第20話 ずっと会いたかった。
タルソマの町に着くとギルドにさっさと向かう。
途中知らない女から話しかけられるが全て無視した。
他の女に構う時間があるなら一刻も早くロティと再会を果たしたい。
ロティがこの町にいるかもしれないと思うと昂ってしょうがない。
今までにないほど足取りが軽くなる。
◇◇◇
「なんだと?いないだと?」
「はい、昨日組まれたパーティメンバーの方と一緒に、シュワールの森へエルダーの花を採取に行かれております。
ロティさんなら今日中に帰還されると推測しております。」
ギルドの職員の猫の亜人は笑顔で俺にそう伝えた。
エルダーの花、そんな普段使わない様な花の採取に行き、しかも当日中に帰れるのパーティなど、王都でもほぼ聞いた事がない。
ロティの力はもう戻っているのだろうか。
それにしてもそんな芸当ができるロティの事を、この受付の猫の亜人は知っているようだ。
「それはパーティメンバーの採取依頼か?」
「はい、そうでございます。依頼主のご家族様が体に瘴気跡が出ておりまして…。」
「なら加工も必要だろう?あの花のままじゃ使えんだろう。」
「あああああ!それを忘れていたんでした!」
受付の猫は目を見開いて絶叫していた。
唐突な大声に内心驚いたが、表情には出さなかった。
忘れていても不思議ではない、あれは滅多にそういう使い方をしないのだから。
オーレオールに聞いた話だとロティは薬師も出来ると言っていた。
大方この受付の猫に言われなくても、ロティは採取ついでに加工してやるつもりなのだろう。
簡単に優しい事をしてしまう、まだ会わないロティに心を綻ばせながらも、まだ叫んでいる受付の猫に話しかける。
「叫んでいる所悪いが、ロティは加工の事まで知っていると思うぞ。」
「うぅぅ…。そうでしょうか…?英雄様…。」
涙目の受付の猫は俺をじっと見つめる。
あまり慰めは得意ではないが、ロティの事を信じているから言える本当の事を受付の猫に話す。
「嘘は付かない。それにロティは優しいからな。言われなくともそこまでやると思う。」
「うぅ…。ロティさんを信じます…。
取り乱して申し訳ありません。」
ぺこっと頭を下げた受付の猫のその頭を、後ろからガシッと掴んできた熊のような大男がにっこりと俺に向け笑みを見せる。
「ルーク様、久しいですな。古代竜との交渉戦お疲れ様です。」
「ゲオーグ。すっかりむさ苦しくなったな。小熊が大熊になっているではないか。ギルマスになっていたのか。」
「ルーク様に対人を挑んだ小熊を覚えていて下さって光栄ですな!生まれ故郷なので頼まれてしまったら断れなくて…。ロティを迎えに来たので?」
「そうだ。今からシュワールの森に向かう。」
受付の猫はゲオーグの手を払い除けながらもう一度姿勢を正し頭を再び下げた。
「気をつけていってらっしゃいませ。今シュワールの森には大型の犬のような魔物の目撃情報もありますので。ごもっとも英雄様なら一撃にも満たないかもしれませんが。」
ゲオーグは払い除けられた手をプラプラと揺らす。
揺らし終えるとゲオーグはその大きな体を前に少し倒し俺に向かって頭を下げた。
「この町にはあまり強い冒険者もいないもので。
自分が討伐に行けたのならよいのですが、今はギルドから出れないもので。
もし見かけたら討伐して下されば有り難い。」
「ロティが最優先だがな。見かければ討伐しよう。」
そう言い残し、俺は軽く手を上げその場を立ち去った。
外に出るとすぐに風魔法で自分を浮かし、空からシュワールの森へ向かった。
◇◇◇
意外と広いシュワールの森を上空から見渡しロティを探す。魔法でも使ってくれれば感知出来るだろうと意識を集中させる。
上空なだけあり、地上よりも風が強い。
5年間まともに手入れが出来ていない長い銀髪が煩わしくなりながらも軽く手櫛をした。
今更になりもう少し身なりを整えてからくるべきだったかと少し焦る。
愛しい人に早く会いたい反面、不安もある。
俺の事をギルドに言っていなかったのは予想外だった。
どう言う事だったのか後から聞いてみよう。
緊張している顔が引き攣らない様に頬を触る。
「緊張なんて…らしくないな。」
声に出すと顔が緩む。この顔でなら、と思っていたその時。
ボン!!!
