第20話


光に包まれたかと思うと、次の瞬間には目的地に到着した。

ホシオトとロベルナは拍子抜けなほど簡単に村の前に立っていた。

山の奥というだけあり、朝だというのにどこか薄暗くて、空気がしんと澄んでいる。


「こんなに便利な魔法使えるなら、馬車で旅なんてしなくてもいいのに」

「その便利さに依存しすぎないため、そして一般人と価値観が乖離しすぎないために旅の厳しさを知るっていう課題なんだよ」

「ふーん、魔法使いのノブレスオブリージュ的なものかな。ちょっと違うか」


ロベルナが村の入り口の門番役の兵士に洞穴を探している旨を話すと、珍しい話ではないようで、すぐに長老に取り次がれた。

村の内部は閑散としていて、ぽつりぽつりと石器時代のような文明レベルの竪穴住居が構えてある。

いくらなんでも、時代に取り残されすぎているのではないかと、ホシオトもロベルナも心配になった。

村自体、そう広くはなさそうだ。数分歩いた先にある家が長老のいる家だと紹介される。 他の家々とそう変わり映えのない粗末な造りの竪穴住居だ。家の後ろには見上げるような大きな楠木がそびえている。村のご神木だろうか。

兵士に促されるまま、中に入る。

家の奥に、葉を編んだような敷物にどっしりと構えた老人が座っていた。

この方が村の長老だろう。

年相応の老人らしいゆったりとした、けれど堂々とした口調で長老が口を開く。


「お二方や、遠い地からはるばるこのような辺鄙な村までご足労いただきありがとうございます。そちらにおかけになって、楽にしてください」


そう言って示されたのは、長老が座っているのと同じ葉で編まれた敷物だ。二人は頷いて敷物に腰をおろす。


「貴方様は、異世界からお越しだそうで」


ホシオトの方を向いて問う。


「はい」

「それはそれは。大変苦労をなされたでしょう。貴方様は、世界の動きに巻き込まれてしまったのです」

「え、と。世界の……?」


目の前の老人の言葉を瞬時に理解することができない。


「はい。無数に存在する世界は、通常干渉し合うことはありません。しかし、それぞれの世界が正常に働くにあたって、世界と世界が衝突してしまうことがあるのです。そうですね、副作用とでも申しますか。あるいはバグ、とでも表現する方がわかりやすいでしょうか。ゆえに、ごく稀に隣合う複数の世界から他の世界へと、異物がまぎれてしまうことがあるのです」

「い、異物」

「私の、この村の役目はそういった異物の対処をすることです。もちろん、乱暴な手を使うわけではありません。貴方様方はすでにご存知のようですね。はい。この家の裏に立つ楠木の奥が、聖域です。参道を抜けた先に、異世界へとつながる洞穴がございます。内部は闇が広がるばかりですが、障害物のない一本道です。安心して、まっすぐにお進みください」

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