デジタルな愛とアナログな憎 4

 先に生まれていたのは私だから、解説も私、写真ちゃんがお送りするね。私達の持ち主は、由利ちゃんっていう大学生の女の子なの。

 

 由利ちゃんは普段、動画サイトばっかり見てる子でね。特にお気に入りだったのが、リオンヌって名前の男性配信者だったの。写真に写っている人ね、美青年でしょう?

 

 最初は彼が歌ったり踊ったり、雑談する動画を楽しく見ていただけだったみたいなの。私の事も、リオンヌを紹介してくれた友達が、ブロマイドの枚数余ったからって渋々貰ったくらいのものね。何となくで部屋に飾られていたよ。

 

 でもリオンヌに恋人がいないって聞いて以来、段々動画を見る目が熱っぽくなってさ。イベントも行くようになって、何の動画の何秒のどういう仕草が可愛かったとか。彼に何万円も使い出したの。部屋には私以外のグッズが段々増えて、彼の誕生日には特注のケーキと高級ワインを並べてお祝いして。

 

 私には分かったよ。由利ちゃん、リオンヌに恋していたんだ。どれだけお金を注ぎ込んだかネットに上げて見せつける事で、彼へのアピールと同じ想いを抱いている子への牽制を同時にしていたの。リオンヌは由利ちゃんの事知らないのにね。どれだけ一方的であっても、あの子は本気だった。 

 

 それが変わったのはね、リオンヌに恋人がいるって発覚してからだったよ。


 相手は由利ちゃんと同じ、ファンの子だった。物凄い形相でその子を他のリスナーさんと調べ上げてたよ。彼女は過去にロケで行った人気カフェコラボで、お世話になった店長さんの姪御さんだったみたい。コラボ前から動画見ていたらしいし、まあ、早い話がコネだよね。

 

 ファンに手を出したリオンヌに対してもネット上で非難囂々だったけど、取り分け彼に恋をしていた子達は凄まじかった。グッズを壊したり、ブロマイドを破いたり燃やしたり。

 

 そして、由利ちゃんもその一人だった。

 

 由利ちゃんはリオンヌの熱愛が発覚して以降、大学を休んで引きこもっていたよ。暫くは部屋で布団に包まっていたけど、その内リオンヌのグッズ塗れになっている部屋に居るのが苦痛になってきて、片端から壊し出した。自身の中にある滅茶苦茶な感情を、どこかにぶつけずにはいられない様だった。


 ファンを、自分を不誠実な形で裏切った恋人達を、憎んで、憎んで、憎んで。2人を害してやりたいけど、直接何かをする程の勇気も無くて。


  そして由利ちゃんが辿り着いた答えが、呪う事だった。片方には死を、もう片方には生きながらにして死にたくなる程の悲しみと後悔を。そして死の標的には、リオンヌが選ばれた。


  藁人形が生まれたのもその時。由利ちゃん自身が恨みを込めて自作していたよ。ブロマイドも沢山破っていたから、もうあまり残って無かったけど、偶々生き残っていた私が貼り付けられた。


 釘と金槌を用意して、深夜、監視が緩い神社に忍び込んだ。御神木を見つけて、さあ打ち込むぞって時にね、由利ちゃん、寸でのところで迷い始めたんだよ。リオンヌを好きだった頃の気持ちが忘れられなかったみたい。

何度も何度も葛藤して、結局その日は儀式が出来なかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る