第7話 後ろから来られると思いの外動けない。

ロティsideに戻ります。



◆◆◆

河原で花を摘みながら、黄緑髪の男の子は優しい眼差しで照れた顔で私に言う。


「ねぇ、ロティ、大人になったら僕と結婚してほしいな。ずっと僕はロティと一緒に居たい。」


「私もずっと″———”と一緒に居たい。…神父様許してくれるかな…。」


私は俯きながら話す。

内心許して貰えない気がしてならない。


恋愛は悪い事じゃないのに悪いをしているようで後ろめたい。


男の子はスッと目つきを鋭くさせ、先程の声よりも低く唸るような声で話す。


「神父様…か…。僕はあんなやつ嫌いだ……。裏であいつが怪しい事をしているのはわかっている…。いつか曝け出してやる…。」


「そんな事…。″———”は神父様がなにをしてるか知ってるの…?」

「いや……詳しくは……。だけどもっと沢山証拠を集める…!今はまだ駄目だ…。」


男の子が抜いた花は力が篭ってしまったのか少し拉げてしまった。


だが拉げた花に男の子は気づく様子もなく、川を睨むように見つめている。


私は男の子からそっと花をとり形を整えた。

僅かに形が良くなっただけで完全には治らない。


治すために回復魔法をそっと唱えてやると花は忽ち元の形に戻った。


その様子を男の子は愛おしそうな目で見ている。


「僕は…絶対ロティを幸せにしたい。」



そう言うと男の子の顔が霞んでいく。



目を擦り開眼すると、銀髪の男の人が目の前にいた。



ここで私は今、夢を見ていることに気付く。

幼い頃に見ていた夢は、見る事をやめれなかった。

自分の意思とは関係なく、思い出したかのように夢に出てくる。


この夢を見るときには決まって必ず2人が出てくるのだ。

言葉がちゃんと聞けるのは初めててドキッとした。



銀髪の青い瞳の男性は、顔を綻ばせながら優しい目を私に向けて言った。


「これからは2人で暮らそう。予定通りラロランの町に行って。そこで家を借りて、ゆくゆくはきちんとした家を買おう。お金は俺が稼ぐから、ロティは家にいて、俺におかえりって言って欲しい。また料理を作ってくれると嬉しいな、ロティの手料理好きだから。」


「……ごめんね…。

元はと言えば私が″———”に呪いなんて掛けなければ、一緒に旅も出来たのに…。」


私は顔を伏せてしまうと、慌てて男性は弁解する。


「悪いのはロティじゃない!むしろ俺の方で…。俺がロティをー…」



◆◆◆



視界が揺らぎ、また顔が霞んでいく。


この2人はいつも私を想っているような口調で話してくれていた様な気がする。

頭がすっきりしない、何かを忘れている様で。


思い出したいのに思い出せない。








″…ィ………ロ……ティ………ロティ”



遠くで私を誰かが呼ぶ。

誰だろう、この声は。私は寝ていたんだっけ。





重たい瞼をゆっくり開ける。


眩しい太陽の光と長く美しい糸が見えたと思った。


はっきりしていく視界で見えたのは、糸ではなく綺麗な長い銀色の髪だ。


透き通る碧眼、通った鼻筋、艶がある綺麗な肌、私を見てほっとした表情は優しい。

中々に見ない美形であるといえよう。その顔が私を見つめ、名前を呼んでいた。



「おはよう。ロティ。」


整った顔の優しい笑顔でその人は私に言った。



「………ん???誰???どうなってるの??」


一瞬にして現実に引き戻された。


美形を目の前に体が硬直し、目が見開いてしまう。

まだ半分寝ている頭をフルに回転させる。


私は横になっていて、この人の顔が私の上にあるって、私の頭下にあるのって、まさか膝ではないのか。


「な、な、な、なんでこんな体勢に!?すみませ」

「ちょっと待って、今誰って言った?ロティ、俺の事覚えてるか?ルークだ。」


勢い良く起きようとしたら、素早く頭を押さえつけられてしまった。

綺麗な顔で怪訝そうに私を見つめる。



「え…と?どこかで会いましたっけ?」


目覚めたての頭には情報過多だ。処理が追いつかない。



だが、私がそう言うと明らかに表情が変わった。

今度は動揺しているようだ。


「と、とりあえず起きたいので、いいですか?」


押さえられていた頭が今度はすんなりと抜け出せた。

上体を起こし、顔色が悪くなった美形を見る。


(あれ?そういえば、この人…夢に出てきた人かも?)


