第1章①
裁判が終わって家に帰るや
テンションはうなぎ登りで上限を知らず高まって行く。今にもスキップしてしまいそう! これから仕事探しにご近所付き合い、その土地の慣習にも
まぁ! いつの間にか本当にスキップしちゃっていたわ! あらやだ、言葉がまだたまに令嬢っぽくなっちゃっている! もう必要ないのに! そう! 必要ないのに!
スキップじゃ足りない! ダンスの先生に教えられている時は大嫌いだったのにワルツを
家を出て十五分足らずにして私がテンションの上がり過ぎにより
「フェリシア様…!」
「…あら、エヴァン様」
私の目の前に立ちはだかるはレディロの
俺様
でも自由を手に入れる
「私は…フェリシア様が無実だと確信しております! 共に
あ、いえ、盛り上がっているところ悪いんですけど、マジでそういうのいいんで。
これがゲームの一場面なら一枚絵スチルが手に入りそうな真剣な表情で朝日をバックに
「エヴァン様、それは
はい、この程度の口から出まかせは、俺様殿下がやらかした事に巻き込まれ両親から
「フェリシア様、そんなにも…殿下の事が…っ」
「ええ…一生に一度の恋でしたわ」
私が大嫌いな俺様殿下をあくまで好きだった設定にしている事には理由がある。本来、私の今の立ち位置はリリちゃんが立つはずの場所だった。そこに主人公役の私が立つ事で望まないシナリオ変化が生まれ、望まない結末になる危険性を想定したのだ。
エヴァン君はレディロ主人公に一目惚れ設定だ。という事は、ここで私がボロを出し
ダメ。そんなのダメ絶対。殿下から
だから、ここで間違っても救済の
それにあたり、俺様殿下の事まだ好きよって言い訳が都合良いかなってそれだけの理由で殿下を好きなふりをさせてもらっている。セス様、貴様の事は
「…もう行かなくては。旅立ちはやはり朝に限りますわ。エヴァン様、最後に私に会いに来てくださりありがとうございました。貴方は優しい、私の友でした」
涙目の笑顔で、遠回しにお前恋愛対象じゃねぇからと
ちなみに私とエヴァン君は実際のところあんまり話した事も無いので、本心で友達なのかと聞かれたなら
ああでもエヴァン君、私エヴァン君のハッピーエンドルートで初めて主人公のお願いを
「っフェリシア様…!」
私の見た目演技は
私はそれに
「今は俺を好きじゃなくてもいいから! だから! 俺の手を取ってください! 俺は…っ俺は貴女が好きなんだ! 俺を選んでください…! そうしたら貴女を連れて逃げる! 二人でなら平民でだって幸せになれる! いえ、幸せにしますから…!」
後ろから聞こえる情熱的告白。
でも平民というものの評価が低過ぎてそもそも私の前提と違うので
「…ごめんなさい。私の事は、忘れて」
よって私は悲痛な声で、けれど内心では
なんという時間の
いや、時間の無駄なんてさすがに言っちゃいけないよね。ごめんねエヴァン君。君、ほぼ一目惚れでここまで重くなれるぐらい恋愛
● ● ●
私が平民になってから、何だかんだあっという間に一ヶ月が過ぎた。望んだ暮らしを手に入れた後、私は意外とこんなものかなんて失望する事微塵もなく、毎日この幸せを神に感謝しながら平民ライフを送っている。
前世の日本で暮らしていた私は平民でそれを当然と思っていたんだけど…こうして貴族から平民に戻る経験をすると、なんと
日々生きる為の最低限の食べ物に困り帰る家もなく寒さに
…それは
誰も特別不幸にならない結末、これも一つのハッピーエンドだと私は思う。
「フィーちゃんは本当に楽しそうに働くねぇ」
私の現在のお勤め先である、パン屋の店主ミシェルさんがにこにこと私を見ながら言った。私は笑い返す。
ちなみにフィーちゃんというのは
平民は地域にもよるけどファミリーネームが無いのが
「お仕事、本当に楽しいんですもん」
「お金の為に若い
「そう言って頂けて私も光栄です」
仕事自体も人間関係もこの通り至って良好だ。しかもその日余ったパンももらえる。なんて最高の職場なのか。町に一つだけあったパン屋さんを訪ねたら
「でもあんた、ちょっと太ったけど
「…し、幸せ太りなんです! 大丈夫、今はまだちょっと浮かれちゃっているだけで、すぐテンションも体重も
私は冷や
「そうそう、フィーちゃんはせっかく
「そ、そうなんですかー」
冷や汗が増した。そんなどうしようもない所からボロが出ていたとは。
ああでもそういえば、長かった
「ま、ご令嬢がこんな町のパン屋で幸せそうに働けるはず無いさね!」
「ですよねぇ」
世間の一般常識が味方してくれているお
こうして話が一段落したところで店のドアが開く音が聞こえた。私はさっと店員の顔となり、
「いらっしゃいま!……せー」
そこに居た二人の護衛を後ろに
「
いいえそんな人は居ません。お引き取りください。…とは、色んな意味で言えない。
平民の暮らす町には見た目も存在感も何もかもが似つかわしくない目の前の人物、名前をニコラス・キャボット。彼はレディロの
「…ああ、失礼。髪を短くされているから一見ではわからなかった。久方ぶりだな、フェリシア嬢」
ニカ様は、
さて、それは置いておいてそんなニカ様と私の関係だが…ニカ様は、なんとあの俺様殿下セス様の腹違いの兄上様だ。要するに
…でも、何で今更ニカ様が私に会いに来た? うん? 嫌な予感しかしないよ?
