雪降る溜まり場 2

「この場所で貴女の顔を見るのって凄く不愉快なんだけど、もう少しどうにかならないの?見ているだけでいらいらする」

「そう言われても……」


 ココはふんすと鼻を鳴らす。

 彼女はこの家を出入りする猫の中でも、かなりの古株だ。飼い猫だが、今の境遇に特に不満は無いようだ。何となく此処に来るらしい。つり目と当たりの強い物言いが特徴的で、敵を作りやすい。


「いい加減来ないで欲しいわ。クロハの家庭環境ってどうなっているの?」

「い、以前話したままだけど。飼い主の恋人が度を超した動物嫌いだから、1人と1匹でずっと一緒には居られないって」

 

 引け目を感じる必要は無い筈だが、つい言葉が閊えてしまう。


「暴力を振るうのだったかしら。本当に最低な雄だわ。でもそれに気付かない貴女の飼い主もどうなの?恋人のことも猫のこともまともに見られていないじゃない。類は友を呼ぶって言うし、男を見る目が無いのも本人に何か問題があるからじゃないの?」


「沙智さんの悪口言わないで」


つい口答えをする。でも、これは我慢ならない。


「沙智さんは確かに少し鈍いけど、その分相手の良いところを沢山見つけられる素敵な人だよ。あの人に問題にする程の欠点なんて無いし、不満を抱いた事だって無いよ」


 目尻が上がり語尾が強くなる。横でムギがおろおろと私達を見守っているが、互いに鋭い視線は外さなかった。

 やがて先に折れたのはココの方だった。


「……ふん。まあ良いわ。私は今言った言葉、撤回しないからね」


そのまま私達に背を向ける。


「そうそう。冬以外を相変わらずゴミ捨て場で過ごしているのなら、いい加減止めておきなさい。確かに私達猫は一部の物の声を聞けるけれど、近付くのは生まれたばかりの子か貴女くらいよ。処分されるゴミに情を移したって、良い事なんて無いんだから」


ココはそのまま退室する。一悶着起こしてしまったので、別の部屋に移動した様だった。


「……余りココを嫌わないであげてね、クロハちゃん。彼女はあれで心配しているだけだから」


「うん、分かっているよ。本当に不器用だよね」

 

 そう、ココは物言いがきついが、心根は優しい猫であるのだ。自身の環境に問題が無いのにこの場所に出入りし続けているのも、他の子を放っておけないが故である。原因が本猫にあるとはいえ、誤解を受けやすいのだ。


「ココね、クロハちゃんが来る冬以外も、よく貴女の事を考えているんだよ」

「そうなの?」

「うん。貴女の命が脅かされる様なら、何とか自分の家に引っ越すことは出来ないかって。ずっと頭を悩ませているの。クロハちゃん自身はそんなつもり無いんだし、自分で余計なお世話だとは分かっているみたいだけど。私達、貴女が野良の頃から知っているから、どうしてもお節介焼きたくなっちゃう」


「ムギ……」

「ねえクロハちゃん。クロハちゃんは飼い主さんのどういうところが好きなの?さっき素敵な人だって言っていたから、気になってきた。私に教えてくれる?」

「うん、いいよ」


そうして私は、あの頃を思い起こす。


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