まじまじと穴が開くほど見てしまう。


銀髪の青い瞳に整った顔。今は顔面蒼白気味だけだが。

髪の長さはだいぶ違うけどこの人に間違いない。

だからといって、夢で見たから現実で唐突にフレンドリーに接せる訳でもない。そんな事したら私は変な人だろう。



「ロ…ロティ。大丈夫か?」

「アリリセ!!ごめん!!私気を失ってたよね!?無事!?」


おずおずとアリリセに声を掛けられハッとして、銀髪の人から離れ、急いでアリリセに近寄りしゃがむ。


座っているアリリセの頭を両手で掴んで状態を確認した。


かすり傷はあるものの大きい傷も出血もない。

そういえば気を失ったのは戦闘中だった。あれからどうなったのだろう。


頭を掴んだまま辺りを見ると魔狼が倒れていた。死んでいる様だ。

私はアリリセに申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら眉を下げて尋ねた。



「アリリセが倒したの?ごめん、私、気を失うだなんて…。」


戦闘中に気を失うなど、死ぬ様なもんだ。

謝るとアリリセは首を振り、顔を赤くしながら言った。


「倒したのは俺じゃない。その人、ルーク・ロイヴァさんのおかけで、あ。」

「え?っひぁ!?」


アリリセの頭から手が離れた。


私は後ろから強い力で引っ張られ、よろけてしまう。


倒れるのかと思って身を縮こませると、ルークと呼ばれた人にがっしりと後ろから抱きしめられている。

顔面蒼白はどこへやら、今は多少怒っている様な顔だ。


「この人に触れないように。ロティを触っても触られてもいいのは俺だけだ。」


アリリセは睨まれて固まっている。

私は大混乱中だ。状況が読み込めなすぎる。



「ちょ、ちょっと待って、私ロイヴァさんとお会いしたことありまひた??そして一回離して頂けると有り難いです!私触っていいなんて言ってませんし!」


噛んじゃった。

仕方ない、この顔と距離間では緊張してしまう。

さすがに心臓に負担をかけ過ぎだ。

訳も全くわからない事だし。



抱き締められている腕に力が篭り、凄く苦しそうな声でルークは口を開いた。



「……離すのは嫌だ。もう絶対嫌。無理。」


私の右肩に頭を乗せて顔を伏せてしまった。

私の中身が飛び出るのではないだろうか。

心臓酷使し過ぎで痛い。


抱きしめているのだからきっとこの鼓動がルークにも伝わっているはずで、気恥ずかしくなる。



だがルークの言っていることは大好きなものと離れがたい子供の様だ。

見た目と言葉が合わず言葉に詰まる。


しかし、何故こうも抱きしめられているのに不快感がないのだろう。寧ろ、心地の良さに混乱してしまう。

いつもは触られるだけでもぞわぞわと鳥肌が立ち、嫌悪感でいっぱいになるのに。



正直、顔が整っている冒険者は他にもいた。

手を勝手に繋がれ、体が拒否し凄い勢いで振り解いたのを覚えている。肩を抱かれた時にはクルクル回って逃げたっけな。


なのにこのルーク・ロイヴァという人はどこか懐かしくて安心すらしてしまう事に自分でも訳がわからない。

だが勿論恥ずかしさもある。ちらりとアリリセを見ると少し考えながら私に言った。


「えー…と…。ロティはルーク・ロイヴァさんと知り合いじゃなければ、誰かも分かってない?

