第23話 とりあえず…触れたい。
ここまでルークside
男の家での用事が済んだ為ギルドへ精算しに行く。
帰る間際までロティは大変そうだった。
お礼にと野菜を持って行けと押し付けられてそのか細い体が野菜でフラついていたのには手が出そうになってしまった。
野菜は重いだろうにと魔法鞄で野菜を預かる事を伝えると思いの外喜んでくれた。
手を繋ごうとするとピンっと張った感覚があった。
優しく微笑むとすんなりと力を抜いたが、一瞬拒否されたと思ったのは気のせいだったのだろうか。
ロティは町に着く前にロープを深く被り、口元にはスカーフをした。
折角のロティの顔がほぼ見えなくなるのは残念だ。
なぜそんなぐるぐる巻きなのか後で聞いてみよう。
歩調をロティに合わせてゆっくり歩く。
ローブとスカーフで顔を隠すロティを何者かと見つめる人、物珍しい俺を興味の対象で見る人、半泣きの男を心配そう、もしくは怪訝な顔をして見つめる人と様々な視線の中町を歩いた。
ロティ以外の視線はあまり気にならないため無心で歩いていたが、ロティは視線を気にしているのか僅かに早足だった。
◇◇◇
ギルドに着くと受付の猫が慌てる様子が見えた。
エルダーの花の加工を伝え忘れていたから当然か。
受付の猫は平謝りだったが、ロティは気にしていない様子で依頼完了の報告を進めるよう促した。
報酬を待つ間僅かに難しい顔をしているロティを盗みみていると、受付の猫が報酬としてカウンター台に置かれた金に俺は驚いてしまった。
(2万G!?ゼロ一つ足りないだろ…。ロティは身なりは綺麗にはしてあるが、もっと新しい物をあげたい…。)
ロティの着ているものは決して新しくはない。
綺麗にしてはいるが、使い込んでいるのがわかる。
俺はロティのいない期間は働き通しにしていた。
ロティがくれた死なない体と待つ時間は金を貯めるのには最適だった。貯蓄は死ぬまでロティと遊び暮らしても大丈夫なくらいはある。どっぷり甘やかしたい。
そんな事を考えているとロティは慌ててお金を回収し、ギルドマスターに取り次ぎを願った。
魔狼の報告だろうか。俺が持ってる死体もじっくりと確認したいところだ。
ゲオーグは呼ばれてもいないのに直ぐに現れた。
先程はなかった真新しい傷をつけて。
ロティとゲオーグの会話を静かに聞いていると、ゲオーグがギルドから出れない理由とその傷の意味がわかり納得した。
グリフォンは鷲と獅子の合わさったものでかなり獰猛だ。
肉を軽く引き裂く爪などにも気を付けねばならないためA級冒険者以上特級冒険者、またはB級以上の魔物使いじゃないと対応しきれないだろう。
早いとこ現れるのを祈る。
皆で会議室に行くことになったが、向かう最中密かにロティはゲオーグに回復魔法をかけていた。
あの真新しい傷が気になったのだろう。
人が傷付いているのを見逃せないロティだ。
頭を撫でたくなったが驚かれるだろうと触りたいのをグッと堪えた。
◇◇◇
ロティと男は魔狼の事をゲオーグに報告した。
結果的には掲示板に魔狼に関する注意喚起と複数個体居ないか調査するということでまとまる。
これでロティの依頼が終わると思うとホッとする。
見知らぬ男が近くにいる状況はどうにも安心出来ない。
男が立ち上がり、部屋を退出するのかと思ったら最後にと、ロティと握手をした。
ただの握手にメラメラと嫉妬心が燃える。
自分の嫉妬する感情に嫌気が刺すが、ロティが記憶を完全に戻して安心出来たらこの嫉妬心もなくなるだろうか。
今はまだ安心出来ない不安から自分に余裕がないだけだと言い聞かす。
決して自分は小さくない…と。
男が退室後、ロティは更なる情報をゲオーグに話した。
「アリリセの妹さんのシラーから聞いたんだ。家族に口外しないでって言われたから黙っていたんだけど、シラーが瘴気を浴びた時、魔狼が苦しんでて可哀想だから撫でようと思って近づいて、撫でたら瘴気をもらってしまったみたい。その後はすぐに魔狼は逃げたって。」
「危ない事をするやっちゃなぁ。俺からもアリリセに妹をきちんと教育するよう伝える。
それにしても魔狼が苦しんでいた…か。
何か毒にでもやられていたのだろうか?それとも瘴気自体が魔狼を苦しめていた?」
俺は手を顎に当てて考え込んだ。
魔物が苦しむ、事例がないわけではないがその場合には大人しくではなく凶暴になったり耐えられない場合には自害する傾向だ。
大人しくなる魔物というのはやはり誰かの所有物で、飼い主の命令で動きに制限があったのではないだろうか。やはり死体を探るか。
「ゲオーグ、解体室は空いてるか?」
「はい、空いてますよ。魔狼を出しますか?」
ギルマスなだけはある。状況をすぐ理解出来るのはありがたい。
「一度死体をよく見ようと思う。ロティ、疲れているところごめん。もし歩けない様なら抱き抱えるが…。」
と言うよりそろそろ本当にロティに触れたい。
