第12話 え?それわたし?
足が地面に着く感覚がした。
無事に転移できたのだろうか、辺りを見回すとどこかの家の中みたいだ。
奥の方の窓からうっすら太陽を感じたが、陽が傾き始めているため空間がオレンジ色に照らされている。
「ねぇ、ルーク…わ!?んぐっ!」
見回した後ルークの方を向いたらそのまま正面から抱きしめられてしまった。
背の高いルークの胸あたりにすっぽりと顔が嵌ってしまう。
頭やら背中やら腰やらをがっしり捕まえられていて息が出来ない。
首を振りながらんぐんぐ言っていると、頭にあった手が緩まった。
「ぷはっ!息できな」
「やっと。2人になれた。」
ルークの言葉にドキンと心臓が跳ねる。
言われるがまま転移してしまったが、ここがどこでどんな場所なのかもわからないところに、数時間前にあった男性と2人きり…みたいだ。
跳ねた心臓が、恐怖なのか羞恥心なのか考えたいところだが、今までの私からするとこんな状況は堪らなく嫌だし、怖いと感じるはずがちっともそんな感情が湧き出ない。
このルーク・ロイヴァという男は何者なのだろう。
とりあえずこのままここでずっと過ごす訳にもいかないため、私はルークにおずおずと話し掛けた。
「ルーク、とりあえず…一度離してくれませんか?
聞きたいこと、沢山あるんです。ルークも言いたい事とかあるんじゃ…。」
パッと私の体からルークが離れる。
軽くなった体をよろめかせながらルークの顔を見ると満足そうに目を細め、表情を緩めていた。
その妖艶な笑みに訳がわからないまま、また心臓が跳ねそうになる。
ルーク手が私の頬に伸びてきて、そっと触れた。
何をしているのかわからずそのまま見ているとぐんっとルークが顔を近づけてきた。
「ちゅっ。」
「!?」
驚きのあまり声が出ない。
尚もにこやかなルークは含みのある笑みを浮かべた。
「敬語。使ったら頬にキスっていったぞ?」
自分の頬を長い指でトントンと叩く仕草が美しくて呆気に取られそうになりながらも、必死に思い出を辿る。
「っ…!?い、い、言った…。」
「わざと?言えばいくらでも…。」
「わざとじゃないよ!もう!ルークと一緒に来たのは話するためなの!」
割りと本気で怒ってもルークは笑顔を崩さない様子に、私は頬を膨らませてしまう。
「そんな風に怒っても可愛いだけだから無駄だ。
とりあえず話はしたいが、ロティは疲れてないか?」
「…多少疲れて入るけど、それよりかは話をしたいかな。訳がわからないんだもの。」
「じゃあ、ここで話すよりあっちのソファで消毒しながら話そう。」
私は無駄に膨らませた頬を凹ませながら消毒とはなんだろうと首を傾げていると、ルークの手がパッと光った。よく見ると手の上には光の球が乗っている。
その光の球が少し膨らむと弾けた、というより部屋中に飛び散っていった。
光は部屋を駆け巡るとたちまち部屋中が明るくなった。
「うわっ。凄い…。綺麗…。」
魔法の光がライトに入り、部屋中を照らすとはっきりとその豪華な室内が目に飛び込んできた。
やはりここは玄関のようだがホールが広く、更には色んなインテリアが置いてある。
床も壁も白を基調とし、壁には金色の蔓と葉が描かれている。繊細に美しく、豪華には見えるが嫌らしくない。
少し先にはお城にあるような階段がある。
階段の上には窓がありさっきの夕日の光はそこから見えた様だ。
玄関にはなんの魔物の角なのかはわからないが壁にかけられたその角2本のはかなりの大きさだ。
角先が鋭利になっていて魔物の凶暴さが窺える。
額縁には呪文がくるっと一周かかれている。
他にあるのは甲冑が5体。
どれも武器を持っている。玄関を入って左と右に2体づつ。
廊下の真ん中に置かれた1体は、他の甲冑に比べ装飾が多くゴツい。
植物なども飾らせているが、他の装飾品に負けてひっそりと佇んでいる。
キョロキョロと見回しているとルークからクスッと笑いが溢れた。そっと手を繋がれ歩き出した。
玄関から右に進み、ドアが3つほどありその中の一つに入る。
中は案外シンプルでここは応接室のようで、壁には絵画、立派なテーブルと黒の皮のソファーがある部屋だった。
そのソファに座るよう促されるが、高そうで一瞬躊躇しそうになる。
意を決し、大人しく座ると隣にルークも座った。
「ここで話そうか。この屋敷は譲り受けたものなんだ。
置いてあるものも俺が揃えたというより、先帝が俺に寄越したものが多くてな。」
「へぇ…?先帝…?」
「何年前だったか?3.40年前か?ロティ以外あまり興味が無いものではっきりとは覚えていない。」
「3.40年前!?どういうこと!?」
私の目玉は今日だけで何度飛び出しそうになったことか。
ルークは一体何歳なのだろう?20台前半位の顔付きなのに3.40年前の話をしていることに違和感いっぱいだ。
驚いているとルークが私と自分の手を持ち上げまじまじと見つめている。
私はルークに握られている間、実は握り返してはいなく、一方的に握らている状態だった。
見つめられている手は汚れているのかと気になる。
ルークの手の中で伸びた私の指先に、ルークはあろうことか噛み付いてきた。
「ひん!?なにしてるの!?手!汚いよ!」
甘噛みだからそこまで痛くは無いがこそばゆいし恥ずかしいし、汚いと思うのでやめて頂きたい。
本当になにされているのだ、私は。
ルークは少し口を動かすとパッと私の手を口から出す。歯形が軽く付いている。
「ロティに触れていいのは俺だけって言ったのに。
またあの子に触って。お仕置きだ。手は舐めて消毒してもいいな。手貸して。」
何をそんな真顔で正当な事を言っている風なのか。
意味が分からず慌てて叫ぶ様に拒否をした。
「だめだよ!!舐めても消毒にならないし、汚いよ!そしてアリリセとパーティ解散の挨拶の握手だったでしょ!?それ以上でもそれ以下でもないんだから!!」
「それでも他の人と触れ合ったら嫉妬するだろう?」
「それくらいで」
「嫉妬したから俺に呪いをかけたんだし。」
「???」
全てきちんと説明されなければもう私の頭はキャパオーバーになっているのに。物騒な単語が出てきた。
「俺がこの国でなんて呼ばれてるか、あの子言ってたの、覚えてるか?」
「えっと、確か勇者パーティの不滅の魔導師ルークとか最強魔導師とかだっけ?」
「そうだ。
呼び名はいくつかあるが、何故そう呼ばれているのか、俺は老けもしないし、死なないからだ。
もう100年以上生きている。人族ならもう老いているか、死んでいるだろう?俺は呪いのおかげでずっと不老不死でいられたんだ。」
そう言うとルークは自身の服を胸元から少しはだけさせた。胸元中央の左寄りに黒い痣がある。
それはルークの心臓を掴んだ手の様な形に見えた。
ルークはそれを大事そうに見つめて私に言う。
「これは前世の君が俺にくれたものだ。
ロティは前世、俺に呪いをかけたんだ。」
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