第19話 …よし、誰から絞めようか。
魔法禁止区域を抜けて直ぐに2人に自分はロティの元へ行く事を伝え、俺は転移した。
出来れば全員で転移して王都に向かう事が出来れば良かったが、今までの疲労と魔力もかなり減っている状態の今は無理だ。
転移魔法は便利だが、一度行った事のある場所の入り口にしか転移できない。
転移魔法陣を書いておけばその場には転移出来るが、消されたり風化すれば使い物にならなくなる。
また転移魔法は魔力を食う上に、人数が多くなる分また負担が増える。今からまた転移する可能性がある事を考えれば余力を残しておいたほうが得策だろう。
転移魔法の光が消えると王都の入り口に着いた。
門衛が俺を驚いた顔で見たが、顔に気付き表情が明るくなる。
隠密からの報告が王都にも届き、古代竜の情報が知れ渡っているのだろう。
実際は古代竜と再協定を結んだ後直ぐに隠密に報告したのにそこからまだ遊び足りない、最後に少しと言われ4日遊びに付き合ったが為さらに遅くなったのだ。
(あの古代竜にも困ったものだが、王国の守神としての竜だ。俺の一存で機嫌を損ねる訳にもいかないからな…。)
苛立ちをグッと抑えていると門衛から話しかけられた。
「ルーク・ロイヴァ様。古代竜との交渉戦お疲れ様でございました。お帰りなさいませ。」
「ああ、ただいま。俺だけ先に帰還した。もう何日かすれば皆戻る。俺はギルドに行く。」
「はい、承知しました。お気を付けて。」
そう言うと急いで門を潜り街中に入る。走るまでは行かない急足でギルドに直行した。
◇◇◇
ーバンッ
「オーレオールはいるかっ!?」
王都の広いギルドの特別カウンターまで行って、サブギルドマスターの名前を息を切らしながら言う。
少々カウンターを強めに叩き過ぎたが壊れてはいない様だ。
特別カウンターの受付の兎亜人の男は頭を下げお待ち下さいと言うと手元の呼び鈴の様なものを振った。
音はならなかったが魔導具だろう。
何分と待つ事もなく、すぐに後ろの扉から王都のサブギルドマスターのオーレオールが現れた。
「はいはいィ、古代竜の所から帰ったのねェ。おかえりィ。ルークゥ?久しぶりねェ。というか早いわねェ。あの子によっぽど会いたいのねェ。」
柔かなおっとりした話し方で俺に話すオーレオール。
長耳にハーフアップの白い髪にタレ目の赤い瞳、妖精エルフで白い髪は珍しい。
俺の顔を見るとにっこりとオーレオールは笑ってみせた。
所々から呻き声が聞こえるのは彼女の美貌にやられた輩がいるのだろう。
妖精には面が良いのが多い。
「オーレオール、ロティの情報が知りたい。」
「はいはいィ。わかってるわよォ。個室に行きましょうねェ。」
「ああ。」
オーレオールが先程出てきた扉の方へ戻り、個室の扉を開けた。
中には4人程が座れるソファとテーブルがあり、本棚の中身はずらりと並んでいる。本棚には重要書類もあるのか鍵がかかっているようで簡単には取り出すことが出来なそうだ。
オーレオールはその鍵を魔法で開け、中の薄い本を取り出し、それを持ってソファに座った。
俺も反対側のソファに座るとオーレオールは本のページを捲り中を凝視し、少し眉を顰め難しい顔をしながら唸り声をあげた。
「うぅーーーん…ロティ・キャンベル。
17歳ねェ。ギルドの登録は2年前でェ、あらァ、薬師と回復役ですってェ?
あの子が得意なのは呪術と回復じゃなかったのォ?
それに何度もパーティの脱退履歴があるわァ。
あらァ…うーん…よくないわねェ。」
「…17歳なのか。とりあえずは早く教えろ。」
焦りからか軽く苛立ってしまった俺をオーレオールは宥めながら言う。
「焦っちゃダメよォ。情報は大事なのだからァ。
…ねぇ?ルークゥ。
私が伝える内容に怒らないでくれるかしらァ?
私に怒っても困るからねェ?」
「わかった、怒らないから早く。」
勿体ぶるオーレオールに急かす。
この時間すら早く済ませてロティに会いに行きたくてたまらない。
体を揺すらない様力を入れているものの、内心は焦りまくっていた。
「本当にこの子のことになるとせっかちねェ。
まあいいわァ。
この子貴方の事何もギルドに言っていないみたいよォ?
