第13話 お腹いっぱいは幸せだよね。

「呪い、前世、嫉妬?呪い??前世?」


私は素っ頓狂な声をあげて聞いたばかりの単語を繰り返した。繰り返したが、頭に中々入ってこない。

どう言う事なのか、ルークをじっと見つめるとルークは眉を下げ口を開いた。


「ああ、ロティが前世を覚えていなさそうなのは最初にあった時に違和感を感じて確信した。


前と会った時と全然態度が違ったからな。

記憶がない事にも心当たりがある。


ロティが前世を覚えていたらロティは俺を探してくれるだろうから、もっと早く会えただろうし。

会えたとしても感動の出会いになるはずだし。


はぁ…そこは寂しいかったな。」


ルークが悲しそうな顔をする。

胸が締め付けられる様でちくりと痛むが、私はそれを悟られないように唸りながらルークに尋ねた。



「うーん……前世の記憶と言われても全く…。


あ、でも私、夢で何度かルークのこと見てるんだよね…。もしかしてそれかな?


それにしても私ルークに呪いかけてるんだよね?

どんな呪いかわからないけど恨まれてるよね?普通。」

「恨む訳ないだろう。

だけど、この話を言ったら多分もっと混乱するから。」


ルークから悲壮感が消え、にこりと微笑む。

その微笑みにドキッと心臓が跳ねた。ごまかそうとルークから目線をずらし下を向き気味に返事を返した。


「どの話でも混乱しかしないと思うけど…。ゆっくり聞かせて欲しいな。」

「うん、ゆっくり話すけど。その前に腹拵えとお風呂はどうか?」


そういえば、今日は色々あってお昼食べるのをすっかり忘れていた。お腹に意識を向けた途端、胃が掴まれる様に悲鳴を上げている。


顔が赤くなるのを感じながら空腹すぎるお腹を押さえ、今の悲鳴が聞こえなかったのを祈る他なかった。

私は言い訳のようにルークの問いに答える。


「お昼食べ損ねてたのすら忘れてたや…。

そして私魔狼に噛まれてるからきっと臭いよね…。

お風呂も入りたい…。」


傷は治ったとはいえ、噛まれたことは事実でロープもその下の服もそういえば穴空いてるし、血が付いていたんだった。


ルークがポーションを掛けてくれた時に多少血は流れ、ロープが茶色という事もあり薄まっていたから忘れてた。


「とりあえず食事にしよう。こちらへ。」


ルークが手を差し出すが、私は手を伸ばさずにその手を見つめて言う。


「ルークって前世もこうだったの?私達って恋人や夫婦だったの??」

「それも言ったら長くなるけどいいか?」


ルークは笑顔で手を差し出したままだ。


話は食事とお風呂の後にしっかり聞きたいという思いが強く、ルークの手を取った。



◇◇◇



「………完全に食べ過ぎたよ…。」

「それは良かった。美味しかったってことかな?

今のロティは前よりももっと細くて心配になる。」


私はルークが用意してくれた食事をお腹いっぱい食べた。


いつも1人での食事の為質素になる事も多い。

こんなに食べたのは祖母と暮らしている時の、特別に何かいいことがあった日以来ではないだろうか。

要は数年ぶり、というわけだ。



そしてルークが用意してくれた食事も見たことないものばかりで。

しかも見た目まで綺麗に盛り付けられていて気分も上がってしまった。それだけに飽き足らず、見た目通りの美味だったのだ。


それはそれはついつい食べ過ぎてしまうのも仕方ない事かもしれない。


お腹に手を当てながら満腹を味わっているとルークが椅子から立ち上がった。

私の顔を見て緩まった顔を更に綻ばせてルークは私に言う。


「ロティ、お風呂を沸かしてくるから少し待っていて。辛いならそこのソファに横になるといい。」

「う、横にならなくて大丈夫。何から何まで…ありがとう…。」


「いいんだ。ロティが満足できているなら俺も心が満たされる。じゃあ行ってくる。」


そう言うとルークは部屋を出て行った。



先程の応接室とは違い、こちらの部屋はリビングのようだ。


キッチンがあり、テーブルセット、暖炉の横にはソファにテーブル、重そうな木の本棚。

魔導具だろうか何かしらのインテリアなのかわからない置物もある。


この部屋は屋敷と言うよりはアリリセの家や前に住んでいた家に近いように作られていて、屋敷の豪華な感じが薄れているため僅かな安堵を覚えそうになる。


だが、置いてあるものは高価そうなものが多いので壊したらどうなるのかと簡単には気が抜けなそうだ。



私は食事をしたテーブルに頭を付け、顔を横にしてぼーと考えた。


(ルークと私は前世恋人だったのかな…。

ルークの手慣れている様子だと夫婦…?


