第21話
長老はそこまで言って、ふう、と息を整える。
長い白髪で隠れていた目が、ホシオトとロベルナを交互に見やる。
「ただし。行き道しかありません。あの洞穴は一方通行なのです。万が一こちらの世界になにか未練があったとしても、戻ってくることはもう二度とかないません」
「別に、戻ってくる気なんてさらさらないよ。問題ない」
「左様ですか。そちらの獣人の方。貴方様は、この世界の住人ですね」
「そうだ」
「では、お見送りは洞穴の前までで。一歩でも洞穴に入ってはいけません。よいですね」
「ああ。わかったよ」
「……」
饒舌に説明してくれていた長老は、急に俯いて言いよどむ。
「して、異世界よりいらっしゃった迷い人の貴方様。貴方様の戻りたい世界とは、どちらでしたかな」
「えっと、東京だけど。日本の。これで伝わる?」
「もちろん、存じ上げております。……これまでにも、数十人の異世界人がこの村を訪ねてきました。ほとんどの方は、この世界の住人と一緒にいらっしゃいました。きっと、ここに来られるまでに苦難を乗り越え、絆を深めた方々だったのでしょう。貴方様方のように」
隣にいるロベルナと顔を見合わせる。
絆を深めた……。
自分たちはそんなに深い仲ではない、と思う。
初めて会った時より、距離は縮まったのではないかと思うけれど。
それを自分の心の中で思うのと、他人に指摘されてしまうのは全然違う。
「そ、そういうのじゃないから」
「俺たちはただ、旅は道連れって成り行きで一緒にいるだけで」
けれど長老は二人の言葉をにこやかな笑顔で受け止めて、けれど再び重苦しい様子で続ける。
「ほとんど、そうですね。九割の方はそのお仲間様と別れて、ひとり洞穴を通ってゆかれました。けれど、中にはお仲間様とともに下山し、この世界で暮らす決意をなされる方もいらっしゃいます」
「……それは、どうして? 帰り方がわからないならともかく、目の前に帰り道があるのに」
「大変心苦しいことなのですが……。あの洞穴が、必ずしもあなたの世界につながっているという確証がないからです」
「えっ!? い、今なんて?」
「ああ、いえ。十中八九、元の世界へと通じているはずなのですが。先ほども申し上げました通り、世界には時折、副作用が働きます。ですのであの洞穴を通るとき、時空の歪みが生じる可能性も決してゼロではない、ということでして」
「でも、まあ、その。可能性は低いんでしょ? ここまで来たんだし、そもそもほかに方法がない以上、私はその洞穴を通るよ」
「承知いたしました。それでは、聖域まで案内いたしましょう。付いて来られませ」
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