第18話 吊るすか…。

❇︎暫くルークside


「は??今なんて言った??」


「はっ!もう一度お伝え致します。

殿下より【情報を止めていて悪かった。その分は穴埋めするから許してくれ。】と。

ギルドからは2年前にロティ・キャンベルのギルドへの登録があったと報告がありました。

ルーク様がお話されていた、髪と瞳の色も一致していると…。」


ここは古代竜の住処近くのため、魔法禁止区域で転移魔法が使えず、馬車での移動を強いられる。

揺られているせいで聞き直した事は、聞き間違いではなかった。


ロティはもう転生して生まれ変わっている。


伝えてくれた陛下直々の隠密は黒装束で顔も殆ど隠れている為表情が見えない。


(あの陛下は一度城の屋根から吊るしたい。)


などど考えているのが筒抜けにならないよう、苛立ちを隠さねば。


「魔法禁止区域はどれくらいで抜ける?」

「約2時間程かと。」


「ありがとう。下がっていい。」

「はっ。」


そう伝えると隠密はすかさず身を隠した。



「ロティって、ルークが探してた子?タイミング悪いな?可哀想なルーク。」


憐れむ様に言うが内心面白がっているだろう。

この勇者は。黄金の瞳を薄く開け、笑い必死に笑いを堪えている顔だ。

馬車の揺れのせいで大きく跳ねている赤色の髪がさらに揺れる。



「帰りの馬車で言うだなんて王様も意地悪ですね。」


エドガーは本気でそう思ってくれているのだろう。

頑丈そうなしっかりとした体躯と多少強面の顔だが、中身は人一倍気を配ってくれる真面目な奴。

濃紺の髪と黒色の瞳はエドガーを落ち着いた男性に見せている。


俺はアレックスのみをきつく睨んだ。


「なんで俺睨まれてるの〜?エドォ〜、ルークが睨むよう〜?」


睨まれたアレックスは隣に座っていたエドガーに擦り付いたが、直ぐにアレックスの頬を押し返しながらエドガーは言った。


「貴方が冗談半分に言っていること位すぐに見抜けますからね。私達は。長い付き合いですし。」

「ふっ。だって、本当に可哀想じゃん?

ふ、ふはは。不老不死のルークでもたった2年会えるのを延長された事が凄く不服そうだし?怒ってるじゃん?中々に見れるもんじゃないよ!はは!」

「はぁ…貴方って人は…。」

「…。」


さすがというべきなのか?

勇者であるアレックスは人の心を読むのが中々に上手い。

だからと言って俺がアレックスに読まれる位の心の持ちようだと言うこともあるのだろう。

俺もまだまだだなと自分を諌める。


古代竜エンシェントドラゴンが再協定という名の息抜きに俺達を5年も話し相手や遊び相手を望まなければ、俺はもっと早くロティに会えていたはずだ。


いや、ロティも俺を探していてくれたのならもっと早く会えたのか?タイミングが悪過ぎた。

色んな考えが過ぎる。


1人でもやもやと考えているとアレックスが俺に話し掛けて来た。



「ねぇ、ルーク?帰ったらきっと王様と謁見があったり称号授与なんかもあると思うけど?直ぐに会いにいくつもりなの?」

「帰ったら、と言うのが間違いだな。」


「ん?じゃあ行かないの?」

「魔法禁止区域を抜けたら俺はとりあえず魔法で転移する。」


「え!?ずるくない!?俺お尻痛いから一緒に連れてって!!」

「…アレックス。私達はお尻が痛くなろうともこのまま予定通りラルラロの町まで行きますよ…。無粋なことはお辞めなさい。」 


縋るアレックスに母の様な口調でエドガーは止めに入った。アレックスも渋々だが頷いている。


「うぅ…。仕方ないか…。でも謁見はどうするの?」

「そんなもの後回しだ。俺が王国に手を貸すのはロティが居ない時のみと決めていたからな。

陛下にも前もって伝えていたから情報を寄越さなかったな。チッ。

本音を言うと謁見も称号もいらん。そんな時間があるならロティに使いたい。」


悪態を付きつつも、早く会いたいロティに想いを馳せる。

ロティも俺に会いたかったはずなのに会えなかったのが辛い。

何歳のロティなのだろう、ギルドに登録できる12歳以上である事は確かだが、2年前にギルドの登録をしたと言う事は今は14歳だろうか。

生まれてから10数年分会えずに生きていた事実を悔しく思ってしまう。



そんな事を1人考えているとアレックスは少し引き気味に口を開いた。


「うへぇ…重い…重いよ…ルーク。もっと自身の魔法の様に軽々しく出来ないの…?

ロティがいつか潰れちゃうよ。」

「俺の想いはロティも承知してるから問題は無いと思うがな。」


「相思相愛だねぇ…。いつか合わせてね。ロティに。このルークの想い人かぁ。あああ〜超見たい!!」

「私も会ってみたいものですね、勿論ルークもロティさんも良ければ、ですが。」

「うむ、エドには会って欲しいものだ。」


「俺は!?俺も会わせてよ!?」


「…。」

「無視しないで!!」

「アレックス…騒がしいですよ。」



エドガーに諌められるが、尚も変わらずアレックスはピーピー騒いでいる。

最もこれはこのメンバーだけだからこんな風に騒げるのだ。誰か居ようものならアレックスは勇者の顔を見せる。きちんと切り替えが出来るところは評価している。


俺は組んでいた手を正し、2人に向き直り真剣な顔で

話す。


「…アレックス、エドガー。

これは冗談ではなく真面目に聞いて欲しい。

俺はこれでパーティを抜ける。

きちんと他のパーティメンバーにも挨拶はしたいから後日王都で落ち合おうつもりではいるが。」


それを聞いた2人は寂しそうな顔をした。

だが、これも前から決めていて伝えてあったことだ。


アレックスが納得の表情で頷きを見せた。


「…そうだよなぁ。それは前から言っていたからね。

ルークは1番長く勇者パーティに居たし。

それこそ何十年いたかわからないくらいには長いよね?沢山王国に貢献した事は周知の事実だ。


駄々を捏ねたいところだが、仕方ないのだろうな。

だが、またどうしてもルークの力が必要になったら呼び出しは食らうと思うぞ。」

「ロティが許可するならな。」


「ゔゔゔ〜〜〜ん!許可制!!」


苦虫を噛み潰したような顔でアレックスは突っ込んだが、俺としては当たり前のことだ。

ロティ優先で嫌がる事はなるべくしたくない。


アレックスに続き、エドガーも納得している様だ。

優しい顔で軽く俺に頭を下げる。


「ルーク。

貴方が長い間、王国を人の何倍も支援してきたからこそ、貴方には幸せになって欲しいのです。

貴方のおかげで沢山の方が救われました。

その1人として、お礼を言わせて貰いたい…。

ありがとうございました。納得しない者もいるでしょうが、私も口添え位は出来ますからね。」


「うん、うん。エド、それは俺も思ってるよ。

ルークは国の為に惜しみなく力を使ってくれたし、不老不死の体が再生出来ないんじゃないかってほどボロボロになって戦ってくれた時も。

俺はルークにもロティにも感謝している。

勇者として俺は前に出てるけど、実際俺よりも勇者らしいのはルークなんだよ。」

「俺は勇者にはならないし、なる気もないからな。」


「はは、勿体ないな。」


勇者パーティは何度もメンバーが入れ替わった。

50年以上もいるのは俺だけだ。


実際ウマが合わない奴もいたが、最後のパーティは女性群を含めかなり良い連携プレイが出来た。

このメンバー達には俺も感謝している。


本当に手が必要な時位は呼ばれてやるかと馬車に揺られてながら1人で思った。



❇︎ルークは陛下が生まれる前から陛下を知っている。幼い頃より遊び相手や護衛任務にも就いていた為、陛下はルークが気に入っている。


❇︎ 古代竜の住処は1番近いラルラロの町からも2日程離れている。魔法禁止区域は古代竜が自由に行き来出来る場所の為、魔法を使うと古代竜が感知し飛んできてしまう為控えられている。

魔法を使うと襲撃と勘違いした古代竜に襲われる。

(古代竜としては遊んでいたりする。)

30m程のドラゴンに襲われるとひとたまりも無い。

言葉を理解し、知性はあるが人を選んで話をするため聞いてもらえるとは限らない。

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