第14話
悔しいけど、私は情報収集も一人で出来ない子どもだったみたい。あーあ、もう、なんでもいいや。
薄く目を開けてみると、スキンヘッド男の顔がドアップだ。このままなにか酷いことをされるのだろうな。涙目のまま、諦めたようにぼんやりとスキンヘッド男の背後の空を見ていた。
「……?」
けれど、数秒経ってもスキンヘッド男は動かない。
あれ? 拘束された腕も、力を失ったように添えられているだけだ。よくわからないけど、動けないのか? 何にせよ今なら逃げられそうだ!
急いで男の下から這い出でる。
うんともすんとも言わないまま倒れている。
酒の飲みすぎで心臓麻痺でも起こしたのか?
死んだのなら可哀そうだが、心配してやるほどお人好しでもない。
「に、逃げなきゃ……!」
道も分からぬまま、必死で走った。追いかけてくる気配はないけど、油断禁物だ。
「うわっ」
どこをどう走ったのかも分からないままに入り組んだ曲がり角を勢いよく曲がったとき、誰かにぶつかってしまった。鼻が痛い。
「ご、ごめんなさい。今急いでるんです」
「へーえ、そんなに急いでどこ行くんだ?」
「あっ!」
ぶつかったのは、つい数時間前まで一緒にいた狼耳の獣人、ロベルナだった。
「なんでここに?」
「さあな。それにしてもいい格好だな? そんな姿で通りに出るつもりか?」
「あっ」
咄嗟にロベルナに背を向ける。
スキンヘッド男にシャツを引き裂かれたのだった。胸元からへそまで、あられもなく露になっている。
もはや服としての機能を果たせていない。ホシオトは両腕で守るように胸元を隠す。
「俺は自分の服を他人に貸してやるほどお人好しじゃねんだ」
「う、うるさいな誰も頼んでない!」
「そうかよ。けどさすがに、そんな状態で震えて今にも泣きそうな女を一人で放置するのは、気が引ける。さすがにもう知らねぇ仲ってわけでもねえし、な!」
「うわっ」
急に視界が高くなった、と思ったらロベルナの顔がすぐ目の前にあった。抱き上げられたのだと気付くまで数秒かかった。所謂お姫様抱っこだ。認識した途端頬に熱が集まる。
「た、頼んでない! おろして!」
「いやだね。ほら、そんなんじゃすれ違う奴には丸見えだぞ。嫌なら俺にしっかりくっつくことだな」
「うう……」
これは、助けてやるふりして嫌がらせしているのでは? 新手の嫌がらせに違いない。
ロベルナに密着するなんて恥ずかしいし嫌だけど、仕方ない。首に腕を回す。
ロベルナの止められてないシャツのボタンのせいで、もふもふした胸毛が露出している。
密着すると、どうしてもそのもふもふとした肌触りが直接素肌に触れて、癪だが気持ちがいい。
「ふふ」
ホシオトをしっかりと抱えて堂々とした足取りで通りを歩くロベルナの肩が急に震え出した。笑っているみたいだ。
「な、なんで笑ってんの」
「ふふふ、いや。悪いのはさっきの男だとはいえ、大通りで乳房丸出しのあげく男の胸板に押し付けてくるとは、とんだ痴女もいたもんだなぁ、と思ってな」
「!!」
慌てて離れようと首から手を離す。
顔が熱い。
もう嫌だ。
やっぱりこれは嫌がらせだ。
そうに違いない。
「と、急に動いたらあぶねえだろ。もうすぐだから、大人しくしてろって」
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