記述もないし、前にギルドの職員が一度、ルークの事を尋ねてみたけど首を傾げていたって書いてあるわァ。
それとパーティの脱退履歴が凄まじいわァ。
2年しか冒険してないのにこの数は異常だと思ったけどォ。
どうやらパーティ内で言い寄られたり、嫌がらせがあったみたいで、あらァ…酷い時には卑猥な言葉を言われたり、体に接触行為があって該当者には厳重注意を………ってェ!?!?顔こわああぁぁいぃ!?キャー!?」
オーレオールの顔が真っ青になり悲鳴を上げた。
俺は俺で身体中の至る血管が切れそうだ。
血が沸いてしょうがない。形相が悪くなっている自覚はあるが、これもどうしようもない。
オーレオールは自分が見ていた本を素早く抱き抱えた。そんなことをしなくとも、ロティの情報源は壊したりしないから早く続きが知りたい。
「オーレオール…続きを…。」
「嫌よォ!その顔やめてェ!」
「…オーレオールに怒っていないだろう…。」
かなり苛ついているのは確かだ。だが、八つ当たりではなく当人達にいつか制裁を食らわせよう。
俺の事に反応がなかったロティに少し不安が募る。
だがそれはロティ本人に会えばわかる事だ、早く会いたい。
オーレオールは本で顔を隠して隙間から俺を見て怯えている。
話を進めたいので素早く精神安定させるべく、魔法を使うと先程より少しだけ溜飲が下がる。
それを見たオーレオールは分かり易く安堵した。
「だから最初に怒らないでって言ったのにィ。」
「想像を超える内容だったからな。すまない。」
「謝るならいいわァ。じゃあ続けるわねェ。
拠点の町はタルソマの町みたいねェ。あそこならあまり危ない魔物もいないしィ…。
アー…そういえばァ…ルークはお馬鹿のグニーのお話聞いているかしらァ…。
それについても私には怒らないでねェ…。」
「怒らない…ようにする。オーレオールが悪いわけではないのだしな。あの女の話など知らん。俺の新しい情報はロティが転生していると言う事以外何も無い。あの女がどうかしたか?監獄の中でとうとう死んだか?」
少し気持ちが高揚する。
あの女を生かしておくのも癪だったが、俺の感情だけで首を刎ねられる程、俺は偉くもない。
色々な後ろ盾が出来たところだが、あの女がどの道いなくなるなら本望だ。
オーレオールは俺の様子をとても気不味に見て、目を泳がせながら小声で言った。
「…監獄から出ちゃったみたいなのォ…。」
「……よし、色々殴りに行こう。我慢の限界みたいだ。
各所絞めないと収まらん。」
予想外の事にプツンと何かが切れた気がした。
ソファから立ち扉の方に振り返ると慌ててオーレオールは俺を呼び止めた。
「ヒィイイィ!こわいわああァ!落ち着いて頂戴よおォ…。きちんと話を聞いてェ!貴方まずはロティなんでしょうゥ?会いたいんじゃなかったのォ?!座ってェ!」
「会いたい。」
ロティの事がなによりの最優先事項だ。大人しく再びソファに座った。オーレオールの瞳は涙を浮かばせている。
「私の身が持たないわァ…。
それでねェ、お馬鹿のグニーは何年も前から脱獄の計画を練っていたみたいなのォ。看守の1人がそう吐いたわァ。
看守の数人を誑かしていたみたいなのォ。
それでもお馬鹿のグニーの擁護をしているらしいわァ。
まぁ見た目は綺麗な子だからねェ。中身はあれだけどォ。」
「…。見た目だとかどうでもいい。それで?脱獄した時期はいつの話だ?」
苦虫を噛み潰したような気分だ。
あの女の事など想像もしたくない。そんな俺をオーレオールは苦笑いし、話を続けた。
「脱獄は約1ヶ月前よォ。知られなくなかったみたいで躍起に捜索していたみたいだけどォ。見つからなかったみたいィ。
それと脱獄した時にも誑かした看守を1人連れて行ったみたいィ。その脱獄時にいた看守を殺したみたいなのォ…。
ざっと5人ほどォ…。
貴方の用意していた魔導具の殆どもォ、看守の手によってお馬鹿のグニーの手に渡ってしまったらいわァ。王国直々の監獄で起きた事でェ、流石の陛下もご立腹みたいでェ…。」
「看守体制を一度見直さないとならんのは瞭然だろう。
チッ!だからあれほど固く言いつけていたのに。
だが、もう妖精エルフ王の許可は取った。
次は容赦なく殺す。」
「そうねェ。あの方が良いと言うのなら仕方ないわァ。
今お馬鹿のグニーはどこにいるかわからないから用心してねェ。前に刺された時は妖精にしか触れないナイフで刺されたんですものォ…。
今回も何かしてくるかもしれないわァ…。
お馬鹿のグニーだけど、尻尾を巻いて逃げる様な子じゃないわァ…。」
オーレオールは心配そうに言う。
俺は再び立ち上がり部屋の少し空いているスペースに立ち、足元に魔法陣を展開させながら言った。
「わかっている。もう2度とロティを殺させはしない。俺はすぐにタルソマの町にいく。
門衛に言伝で俺は王都を離れると言っておいてくれ。多分また戻るとも。」
「はいはいィ。気をつけてェ、また今度来てねェ。あの子にも会いたいわァ。」
「ああ、わかった。」
そう言うと俺はタルソマの町に向けて転移する為魔法を発動させ、その場から姿を消した。
❇︎グニーに誑かされた看守は8人。死亡5人、生存3名。うち1人はグニーと共に行動中。
他生存者2名は取調べ中。
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