第24話
離せというのに、なぜか逆にがっしりと抱きしめられてしまった。
もふもふの胸元に頬が埋まる。
困ったようにロベルナを見上げるホシオトを、ロベルナはさも大切な宝物を扱うかのように、けれど誰にも盗られてしまわないように、世界から隠すかのように強い力で両腕に閉じ込めたまま動かない。
「……」
らしくないロベルナの行動に、ホシオトは「なに、私と離れるのが寂しいの?」なんていつものように軽口を叩こうとして、やめた。
代わりに、おずおずと自分も両手を回してロベルナに身を預けた。
ふわふわの毛が、温かい体温が、少しだけ早い心音が、力強い身体が、ホシオトの華奢な身体を包み込む。
あの夜、ホテルの一室で感じたような安心感を覚えた。
さくらの花弁が風に舞う。
風に吹かれて、木々が小さくざわめく。
世界に、ホシオトとロベルナの二人だけしかいないような錯覚に陥る。
人里離れた聖域の果てに、たった二人。
ここが世界の中心なんだ。
ぎゅうっと、お互いの存在を確かめるように、心に身体に記憶に、刻み付けるように抱き合ったまま、どれくらい経っただろうか。 そっと離れると、二人は自然と微笑みあった。
「元気でな、ホシオト」
「あんたも、元気でね」
名残惜しく、数秒だけ見つめ合い、ホシオトはくるりとロベルナに背を向けた。
振り返らなくても、ロベルナが優しく見守ってくれるのがわかる。
ふう、と息を吐いて、けれどももう振り返らずにホシオトは一歩一歩、踏みしめるようにゆっくり洞穴へと入って行った。
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