名前は聞いた事あると思うんだけどな。勇者パーティの不滅の魔導師ルークと言えば、結構有名だと思うけど。最強魔導師とも呼ばれてるよ。」


「勇者パーティ…あ。そういえば名前が掲示板に書いてあったね。私、勇者パーティとかあまり詳しくなくて…その勇者パーティの人がこのロイヴァさん?」


がっちりと捕まれ手すら封じられているため目線でルークを指す。


「うん。俺、ギルドの似顔絵で見たことあるし。一昨日掲示板を見た時にはまだ帰還中って書いてあったからびっくりしたけど…。」


ルークの頭が勢い良くあがったと同時に少しだけ腕に込められている力を緩めてくれた。

角度があるため、顔はあまり良くは見えないものの私の方を向いてルークは口を開いた。


「まだ勇者達は帰還中だ。ロティの連絡を受けたから俺だけ今日魔法で戻ってきた。王都のギルドから情報をもらって急いでタルソマの町に行って、改めて情報を聞いたらシュワールの森に行ったっていうから追いかけて来た。」

「わ、わたしの連絡?」


「ロティの特徴と名前は何年も前からギルドに言ってあったからな。来たら俺にすぐに伝える様にと。

なのに古代竜のせいで情報が今日になった。」


私とアリリセは固まってしまった。

訳がわからなすぎて流石にどういう事が説明が欲しいと思う。

さっきから頭がパンクしそうでならない。


私はアリリセに開き直って話し掛けた。


「よし、わかった!全然わからない事がわかった!アリリセ、急ぎ気味で帰ろう!んぐっ!!」


ルークの腕にまた力が入った。

ルークによる圧死が先か、私の心臓が早鐘を打つ事に耐えられずの爆発が先か。


とりあえず身がもたないので急いで弁解する。


「ロイヴァさん!この男の子、アリリセって言います、この人の依頼で私はエルダーの花を取りに来たんです!

妹さんがさっきの魔狼の瘴気にやられて、体に瘴気跡が出来ているんです。

エルダーの花は摘んであるので、後は帰って妹さんにエルダーの花を加工して塗ってあげたいんです。


だから1度一緒に私達と来て頂けますか?

勘で申し訳ないのですが、きっとロイヴァさんの話を理解するのはこの依頼が終わってからの方がいいと思うので…。そして心臓がそろそろ爆発しそうなので離して欲しいでつ…。」


また噛んだ。折角早口で綺麗に言えたはずなのによりによって最後で噛んだ。



悔しがっているとルークが体から離れ拘束が解かれた。


ルークから離れた体が軽く感じる。

ルークの顔を見ると口角があがり、なぜか嬉しそうな顔をしていた。理解した様子で頷いてくれる。



「…わかった。じゃあ、さっさと帰ろう。そこの魔狼も弄りたいから回収する。」



私から離れたルークは歩いて魔狼に近づき、自分の鞄を前に突き出した。

すると魔狼の体がニュルンと鞄に吸い込まれてしまった。


「うわぁ…。魔法鞄??滅多にお目にかかれるもんじゃない…。」


アリリセは目を輝かせて話す。

確か凄く高価な魔導具だったような気がする。

どうせ手に入る事はないものだったから、あまり覚えていない。


アリリセはどうやらルークを不審者としては見ていないようだ。アリリセの言う様に本来なら凄い人なのだろうが、初対面にして色々されている身としてはどうも信じがたい。


魔狼を鞄にしまい戻ってくると、私達の足元に魔法陣が出来た。すかさずルークは私の手を取り、何も言わずに自身の手と繋いだ。


「手…」

「え!?まさか!?転移魔法!?お、俺初体験!!」


アリリセは興奮していて魔法陣を食い入るように見つめて声を上げた。


私の声が完璧に掻き消された事に少し悔しくなるが、私も転移魔法は初めてでどうなるのかわからなくて自然と恐怖を感じる。


手を握るルークが私を見つめ優しく話す。


「転移魔法を使える魔導士は限られているからな。

さ、タルソマの町の入り口でいいか。」


ルークは返事も聞かずに魔法を発動させると私達3人は光に包まれその場から転移をしたのだった。




❇︎ 勇者一行の名前と職業

アレックス・エズモンド 職業勇者

ルーク・ロイヴァ 職業魔導師

エドガー・エーデルマン 職業ガーディアン

サイラス・リジーナ 職業魔導師、治癒師

リニ・ルロクバ 職業アサシン

ノニア・ブロット 職業魔物使い

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