第9話


夜はゆっくりと更けていく。

ホシオトはテントに入り、天にちりばめられた星屑を、目をキラキラさせながら眺めていた。

ロベルナは寝袋に横になりながら、そんなホシオトを鼻で笑う。


「お前、あんな届きもしねぇ光を見るのがそんなに楽しいのか」

「星の光のこと? こんな景色見たことなかったから。楽しいよ」

「お前の世界には星がないのか」

「星は……あるけど。でも、こんな空一面に輝くものだったなんて知らなかったかな。夜、空を見上げたって数えるほどしか」

「そうかよ」

「え、聞いてきたわりに興味なさげな返事」

「……」


ホシオトから目を逸らすように仰向いて、ロベルナも大して美しさも珍しさもわからない空の星々を眺める。


「お前、俺が怖くねぇのか」

「え、なに今更」


ホシオトの、星々の光に奪われていた目線がロベルナの方を向く。それを察したからといって目を合わせようなどとはロベルナは思わない。上を向いたまま、もう一度問うた。


「俺が怖いか」

「う~ん、別に怖いとは思わないかな。なんかいつも不機嫌だしぶっきらぼうだし、近寄りがたい? みたいな雰囲気はあるけどね」


怖いとは思わない。

特別迷ったふうもなく、かといって機嫌を取ろうとしていうふうでもなく、あっけらかんと答えたホシオトに、ロベルナは少なからず面食らった。

出会ってから今まで、自分でもホシオトに対して好意的に接してきたとは思っていなかった。頼れるのが自分だけなので、仕方なく我慢しているのだろうと思っていたのだが。


「……そうかよ。変わったやつだな」

「えっ、なんでそうなるの」

「うるせぇ騒ぐな」

「む〜〜! 怖くはないけど、あんたほんとむかつく!」

「勝手にむかつけばいいだろ。俺には関係ない」

「〜〜生意気!」

「誰が生意気だ。そのままお前に返すぜ。だいたい俺の方が年上だろ、敬え」

「敬える要素ゼロじゃん!」

「なんだと?」

「事実だもん」

「あーもう、はいはい」

「あっ、面倒くさそうにあしらうな!」

「へーへー」

「むぅ」


ぷく〜と頬を膨らませ、ホシオトがロベルナを睨みつける。

小型犬が威嚇してるみたいだ、とロベルナは可笑しくなりふふ、と笑みを零せば「なに笑ってるわけ!?」と威勢よく噛みつかれた。

異世界人だからか? 俺にこんなに言いたい放題噛みつくやつは初めてだ。と本当に変なやつだな、とロベルナは思う。

ふてくされたのか、ホシオトはロベルナに背を向けてしまっている。

膝を抱えたまま、テントの中にあった水筒から水を飲んでいる。あの水筒の中身もそろそろ無くなる頃合だ。明日の朝にでも、そばの川で飲料水を調達しなければ。


「さっきの、質問の話だけどな」


唐突に、ロベルナが口を開く。


「ん?」

「賢者に会ったらなにを聞きたいのかってやつだよ」

「うん、え、なに、教えてくれるの? さっきは話す気はねぇとか言ってたのに」

「聞く気がないのならいい。さっさと寝ろ」

「そんなこと言ってないじゃん、聞くよ。話して」



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