でもなんで呪いをかけたんだろう。

前世の記憶って戻るものなの?無理じゃないの?無理だったらどうなるんだろう。ルークは悲しむのかな。…でもその顔はあまり見たくないな。)


百面相のルークだが、笑顔が1番ほっとする。

なんだかわからないが、心がポッと温かくなるような気持ちになる。


(こんな気持ち、私の中にあったんだ。

知らなかったな。あ、そういえば魔狼に助けられたのにお礼してないような…。後で言おう。魔狼に噛まれた所も治してくれたのはルークだろうし。)


噛まれた左肩をさするとツンッと穴が空いたところに指が引っかかる。魔狼に噛まれたこの穴が空いた服もどうにかしないといけない。


そんな事を考えていると扉が開く音がして、垂れていた頭をすぐに持ち上げた。

少し驚いた様子のルークだったが、私を見るとホッと安心した顔を見せてこちらに近づく。


「ロティ?寝てた?大丈夫か?」

「寝てないよ。大丈夫。」


「そうか?もう少し休んでからお風呂に入るか?」

「ううん、もう充分休んだから借りてもいい?」


「どうぞ、案内する。」



椅子に座る私に自分の手を差し出し私の手を待っている。

一瞬躊躇したが、大人しく手を乗せると私の手を引き翌日に連れて行かれて行ってくれるようだ。


手を繋ぐ事がこの数時間で当たり前になっている様で、その繋がった手を少しだけ握り返すとぴくっとルークの手が動いたがルーク自体は反応を示さなかった。



浴室の扉を開け中に入ると、ルークが指を刺して説明してくれる。


「ゆっくりしていいから。

着替えとタオルはここ。着替えは新しい服だから綺麗だよ。遠慮なく使って。噛まれたローブは直すから貸してくれ。」

「新しい服?借りていいの?ローブも…。」


そういいながらもローブを脱いでルークに渡す。


「借りていいというか、ロティのだから?普通に使ってくれ。」


ルークは首を傾げてくすりと笑いながら言う。


「ありがとう…?じゃあ、入るね。」


ルークは私の着ていたローブを持って浴室から出た。

私は浴室の鍵を掛けてから脱衣所で服を脱ぎ始めると左肩を見てギョッとしてしまう。


「な…に…これ。」


急いで脱衣所にあった鏡の前に行きしっかりと確認すると、それを見て血の気が引いてしまう。

噛まれた左肩を見ながら愕然としてしまい、そのまま数分間固まってしまった。



◇◇◇



あんなに綺麗な浴室は生まれて初めて、感動と嬉しさが込み上げてきたと言うのに左肩にあるもののせいですぐに不安が込み上げる。


触れても問題はなかった為しっかりと洗った。



ルークが用意してくれた服は白いナイトドレスと薄い青色の毛糸で編まれたカーディガン。

ナイトドレスは少し開いた胸元と膝上丈で着たことのないデザインだったためとても心許ない。


フリルとリボンはとても可愛いとは思うけど、カーディガンが無かったら浴室から出られない所だった。

これをルークが用意したのか、前世の私の趣味なのかわからないのが辛い。聞くのも気恥ずかしい。



浴室から出てさっきいた部屋に1人で戻り、部屋の前に来るとコンコンと扉を叩いた。


中からルークがおいで、と声が聞こえた為中に入る。

ソファにゆったり座ったルークがこちらを見ると目を見開いて固まってしまっているようだった。


私は不思議に感じながらお礼を言う。


「…ルーク?お風呂ありがとう。」

「………。」


「ルーク?」

「っ、ああ、ありがとう。」


「??」


何がありがとうなのだろうか、こちらがそれを言っているのに。

怪訝そうな顔をすると、ルークはばつが悪そうに咳き込みをした後に自分が座っていたソファに手招きした。



❇︎ロティの着替えはルークが用意した物。

お風呂上がりのロティに見惚れ変な事を口走って後悔したルーク。

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