第6話 綺麗なものは光って見える。

アリリセside



ロティの体から急に力が抜けて、俺は慌てて掴んでいたロティの右腕を引き倒れそうな体を支えた。


「ロティ!!」


出血が多すぎたのか、それともモロに瘴気が体に入ったせいかロティが気を失ってしまった。


ロティの顔色は青白くて俺の心臓が焦りでバクバクと早鐘を打つ。


このままではロティが、辛そうな為中途半端に支えていた体をロティの背中に手を回し脇を支えるように抱き支え直した。


魔狼が後少しで倒せそうとはいえ、この状態はまずい。

抱き抱えながらでは逃げる事も剣を振るう事も出来ない。

ロティを地面に置けば、魔狼にロティを狙われてしまうかもしれない為離す事も出来ない。



絶体絶命のピンチに少しでも牽制しようと俺は剣を構え、魔狼に向ける。


魔狼はまた口に火を溜めている。また火の弾を打つ気か。


「くそ!!」


この体勢じゃロティ諸共当たってしまう。


剣を持ち直し、急いで横抱きで抱えようとした。



その時だった。


「君、ストップ。やっと見つけたと思ったら、緊急事態らしきとはいえ、それはあまり見せられなくはないな。」


上の方から男の声がしたと思った次の瞬間、強風が俺達を包み込んだ。


俺は強風に目が開けていられず閉じてしまった。

状況がわからないのに体が急に軽くなり、不安になる。



風が弱まるのを感じ瞬時に開眼すると、俺が支えていたロティが腕の中にいない事に気付き、慌てて周囲を見回した。


声のした方を見るとロティが空中で浮いている男に、抱き抱えられていた。

怒りと焦りで怒鳴りそうになったが、その男をよく見ると俺は目が飛び出しそうな位驚いてしまった。



「ルーク…ロイヴァ…?」


まさかこんなとこにいるはずがない。


だがその特徴的な容姿は何度もギルドの掲示板で見た事があった。

忘れるはずもない英雄の姿だ。




ルークと思われる男は俺に怪訝そうな顔をしながら口を開いた。


「そこの君、呆けている途中で悪いのだが、俺はあまり今機嫌が良くない。魔狼は倒してしまう。」


ルークは魔狼に手を向けると横にスッと動かした。

ブシャッと血が噴き出る音がしたと思ったら、魔狼の大きい体が地面に倒れた。



「…死ん…だ?」


あっという間の事で俺は呆然としてしまう。


無詠唱だったのか、手を振りかざしただけなのに魔狼は倒れてしまった。

どうやったのか仕組みが全然分からず頭が混乱する。



魔狼は口を半開きにして全然動かない。


半開きの口やルークが切った傷口から血がドクドクとゆっくり溢れ出ていた。

魔狼の瞳に光は見えず、一瞬にして生き絶えたようだった。体を纏っていたドス黒い瘴気は今はもうなにもない。




「殺した。この人を傷付けた罰だ。ついでにあっちの燃えてる木も消火しておこう。」


そう言いながら、ふわりと地面に降り立ったルークはロティをそっと丁寧に地面に降ろし、燃えている木の方に手を翳した。


木の上に魔法陣が出来たと思ったら勢い良く水が落ちて火が消えていく。



魔法を放ったルークは自分の小さな鞄から、自身が持っていたポーション2つを取り出してロティの肩に掛けた。


一つは黄色のポーション、もう一つは赤に近いピンク色のポーション。


服も気にせず、ロティの咬まれた傷がある肩付近に液体を満遍なく掛けている。

じわじわと傷口が治っていき、肩の傷口から出ていた瘴気も消えていく。



ロティの傷口から溢れていた血と瘴気が見えなくなったからか、俺の体の力が抜けてへたりと地面に腰を下ろした。


剣が手から滑り、カランッと地面に落ちる。

ドッと安心と疲れの波が押し寄せてきたようだ。


「ありが…とうごさいます…。貴方がいなかったら…どうなっていたか…。」



ブルブルと身震いをした。

本当にどうなっていた事だろう、あまり考えたくはない。


お礼を言ったがこちらを見ないルークは、ロティを見つめて何かを考えている様子で言う。


「感謝なんてしなくていい。この人を助けるのは当然の事だ。とりあえず起きてもらわないと困るから…。君…少し向こう向いてて。」


そう言われなぜ?と聞きそうになったが、ルークは命の恩人だ。疲れもあって何も言わずにゆっくりながらも反対の方向を向いた。


だが、こんな英雄とロティは知り合いや友達なのだろうか?なのに何故小さなタルソマの町になんかいるのだろう?次々と俺の中で疑問が浮かんだ。



「こちらを向いて大丈夫だ。」


ルークが言った言葉にハッとして振り返ると、ルークはロティを膝枕しながら、凄く満足そうな顔をしている。

ルークは俺に向ける声とは違う優しい声でロティの手を取り名前を呼ぶ。


「ロティ。ロティ…。」


なんとも美しすぎる美男美女の姿は、一枚の絵画を見ているようだ。

眩し過ぎて目眩を起こしそうだった。


「…ん。」


何度も名前を呼ばれたロティが重たそうな瞼をゆっくりと開けると、俺の地に落ちていた心が救われたような気がして、また涙が溢れそうになった。



❇︎アリリセはパーティ募集に剣士募集があればパーティを組む。本格的に冒険者になりたいものの、妹がまだ幼く、家業の手伝いもあり中々踏み切れない。



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