初めましてとおやすみなさい 4

 翌朝。

 9時を過ぎた頃、塵芥車に乗る地方公務員達が、ゴミを回収して回っていた。二人の回収役が鉄製のゴミ置き場から時に扉を開け、時にネットを上げて、ゴミを手際良く集めては、回転版の下に放り込んでいく。

 エンジン音に負けないよう、一人がもう一人の同僚にやや張り上げて声を掛けた。


「今日は不燃ゴミだから少ないかと思ったけど、意外と多いなあ」

「本当だな。でもこの辺は確か次で最後だろう?」

「だな。あの子はいるかなあ」


 最後に到着したのは、木製のゴミ置き場。昔に誰かが手作りしたのであろうそれを、近隣の住民達が許可を貰って利用している。この辺りでは少しだけ珍しい作りだった。

 ただ他と違うのはそこだけじゃない。

 回収役は他でのゴミ集めで振るっていたスピードを殺し、勢いを付けず静かに扉を開けた。


「お、いたいた! 今日もえらく別嬪さんだなあ、お前は」


一人でブツブツと言い出した男に同僚が近付いていく。


「どうした?」

「ほら、この子!」

 

 覗き込んで見れば、そこには薄暗い中光る目があった。


「へえ、黒猫じゃないか」

「可愛いだろ?時々入り込んでるんだよ。でも悪戯している様子もないし、根城の一つにしているみたいだ」


「首輪をしているな。近所の飼い猫かあ」

「前に飼い主の女の人に会ってさ、この子の名前はクロハっていうらしい」


 飼い主さんも美人さんだったよ、と饒舌になるをペアを窘めながら、同僚は仕事を成そうとゴミ置き場の中を改めて見回し、自治体が指定した半透明の袋に入っているある物を見つけた。


「お、あった。タブレットが単品で入ってら」

「これ、最初期の型か。まだ今より分厚かった頃の」

「タブレットだけ捨てるなんて袋が勿体ないけど、小型家電なんてそうそう纏めて捨てる機会もないものかな。にしても、そんなに前の型だなんて、余程大事にされてたんだろうなあ」

「だな。どれだけメーカーや修理所に連絡しても、もう直せなかったんだろう」


 二人が捨てられていた物に注目している間、自分の役目は終わったとばかりに黒猫はするりと抜け出す。寝不足の頭をぶんぶんと横に振る。大きな欠伸をして瞼をくっつけそうになりながら、母が帰ってきているであろうアパートを目指す。

 

背後で、エンジン音が遠ざかっていった。


第一話 了

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