さよなら一期一会 1

 付喪神と出会ってから一月程経過したある昼下がり、それは起こった。


「勝さん。お話したいんだけど良いかな?」

「沙智?いいよ」


 互いにテーブルを挟んで向かい合う。妙に改まった姿勢に、もしや結婚についてだろうかと胸騒ぎを覚える。沙智さんの隣に同席しようとすると、


「クロ。良い子だから、今だけはお外で遊んでいらっしゃい」


 優しい微笑みを向けられ、やんわりと同席を拒否された。猫にも聞かせられないんだろうか。抗議の声を挙げようとするも、余りに真剣な表情で何も言えなくなり、私はそのまま外出したのだった。




 行く当ても無くぶらぶらとアスファルトを眺めながら足を進める。さて、これからどうしようか。小屋に行ったところで夜と違って何もないし、適当な屋根に登って時間を潰そう。

 いざ行かんと塀に足を力を込めた時。


「く、クロハさん!」


 右耳に自身の名前が入り、動きが止まる。1匹の猫が緊張した面持ちで此方を見ていた。トラ柄に雉色。雑種だろうか。


「ぐ、ぐぐぐ偶然ですね!お散歩ですか?」

「ええと、何処かで会ったことありますか?」


 ぴしり。そんな言葉を体現したかの様に雑種猫が固まった。


「ぼ、僕、コハクと言います。時々猫お婆ちゃんのお家でお世話になっていて」

「嗚呼」


 あの家には多くの猫が引っ切り無しに出入りする。ちょっとした切欠で私を知ったのだろうか。一先ず質問に答える。


「家に居られないので、時間を潰す場所を探しています」

「それでしたら、今日は猫お婆ちゃんのお家にムギさんが居ましたよ。丁度行ってきたんです」

「そうでしたか」


 友達が居るのなら、愛ある愚痴に付き合うのも悪くない。 

 コハクに一言礼を告げ、私は定めた目的地へと向かう望むだった。


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