「ニコラス様、お話でしたらお
「…フェリシア嬢、君が名を捨てる必要は無い」
「ニコラス様、私の名は、フィー・クロウなのです。どうかご理解ください」
「…わかった。君の意を
「かしこまりました。ご理解ありがとうございます、ニカ様」
深く一礼した私は、顔を下へ向けている間だけ表情を
とはいえ平民の私が、たとえ以前の身分だったとしても、ニカ様程の身分のお方を追い返すなんて無礼な
私は
「ミシェルさん、自分勝手なお願いで非常に申し訳ありませんが、彼と話して来てもよろしいでしょうか…?」
「ああ、何やら込み入った事情がありそうだし、相手はお貴族様みたいだしね。行ってきな」
「私情で仕事に穴を空ける事、本当に申し訳ありません。ありがとうございます」
勤務一ヶ月で早くも仕事に穴を空けるなんて胃が痛い。そしてニカ様の話の内容も想像するだけで胃が痛い。
私は心苦しく思いながらもニカ様の居る方へと戻った。
「お待たせ
「いや、急に押しかけて
王族でありながら、現在平民な私の暮らしや人間関係にも
ちなみにどうしたってぐらい私がニカ様を
「場所を移そうか。…
別に未婚なのはどうでもいいし、紳士誠実なニカ様が私を
──冷静によく考えろ、フィー。レディロをお前は何周した? ニカ様ルートを何度
まさかとは思うが、シナリオ
「ニカ様、実はすぐそこに私の今の家がございます。平民の家ですので
「…それは、しかし未婚の女性の家となると馬車より問題だと思うが」
「大丈夫です。平民の私がニカ様にどんな意味でも手を出せば、
私は堂々と胸を張り、あえてニカ様の
ニカ様は少し困った顔をされたが、私に手を出す気はさらさら無いし早く話もしたいのだろう。結局私の家での話し合いを
…王族の護衛がたった二人だけでいいんだろうか? 私が心配する事じゃないだろうけどちょっと気になる。
まあそれは
私が再三
そこでニカ様に付加された設定こそ、紳士誠実なのである! ニカ様はゲーム内で、紳士誠実
そんな訳で、ニカ様と
こうして私は自分の
ニカ様を我が家にお招きし
「何も出さなくて結構だ。いきなり押しかけたのは此方だし、目的はフェリ…フィー、と話す事だけだからな」
空気の読める人って
私はお言葉に甘え、大人しくテーブルを
「さて、単刀直入にまず用件を言おう。私は君の
嫌です、やめて!
テーブルを両手でぶっ
しかし言うべき事は言う。
「その必要はありません。私は、フィー・クロウとして
冤罪どうこうはあえてとぼけなかった。たぶんニカ様が
だいたい、私と親しくしてくださっていたニカ様からあの後何も
ニカ様には
ニカ様は私の答えが意外だったようで、
「
おや。これは私の答えの
何とか殿下の
「…リリアナ様の方が、殿下にお似合いになると思ったからです」
私は
…ふふん、どうだ! しかもこれ、噓は言っていない。内心では俺様殿下が大っ
「…それはまったく、ありえない話だ」
……。いえ、
「確かに、我が弟は
私の天使令嬢リリちゃんがボロクソ言われてる。酷い。
というか、ニカ様はそう
「私は、リリアナ様の
「罪無き君を
もう私がいいって言ってるんだからいいでしょ!? しつこいな!
というか、ニカ様が私の冤罪を晴らしたいのは本当だろうけど、それを前提としてもどうにもリリちゃんの事を嫌い過ぎていないか? 自分が
「お
「…フィーは
「ふふ、次いらっしゃる時は私のお仕事がお休みの時にお願いしますね」
この時の私はこれからニカ様が週一というアホみたいなハイペースで会いに来ることなんて思いもよらなかったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます