませ
「ちょっと待って、今誰って言った?ロティ、俺の事覚えてるか?ルークだ。」
素早く頭を押さえつけた。俺だとわかって欲しくて焦ってしまう。
だがロティはたじろぎ、あり得ない発言をした。
「え…と?どこかで会いましたっけ?」
一瞬にして世界が崩れ落ちる様だ。
高揚した気分は地に落ち、血は一気に失せていく。
(俺の事を忘れた?覚えていない?まるで昔の俺みたいではないか。今度はロティが記憶を無くしてしまったのか?)
ショックを受けて固まってしまう。
すると、ロティが再び起きようと体に力を入れている。
「と、とりあえず起きたいので、いいですか?」
押さえていたロティの頭への力を抜いた。
するっと起きたロティは上体を起こし、ショックで固まっている俺の顔を見てきた。
穴が開くほど見つめているのに思い出せないのか…。
「ロ…ロティ。大丈夫か?」
「アリリセ!!ごめん!!私気を失ってたよね!?無事!?」
男がロティに話しかけるとロティは俺を放置して男の所へ行ってしまった。
あろうことかロティの手は男の頭を掴んでる。
さっきまでは血が引いていく感じだったのに今度は汗が出そうなくらい熱くなる。
俺を差し置いてそんな男と会話をして。
嫉妬でその男を焼いてしまいそうだ。
頼むから手を離してくれ、と思った時、ふと自分の事も思い出す。
(そういえば、俺もこうだったのか…?ロティはこんな想いをしたのか…?)
だとしたら、今ロティは本当に記憶がないのではないか。
やられたらやり返すという精神のロティではない。
記憶がないのならこの行動もある意味納得はできる。
ついでにもう一つ思い出した。記憶の魔女の言葉。
魔女の生まれ変わりの手伝いをする時にロティは魔力が使えなくなっていた。
来世にも何かしらの影響がでるかもしれないとも、魔女は言っていた。
それが記憶に関することではないのだろうか。
記憶がないのか、覚えていないだけなのかはわからないがその線が濃厚になる。
だが2人の会話する様子を黙って見てられるほど俺は寛容になれなかった。
気づけばロティの腕を引っ張っていた。
よろけて転びそうなロティを後ろからがっちりと抱きしめる。一瞬怒っていた事を忘れそうになったが、気をしっかり持つ。
「この人に触れないように。ロティを触っても触られてもいいのは俺だけだ。」
男を強く睨むと蛇に睨まれた蛙のようだった。
ロティは慌てている様子で焦りながら話す。
「ちょ、ちょっと待って、私ロイヴァさんとお会いしたことありまひた??そして一回離して頂けると有り難いです!私触っていいなんて言ってませんし!」
噛んだロティが可愛くて仕方ない。
いっそこのまま俺の屋敷に行こうかと本気で考えるが、最後のはへこむ。確かに触っていいとは言っていないが…。
抱き締めている腕に力が篭る。
自分が思っているよりも随分苦しそうな声が出てしまった。
「……離すのは嫌だ。もう絶対嫌。無理。」
ロティの右肩に頭を乗せ顔を伏せた。
まるでいじけた子供のようだ。
ロティが魔力暴走で呪いをかけるほどの感情が溢れたのが今になってはっきりわかってしまった。
何度後悔をしても足りない。
大人しく捕まってくれているロティに僅かに安堵する。心の片隅や体が多少俺を覚えてくれているのだろうか?そんな淡い期待すら抱いてしまう。
男が俺の事をロティに話している様だが、ロティはあまり勇者などには興味がないみたいだ。
そういうところは全く変わっていない。
少しだけ力を緩め、話に加わる。
「まだ勇者達は帰還中だ。ロティの連絡を受けたから俺だけ今日魔法で戻ってきた。王都のギルドから情報をもらって急いでタルソマの町に行って、改めて情報を聞いたらシュワールの森に行ったっていうから追いかけて来た。」
「わ、わたしの連絡?」
「ロティの特徴と名前は何年も前からギルドに言ってあったからな。来たら俺にすぐに伝える様にと。
なのに古代竜のせいで情報が今日になった。」
ロティと男はびたりと固まって止まってしまった。
流石に記憶がない、覚えていないとして、そんな事を言われたら訳がわからないだろう。
ましてや俺は英雄と呼ばれている存在だ。
そんなやつが1人の女性の元に来て、この人を何年も前から探していたみたいな事を言われたら困惑するのも分かるが、話せば長くなる。
もっとゆっくりロティと話がしたい。
ロティの顔はほぼ見えないがパンクしてしまいそうな気がした。
そう思っていたらロティが早口で話し始めた。
「よし、わかった!全然わからない事がわかった!アリリセ、急ぎ気味で帰ろう!んぐっ!!」
俺はまた腕に力が入ってしまった。
置いていかれる気も逃すつもりもないが、不安になってしまう。今の俺はここ数十年の中で1番情緒不安定だ。
ロティは慌てて早口で俺に弁解してきた。
「ロイヴァさん!この男の子、アリリセって言います、この人の依頼で私はエルダーの花を取りに来たんです!
妹さんがさっきの魔狼の瘴気にやられて、体に瘴気跡が出来ているんです。
エルダーの花は摘んであるので、後は帰って妹さんにエルダーの花を加工して塗ってあげたいんです。
だから1度一緒に私達と来て頂けますか?
勘で申し訳ないのですが、きっとロイヴァさんの話を理解するのはこの依頼が終わってからの方がいいと思うので…。そして心臓がそろそろ爆発しそうなので離して欲しいでつ…。」
また噛んだ。ゆっくり話していいのに。
可愛くて堪らない。感情の波がざばざばと俺の中で大荒れ状態だ。名残惜しいがロティから一度離れた。
今のロティにも多少なりとも俺を意識させられている事に嬉しくなり、口角が上がってしまう。
エルダーの花の事は知っていたし、加工の事も予測していたからさっさと終わらせてロティと2人になりたい。
ロティの言う事に頷きながら言う。
「…わかった。じゃあ、さっさと帰ろう。そこの魔狼も弄りたいから回収する。」
この魔狼は調べる必要がある。
フェンリルに進化出来る個体はこの森では育たない。
なのにここまでの大きさの奴がいるのは不自然だ。
あの女の差し金かもしれない。召喚士サモナーのあの女なら魔物を操る事が出来る。
毛で覆われているが召喚証があれば決定打だ。
あの女の召喚術も見た事があったから俺は知っている。首に跡を残す事も。
あの女の事を考えると気分が悪くなる。
そんな気分もとりあえず一緒に魔法袋の中に入ってしまえと念じる。
ニュルンと魔狼を魔法袋に入れ、ロティのところへ戻る。
足元に魔法陣を展開させた。
さっさと事を済ましてもらおう。
逃げ出されない様に手を取る。
何かを言いかけたロティの声は興奮する男の声に掻き消されてしまった。男は転移魔法だと気づき目を輝かせている。
ロティは怖いのか無意識に手に力が入っていた。
「転移魔法を使える魔導士は限られているからな。
さ、タルソマの町の入り口でいいか。」
そういうと俺は返事も聞かずに転移した。
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