第16話



ぽふ、とベッドに横になった。

ごしごしと乱暴に涙を拭う。

スキンヘッド男に握られた腕は、少しだけ赤くなっていたが、それ以外にはとくに外傷はない。服が破られたくらいだ。一張羅なのに、どうしろと言うんだ。もう使い物にならない。

投げやりな気持ちでベッドの脇に適当に脱ぎ捨てた。ぱさり、と床に落ちてしまったみたいだが、どうせ着られないのだから、もういいだろう。

露になった上半身を隠すように、首までしっかりと掛布団に包まる。ロベルナは自分の服は貸さないと言っていたが、まぁホテルだから、バスローブ的なものくらいあるだろう。

あとでそれに着替えて、街で新しい服を買って……それで、異世界につながるという洞穴について情報を探さなくてはならない。

課題が山積みで、しかもいかに自分が無力か思い知らされたのだ。

頭が痛くなる。

ガチャリとノブの音がした。ロベルナがシャワーを使い終わったのだろう。


「なんだ、寝たのか」


こんもりと布団に潜り込んだホシオトを一瞥し、ロベルナは保冷庫から出した冷たい水を飲み干す。


「……寝た」

「ならそりゃ寝言か?」

「ねごと」

「随分とはっきりした寝言だな。会話までできるのか」

「……」

「おーおー。こんなところに服脱ぎ散らかして……あーあ、こりゃひでぇ。びりびりだ」


ロベルナは床に放り投げられたホシオトの服を目ざとく見つけて拾い上げた。

仕方ねえな、と呟き、服の上に手をかざす。ぽう、と光り輝いた。

布団越しに、ホシオトは何事かと目だけロベルナの方を向ける。


「これで元通りだ。いや、前よりもっと良くなった。ほら」

「わっ」


放り投げられた服が見事にホシオトの顔に落下する。なにすんだ、と服を引き剥がすと、あんなにボロボロにされた服が綺麗に修繕されていた。

しかも、襟のところにはもふもふした毛皮のようなファーが付いている。元にはないデザインだ。どことなくロベルナの毛並みの色と似ている。


「……ほんとに魔法使いだったんだ」

「卒業前だから、むやみに使いたくねえんだけどな」

「そういうの平気で破りそうなのに、律儀だね」

「何を勘違いしてるのか知らんが、俺は真面目な生徒なんだぞ」

「ふ〜ん」

「じゃなきゃ魔法使いになんてなれるわけねぇだろ。と、そうじゃなくて、言いたいことがあってな」

「ねえ。あの時、スキンヘッド男が動かくなったのもあんたの魔法のせい?」


ホシオトは素早く服を着直して起き上がる。


「あ、なに、言いたいことって」


ちょうどロベルナの言葉にかぶり、遮ってしまったので、問い直す。襟に着いたふわふわのファーが首筋に時折当たって気持ちがいい。 前よりも好みかもしれない。

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