さよなら一期一会 5
数ヶ月後。
「クロ、それもしまっちゃうね」
「にゃ」
今日、私と沙智さんは街を出て行く。
あの後。風の噂で勝が逮捕された事を聞いた。何でも、猫を虐待していた事が原因だとか。うちでは明確な証拠が無かったから被害届を出していないので、恐らく別の子に暴力を振るったのだろう。酷い怪我で無ければ良いが。
事件を新聞で知った時の沙智さんの行動は早かった。いつか奴が出所した時、逆恨みで彼女や私を狙って来ないよう引っ越す事を決めたのだ。タイミングから見て勝がそんな事をしでかしたのは、私達との一悶着が切っ掛けの可能性もあるからと。生まれた地を捨てなくちゃいけない事とか、何故被害者が逃げねばならないのかとか、言いたいことは色々あったけれど、命には代えられなかった。
猫お婆ちゃんのお家へ挨拶にも行った。ムギも涙ぐんでいたけれど、それ以上にココが大号泣で、二匹で慰めるのに相当の時間を費やした。それでも、私達の門出を彼女達は祝ってくれた。
コハクにも出会ったので少しだけ話したが、彼は終始眉尻を下げっぱなしだった。面識はそこまで無かった私を覚えていたくらいだ。別れを惜しんでくれていたのかもしれない。もう少し早くに話してみたかった。
猫お婆ちゃんこと加代子さんにも挨拶してみたのだが伝わる筈もなく。しかし何かを察したのか、その日はずっと私を膝に抱いていた。
小屋には、あれ以来行っていない。行く理由が無くなったり首輪からの言いつけもあったけれど、それ以上に、次のお別れは私の番だと思ったから。お迎えは少し違うけれど。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「にゃあ」
車を持っていないので、業者のトラックに一緒に乗せてもらう。個人運営なので融通してくれたようだ。風を切り始めた頃、バックミラー越しに街を目に焼き付ける。
この地で、本当に色々な事があった。沢山の別れと、それ以上に沢山の出会い。たった一度きりの親交であっても、この先、色褪せることはないだろう。
別れの後に残るのは、きっと悲しみだけでは無いから。
さよなら、私の愛したもの達。
トラックは、新たな未来に向かって小さく遠ざかって行った。
了
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