第8話


ぱちぱちと炎が爆ぜる音ばかり響く、静かな夜。どこかでほうほうとふくろうのような鳴き声の鳥が鳴いている。

昨日ご馳走されたの同じような味の薄いスープを平らげ、何をするでもなくぼんやりと、向かいに座るロベルナを炎越しに見る。

その背後に広がる満天の星空が見たことないほどに瞬いていて、目の前に広がる光景が現実なのだとはすぐに信じられないほどだ。

この生意気な自称魔法学校生の魔法だと言われた方がまだ現実味があるだろう。

そのロベルナは相変わらず最低限の会話しかするつもりはないらしい。話しかけてくる気配は皆無だ。

沈黙を守っても良かったが、ホシオトはおもむろに口を開いた。


「ねえ、賢者ってなに?」

「なんだと?」

「賢者だよ。会ったとき、私のこと賢者だって言ってたじゃん」

「話すことはねぇ」

「なにそれ、横暴。なんで私のこと賢者だなんて間違えたの? 普通賢者って言ったら老人を思い浮かべるけど」


ロベルナは、はあ、と明らかに嫌そうなため息をつく。

返答はない。

相変わらずの態度だ。

ホシオトは早々にロベルナとの会話を諦めようとした。

無言のまま、スープのおかわりを椀に注いだロベルナがぼそりと喋りだした。


「……人間の姿はしてるがあれは特別だ。不老不死なんだよ」

「えっ、すごい、異世界感ある」

「お前が異世界人だろう」

「私からしたら、あんたが異世界人だよ」

「ごちゃごちゃうるせぇな、だからまあ、どんな姿してんのかなんてわかんねぇんだよ」

「会ったこともないしどんな姿かもわからない人なんて、探せるの?」

「異世界へつながるなんていう胡散臭い洞穴の存在信じて目指そうとするお前に言われたくねぇ」

「うぐ。信じる者は救われるんだよ。で?」

「あ?」

「あ、じゃないでしょ。なんで探してんの? 賢者」

「……ガキの頃から、賢者に会ったら聞きたいことがあるんだよ」


会話の流れで、ついそう言ってしまってロベルナは後悔した。こんなことを他人に話すつもりなどなかったのに。


「ふ〜ん。でも、あんた魔法学校に通ってるんでしょ、わざわざ賢者なんて探さなくても、学校の偉い先生とかに聞いたらいいんじゃないの」

「いや……。これは、魔法とは関係のねぇことだ。多分、先生たちに聞いても微妙な答えしかもらえねぇだろうしな。俺はただ、真実が知りたいだけだ」

「真実? で、なんなの、聞きたいことって」

「だから言うわけねぇだろ」

「けち」

「黙れ。そもそもこんな話、会ったばかりの人間相手に話すことじゃねぇ」

「えー、別にいいじゃん。中途半端に聞いたんじゃ余計気になるよ」

「勝手に気にしてろ」


ロベルナはおもむろに立ち上がり、どこかへ行こうとする。


「どこいくの?」

「いちいちうるせぇな、ションベンだよ!」

「あっそ! 勝手に行けばいいでしょ」

「お前が聞いたから答えただけだろ」

「賢者になに聞きたいのかは聞いても教えてくれないくせに」

「聞いたって面白い話じゃねぇよ」


ロベルナは手をヒラヒラさせながら、少し離れた木の影に隠れてしまった。


「面白いかどうかなんて、聞いてみないとわかるわけないのにね?」



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