爆発するような音がずっと後方から聞こえた。
その後の方から煙がモクモクと上がっている。
(誰かのパーティだろうか、一応様子を見に行くか。)
上空をそのまま飛んでいくと、少し歪な円形の広い湖が見えた。
煙の下の方には火が見えるが何もなさそうだ。
周辺を見回すと少し開けた湖の近い所に人と魔物がいて、その人達の1人を見つけると心臓が跳ねた。
(ロティ!!!
と、あれは男!!?しかも男に抱き抱えている!?ん?気絶してる?そしてあれは…。)
魔物をよく見るとなかなかいないサイズの魔狼だ。
フェンリルよりは少し小さいが、ここらへんには似つかわしくない奴だ。
高度を下げ降下していくとはっきり見えたが魔物は火魔法を使おうとしているみたいだ。
魔物はどうでもいいが、その魔法を避けようと男がロティを横抱きに抱えようとしているのを見ていられなかった。
「君、ストップ。やっと見つけたと思ったら、緊急事態らしきとはいえ、それはあまり見せられなくはないな。」
咄嗟に男に向けて風魔法を放つ。
突風でロティの体ごと浮かせて、気絶しているロティを自分の腕の中に招いた。
(ロティ、ロティ、ロティ…。やっと…。)
感情が溢れそうになる。
許可もないのにキスしてしまいそうだ。
前世より幾分若く幼さが残り、きちんと食べていないのだろうか、随分と体が軽い。
しかもあの魔狼に噛まれたのだろうか、左肩に噛み傷と血が沢山出ている。
体内に瘴気も入ったのか、肩の傷口から靄が漏れ出しているのを見て俺は涙ぐみそうなのを必死で堪えた。
男は驚いてふと俺の名前を呼んだ。
さすがに俺の顔は割れているだろう。
冒険者なら勇者や英雄に憧れる奴が多い。
ギルドの掲示板に名前を出されると、その名前の勇者や英雄に近づきたくて似顔絵や名前をきっちり覚えている奴がいるのも事実だ。
この男が守っていたとはいえ、先程までその腕にロティがいた事が腹立たしく険しい顔になってしまう。
男は気づいていない様だが、魔狼は火魔法を撃ち放ちそうな勢いだった為さっさと終わらせよう。
「そこの君、呆けている途中で悪いのだが、俺はあまり今機嫌が良くない。魔狼は倒してしまう。」
無詠唱の風魔法で魔狼を切り裂いた。
体を深く抉った為、一瞬にして生き絶える。
魔狼が放ちそうだった火は消え、魔狼は地面に倒れた。男はその様子を見て呆然として言った。
「…死ん…だ?」
「殺した。この子を傷付けた罰だ。ついでにあっちの燃えてる木も消火しておこう。」
そう言いながら、地面に降り立った俺はロティをそっと丁寧に地面に降ろし、燃えている木の方に手を翳す。
木の上に魔法陣を作り、勢い良く水を落として火が消えていく。
俺は鞄から、自身が持っていたポーション2つをそのままロティの肩に掛けた。
本当なら服を切り、直接掛けたいがこの男がいる前でロティの肌を晒したくはない。
ロティの咬まれた傷がある肩付近に液体を満遍なく掛けた。
じわじわと傷口が治っていき、肩の傷口から出ていた瘴気も消えていく。
男は地面にへたり込んだ後、俺に礼を言ったが、男との会話よりロティを早く起こしたくてしょうがない。
「感謝なんてしなくていい。この人を助けるのは当然の事だ。とりあえず起きてもらわないと困るから…。君…少し向こう向いてて。」
顔を良く見たかったこともあり俺の膝にロティの頭を乗せた。途中、軽くだけ額にキスをして。
男にはずっと他の方向を見ていてもらって構わないのだが、俺にはロティがいる事を見せつけるチャンスでもある。
「こちらを向いて大丈夫だ。」
と言うと男がこちらを向く。
眩しいものを見る目をしているが何をしているのかわからない。放っておこう。
「ロティ。ロティ…。」
起きて欲しくて何度も名前を呼ぶ。
ロティの瞼がぴくりと動くと少し顔を顰めゆっくりその目が開かれた。
❇︎いつかはロティを迎えに来る事をゲオーグは察していた。その為ウルカにもロティがルークと知り合いだと伝えていた。なのでウルカはルークの登場に驚いていない。
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