雪降る溜まり場 3
今更改まって話すのも、照れ臭いんだけどね。
私が4年前に交通事故で父を亡くしたのは知っているよね?母は私が生まれた時に衰弱死したから、私には父しかいなかった。子猫が野良で生き残れる確率なんて高が知れているけれど、それでも私を見捨てなかったのは今でも感謝してる。夏は自由気ままに歩き回って、冬場は車の下で暖を取るのに屋内の駐車場で一緒に過ごした。幸せだったよ、とても。
でも大好きな父が、目の前で車に轢かれて死んだ。あの時の光景は、一生忘れないと思う。天涯孤独となった私は他に行き場もなく、時々この家に顔を出す程度で、後は死を待つも同然だった。
そんな時に出会ったのが沙智さん。毛並みも薄汚れて衰弱していた私を見るや、すぐに家に連れ帰った。少しずつ食事を与えて、清潔にしてくれて。
私は慣れない人間に対してずっと警戒していて。何度も引っ掻いたし噛み付いた。だって父を殺したのも、人間が作り出した車だったから。
それでも沙智さんは、いつも暖かい部屋でずっと私に寄り添ってくれた。それが父と野良をしていた時に似ていて、無性に懐かしくて。
いつしか彼女がいないと落ち着かなくなっていて、笑う顔が好きになって。首輪を付けてもらって。
そうなったらもう駄目だった。私はすっかり骨抜きにされていたよ。
何も言わずとも、ずっと一緒に居てくれたことが何より嬉しかった。
男を見る目が無いくらい良いよ、何かあれば私が守るから。幸い今の彼氏は、一応沙智さんの事好きみたいだから、彼女の身に危険が及ぶことは無さそうだけど。
沙智さんが大好き。私も、あの人に寄り添ってもらったみたいに、物達の声を少しでも聞いてあげたい。小屋にいる物は、昔の私みたいで放っておけないから。まあ、相手によっては避けたくなるんだけどさ。
「クロハちゃんにとって、その沙智さんは生きる居場所を与えてくれて、どう在りたいかも教えてくれた人なんだね」
「うん。飼われるのは、沙智さん以外に考えられない」
「……そっか。そうだよね。それだけ大切な人なら、離れられないよね。」
ムギは僅かに目を伏せた。しかし次に瞬いた時には、ぱっと笑顔を見せる。
「あーあ!私もクロハちゃん、家に来ないかなって狙ってたのにな!」
「えー、ムギの飼い主さんは癖が強そうだからなあ。私じゃ保たなそう」
「悪い人じゃないんだよ?方向性があれなだけで。あ、今の話、ココにも伝えてくるね!」
「えっ」
したり顔で勢いよく去っていく。ムギは普段、どちらかというと大人しい子なのに、時々こうして爆発的な行動力を発揮する。
野良の時代は此処に来ても、何処か距離を置いていたけれど。どうやら私は、私が思っている以上に気に掛けてもらっていたようだ。
ストーブの火に目を細め、心も身体も温かくなるのを感じながら、友の帰りを待っていた。
第四話 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます