第10話


「ガキの頃から仲の良い友人の話なんだけどな」

「それこっちの世界ではあんたの話ってことになるけど」

「なんだそれ。まぁ、俺も関係してるっちゃしてるが」

「じゃ、そういうことにしといてあげる。で、友人さんがどうしたの」

「お前信じてないな」

「信じてる信じてる」

「……まぁいい。単刀直入に言えば、そいつは俺を好きだと言ってきた」

「仲良しだったんだ」

「仲は良かったが、あいつのそれは友愛ではなく恋愛的な意味を持っていた」

「へぇ、モテるじゃん」

「へぇ、って。他にないのか」

「他? あんたはその友人さんの気持ちに応えたの?」

「応えるわけない。あいつは、男だった。俺と同じ」


言ってしまった。

ロベルナは、柄にもなく緊張した。

こんな話はこれまでどんなに信頼関係を築けた存在にも話したことはなかった。

異世界から来たというホシオトに、どうして今こんなことを打ち明けたのか。

自分でもよく理解できない。

ホシオトは、どう思うだろうか。

気持ち悪いと思うか、人間の思考じゃないと思うか、病気だと言われるのか。

こういう話題がでると、たいていのやつはそういう拒否反応を起こす。

今でも大切な友人だけに、彼や、同じ性的趣向の人たちが悪く言われるのを聞くのは心苦しかった。

けれど、返答はロベルナの予想の斜め上だった。


「あぁ、好みじゃなかったんだ。そいえばもふもふの女がタイプって言ってたもんね」


さらりと言われた言葉を、一瞬理解できなかった。


「……好む好まないの問題か? 男同士だぞ。変に思わないのか」

「んん? え、ああ……。もしかしてこの世界って異性愛主義なの? 同性愛は認められない感じ?」


意外、というように驚いた顔をしてホシオトが尋ねる。

それが当たり前のこと、自然のことだと思っていたロベルナは、そう尋ねられたことにさらに驚く。


「……お前のところは違うのか?」

「だって、どっちの人もいるでしょ? 他の趣向の人だっているし。個人の自由じゃん。そりゃあ異性愛の人の方が多いけどさ。だからって認められないなんてありえないでしょ。てか誰の権限で認めないわけ? って感じ。人権侵害でしょ」

「お前の世界では、同性愛に対して偏見はないのか?」

「ん〜〜、もしかしたら昔気質の頑固な考えの老人なんかは嫌がるかも? 私の周りにそういう人はいないけど」

「……俺は、男なのに男を好きになる友人が理解できなかった。他のやつらみたいに、気持ち悪いとは思わなかったが、どうしてそうなのか、全然理解できなかった。それに、よりにもよって俺だぜ。可愛げもねぇし、かといって格好良いなんてわけでもねぇ」

「ふ〜ん。まぁ、世界がそういう風潮なら理解できなくても無理もないんじゃない?」

「けど、俺はそいつと居ると楽しいと思うし、好きだと思う。もちろん友人としてな」

「今でも仲良しなの?」

「ああ。あいつも、俺が微妙な反応をして以来、そういう素振りも見せずにこれまで通りに接してくるしな」

「だったら別に問題なさそうだけど。この話が、賢者に聞きたいことと関係あるの?」

「そうだ。これは俺が魔法学校に入って数年のガキだった時の話だが……。未だになんというか、引っかかっててな。たまたま男に生まれて、それでたまたま好きになったやつが男だったってだけだ。俺は、そいつを恋愛対象に見れなかったから断ったが、世の中には両想いになるやつらもいるだろ」

「そりゃあね」

「だから、もしこの卒業課題の旅の途中で賢者ってやつに会えたら、この世界はどうして同性愛を認めないんだ、差別するんだって、聞こうと思ってたんだよ」

「なるほど」

「……くそ、つまらんことを話したな。忘れろ」

「せっかく話してくれたのに、忘れてなんてやるもんか。それに、つまんなくなんてないでしょ。大事なことだよ」

「そうか?」

「この世界のたくさんの人が、あんたみたいに考えられたら、その友人さんは生きやすくなるかもしれないね」

「…………。お前の世界は、それが普通なんだな、うらやましいぜ」

「お、なに。一緒に洞穴通って私の世界に来る? まあ、この件に関しては私の世界の方が進んでるみたいだけど、他のところで差別とか問題はいくらでもあるけどね」

「そんなもんだろうな。星も見えねえっていうし」

「そうだねー、こっちの方が世界の色彩が豊かっていうか。綺麗だよ」

「なら帰る前に、存分に味わっておくんだな」

「そうする。本当に、綺麗な空だよね」

「いつもと同じだ。あー、しゃべりすぎたな。俺はもう寝る。明日も早いぞ、星見るのも大概にしてお前も寝ちまえ」


寝袋をもぞもぞと整える衣擦れが聞こえる。

はーい。とホシオトは返事をするものの、瞼を閉じてしまっては夜空の美しい天幕が真っ黒に塗りつぶされてしまう。

名残惜しくて、ロベルナの寝息がかすかに聞こえてきても、満足するまで空を見上げていた。







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