手は繋いでいるものの、ロティ自体まだ俺には足りていない。
「大丈夫!!歩ける!!余裕で!」
そう元気よく言われて軽く気落ちするが、仕方ない。だが、ほんの少しだけ。
繋いでいた手を引き、耳元で「残念、今度ね。」と素直に自分の気持ちを伝えた。
元の位置に戻るとロティはまた顔を真っ赤にしている。
「ルーク様、ロティがその内過剰摂取で死にますぞ。顔が赤くなりすぎて焦げそうな位ですな。」
「うーん、これくらいでそう言われてもな。」
通常運転、というよりかなり物足りない位なのに。
1人が長い分募る想いが溢れて仕方ない。
◇◇◇
ギルドの解体室はどこも同じようなものだ。
魔物解体のための多種の刃物類がぎらついている。
だが今日はもう解体作業が終わっているためか、解体室は綺麗な状態で使える事が出来るようだ。
酷い時は血塗れだったり、色々な魔物の解体ショーが繰り広げられているため初心冒険者には度肝を抜かれ、卒倒するやつがたまにいる。
数台ある解体室のテーブルの一つに魔狼の死体を魔法鞄から取り出しながら俺は2人に向かって話す。
「気になる点をまとめた。サイズはともかく…。
目が合い襲われた事。
ターゲットがロティだった事。
使えないはずの火魔法を使っていた事。
表情が変わった事。
魔狼が苦しんでいた事。可能性として一つ浮かんだことがある…。」
そう言うと俺は手に火の玉を出した。
魔狼の首あたりの毛をその玉でジリジリ焼いていく。段々なくなる毛の下に見覚えのある召喚証。
「やはりな。チッ!」
焼き終えた俺は悪態をついてしまう。
結局はあの女か。
魔狼の首に雷に打たれた傷のような模様がぐるっと首に一周出来ている。首輪の様な自分の魔物だという証。
「これは…召喚証…?この魔狼は召喚獣ってことか!?」
「召喚獣…って召喚士が出す魔物のことだよね?」
「そうだ。こいつは召喚されて使われたんだろうな。しかもターゲットはロティだろう。
ロティを傷つけたとたんに表情が変わったのは、あの女とリンクしたのかもしれない。
火魔法は攻撃力が高いから後付けされたんだろうな。
ロティを確実に狙えるように。
魔狼が苦しんで瘴気を出していたのは、無理矢理火魔法を使える様に体に魔石でも入れられたからではないか…?」
俺は魔狼の腹あたりを切り裂き、魔狼の体の中に手を入れる。
微妙に緩い体内を探ると、コツンと熱い何かに当たる。
「ん、これかな。」
そう言うと中から血の塊を取り出した。
血の隙間からそれは火の様に燃えているように見える。
火石だ。
「性悪女め…。あれほど逃すなと言いつけていたにも関わらず……。詳しく聞き直さないとな。
だが、これで分かった事がある。やはりロティが確実に狙われていた。あの女の差金だ。」
関わりたくもないあの女。
ロティには言わないが魔狼に入っていた火石は体内で燃え、それが魔狼の血や肉と混ざり瘴気になったのではないだろうか。相当苦しんだだろう。あの女だったら自分の利益の為ならやりかねない。
あの女だけでゲオーグは誰だか検討がついているようで険しい顔をしている。
「グニー・アレグリアですな。ルーク様が長年に渡り王国の監獄にいれていた…。
脱出不可能と言われた王国の監獄から脱獄した女。
詳しい事は知らされておりませんが…。
どう脱獄したのでしょうな。悪魔でも呼んだか…。」
看守が唆されたのは、恥ずべき事との認識はあるらしく詳しい情報は公には内密にしているのか。
余計苛立ちが募る。悪魔は奴自身だろう。
深刻な俺とゲオーグだったが、ロティが頭を押さえふらふらしていた。
「ね、ねぇ…申し訳ないのだけど…色々頭が追いついてないのって私だけなの??
そろそろまた気を失いそうなんだけど…。」
慌てて抱き止めようとしたが手が血塗れな上、火石に触れて火傷でもしたら大変だ。
ロティはなんとか自力で踏み止まってくれたため、直ぐに血と火石を水魔法で洗い流した。
綺麗になった手と火石。火石を魔狼の方へ向けると、魔法鞄を取り出し2つともしまう。
ロティの手を取りながらゲオーグに伝える。
「ゲオーグ、俺はロティに色々話さなきゃいけないから今日はこれで帰ることにする。なにかあれば教えてくれ。」
転移魔法の魔法陣を展開し、行き先を自分の屋敷を思い浮かべる。
「はい、わかりました。じゃあなロティ。しっかり休め。」
俺に返答し、ゲオーグは強張った表情ながら手を振りつつロティを労ってくれた。
「う、うん。またね。ゲオーグさん。」
ロティは頷き、返事をするとすぐに俺とロティを魔法の光が包んでその場から去った。
❇︎火石は魔法石の一つ。火魔法が込められている。魔法石は石の中の魔力を使い果たすまで効果がある。火石に触ると火傷するが、ルークは水魔法を薄く纏っているので無傷。
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