第23話



「この中を通れば、帰れるんだよね」


ホシオトはおそるおそる、洞穴に近づく。いよいよ帰れるというのに、妙に不気味なその洞穴に入るのだと思うと勇気を奮い立たせなくてはならない。


「ああ、そうだ。よかったな、やっと帰れるぞ」

「でも、これほんとに大丈夫? 全然普通の洞穴だけど。むしろ不気味なんだけど。これが私の世界と繋がってるの?」

「さあな。確証はない。行った先からはもう戻ってこれねぇって、長老も言ってたろ。一方通行の行ったっきりだ。あの世だったとしても、誰も文句は言えねぇわけだ」

「……うう」

「そう硬い顔すんなよ。俺が悪いみたいじゃねぇか。冗談だよ。心配すんな。……けどまあ、どうするか決めるのはお前だ。この世界に残りたいっていうなら……」

「行く、行くよ。だって、私この世界じゃ生きていけないもん。あんたに頼りっぱなしだったし。迷惑ばっかりかけたし。ありがとね、ここまで連れてきてくれて。耳としっぽだけじゃなくて、あんたって本当に立派な人だと思う。敬える要素めっちゃあるよ。私、あんたに会えてよかった。じゃ、さよなら」


ホシオトはロベルナとつないでいた手を半ば無理やりに振り払うように離して、どろりと暗い洞穴の黒い闇に臨みながら、早口でさらりと言って大きく一歩を踏み出す。

身体が洞穴の闇に飲み込まれるような嫌な感覚が襲う。


「待て!」


全身が飲み込まれるすんでのところで、ロベルナに物凄い勢いで腕を引かれた。


「……な、なんか忘れ物?」

「……」

「……」


なんと言えばいいのか、互いに考えあぐねているせいで気まずい沈黙が辺りを包む。

更に困ったことに、ロベルナのがっしりとした手がホシオトの華奢な腕を掴んで離さない。

こんなに強く握られては、跡が残ってしまいそうだ。


「本当に行くのか。行った先がお前の元いた世界じゃねぇ可能性だってあるのに?」

「ここまできて、迷うわけないじゃん。だって、たくさんの迷い人がこの洞穴に入って行ったって長老さんも言ったし。大丈夫だよ。もともと、あんたの目的地まで馬車に乗せてもらったあとは、自分でなんとかするつもりだったんだ。ここからは一人で歩くよ……あんたはありがたくも、こんな山奥まで送ってくれるお人好しだったわけだけど。顔怖いのに、優しいよね」

「……」

「なんか言えば? だいたい、他に方法がないんだもん。ここに賭けるしかないよ。もしかして心配してくれてる? 大丈夫だって、家に帰るだけだよ。世界の副作用、なんて、たぶんすごい低い確率でしか起きないだろうし。それに、あんただって私の面倒を見なくて済むんだから、せいせいするでしょ」

「いやに饒舌だな。それになんださっきの。別れ際にだけ素直になりやがって」

「……照れるから言い逃げしようと思ったのに! 引き止められるって分かってたら絶対に言わなかったよ」

「最後まで可愛くないやつだな」

「も、もういいでしょ! 離してよ、うわっ!?」

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