第11話
「いいか、今日中には街に着きてぇ。というか着かなきゃなんねぇ。昨日より飛ばすからな。覚悟しとけ」
ロベルナは御者台に座り準備万端だ。ホシオトも荷台に乗り込む。
「うう……私に拒否権ないのはわかってるよ」
一晩たっても身体のあちこちが痛む。今日も一日中馬車にめちゃくちゃに揺られるのかと思うと憂鬱な気持ちになる。とはいえ、元の世界に帰るための一歩だ。一人で徒歩で行くよりもよっぽどましだ。文句はない。
「あれ」
幌に囲まれた荷台に乗ると、昨日は乱雑に置かれていた道具が片付いていて、自由なスペースが増えている。更に、クッション代わりなのか毛布が数枚綺麗に畳まれて積まれている。そこに座ってみると、直に座るよりはお尻が痛くなくて楽だ。
御者台のロベルナは振り返りもせずしゃべりもしない。
ホシオトは無言の優しさに少し嬉しくなった。
朝から休みなく馬車で道無き道を駆け続けて、その日の夕方、ロベルナの宣言通りに目指していた街に着いた。
「馬車乗せてくれてありがと、助かった。大きい街だね。適当に情報収集してみる」
「一人で出来るのか」
「子ども扱いしないでよ。出来る出来ないなんて言ってられない。行動するしかないでしょ」
「そうかよ、逞しいこって。子守りから解放されてせいせいする。まぁ、そう簡単じゃないだろうけどな。好きなところで野垂れ死んでも恨むなよ」
「ほんっとに感じ悪い! じゃあね!」
背を向けて歩き出す、街を適当に散策してみる。
なんとなく、ウエスタンな雰囲気だ。そのあたりをコロコロとタンブルウィードが転がっていそうだ。
人が集まっていそうなのは、やはり飲食店だろうか。ホシオトはそれっぽい木の扉を開けてみる。
がやがやとうるさい、バーのような場所だった。
男たちが豪快に酒を酌み交わしながら笑い声やら罵倒やらが入り乱れている。中にはロベルナのように獣人もいる。人間と獣人はうまく共存しているみたいだ。
「ねえ、迷い人って見たことある?」
試しに、そばにいた男に尋ねてみた。
「はあ? そんなもん知らねえなあ、ここはガキの来る場所じゃねえんだ、ママのところに帰んな」
図体だけじゃなくて態度もでかいのか。スキンヘッドにムキムキの太い腕には仰々しい模様が入っている。明らかに悪人というふうだ。
こういう怖そうな輩には関わらない方がよさそうだ。そっと離れて、他の人に声をかけようとしたとき、後ろの卓の男ががはは、と豪快に笑った。
「いいじゃねえか、ガキだって酒の一杯や二杯飲まねぇとやってらんねぇよ、なあ?」
「え、いや、私はお酒はいいんだけど……ちょっと探してるものがあって、あんたたちのうち誰か、異世界に行く方法知らない?」
卓を囲む数人の男たちが顔を見合わせる。
「異世界? なんだってお前さんはそんなところに行きたいんだ?」
「えっと……」
自分が迷い人であるのだと、簡単にばらしてしまってもいいのだろうか。
「確かに、たまに迷い人ってやつが異世界から飛んでくるらしいけど、会ったこともなければ、ましてやその異世界に行こうなんて考えたこともないな」
卓に座る一人がポテトのようなものをつまみながら答える。
「そうなんだ。じゃあ、どこに行ったら迷い人に会えるかとかも、わかんない?」
「そうだなぁ、この街にはいねえよな」
「いねえなぁ。年に1回くらい旅人に紛れてやってくるかもしれねぇけど、迷い人なんて、人間と見分けがつかねぇから、自分から名乗りでもしてくれねぇ限り探しようもねぇよ」
「そうなんだ……」
有益情報なしだ。
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