第15話


「……どこに向かってるの、馬車?」

「せっかく街に来たんだ、野宿なんてしない」

「じゃあどこに」

「ホテルだよ」

「!!」

「あ、変な想像しただろう、これだから思春期のガキは扱いにくい。ただの旅人用の施設だよ。余分な金は使いたくねえから相部屋にはなるが、ベッドは別なんだ。贅沢言うんじゃねぇぞ」

「え、それって」


お姫様抱っこのままで、躊躇いもせずスタスタとホテルに入り、迷わずに階段を登って行く。片手でホシオトを支えたまま、器用に鍵を開けて部屋に入る。


「も、もうおろして」

「はいはいっと」

「わっ」

「なんだ、腰が抜けたのか」

「……」

「まあ、あんなことがあったんだ。ショックだったろうよ」


いつになく優しい声色でロベルナが気遣うように頭を撫でた。


「ほら、ベッドまで運んでやるよ。もう休め」

「……シャワー、浴びたいんだけど」

「あ? 腰抜けてんだろ。回復してからにしろよ。俺は人間のガキを洗ってやる趣味はねぇし、一緒に入ってやる気もねぇ」


言葉とは裏腹にベッドに優しくホシオトをおろし、自分は向かいにあるソファに腰をおろす。


「…………」


ありがとうとか、なんで助けに来てくれたのとか、聞きたいことはたくさんあったが、なによりも壁に囲まれた清潔なホテルの一室にふたりでいることに対して言い表せないほどの安堵感に包まれていた。

ここまではあのスキンヘッド男は来られない。何かあってもきっとロベルナが守ってくれる。

今夜はふかふかのベッドで枕を高くして眠れそうだ。そう思えば、自然と涙が零れてきた。


「うおっ、泣いた! なんで今泣く? 意味わかんねえ」

「う、うるさい。だって止まらないんだもん。泣きたいわけじゃないのに」

「はいはい、ここには俺とお前しかいねぇ。誰も咎めねぇ。好きなだけ泣けばいいだろ。目が溶けちまっても知らねぇぞ」

「溶けないよばか!」

「そうかよ、俺はシャワー浴びて寝る」

「……」


むすっと押し黙ったままのホシオトを置いて、ロベルナはさっさとシャワー室へ向かってしまった。


「温かいシャワー、いいなぁ」


ぼそりとホシオトが呟く。

でも、もう明日でいいや。疲れた。

シャワー室から、ロベルナがシャワーを使う音だけが微かに聞こえてくる。






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