第一服 三午生休(参)
商人としては、その正直さが、
「多呂丸はまだ六つぞな」
「子をなさなんだのは
近年は将軍跡目や管領家の家督争いもあり、戦が頻発しており、近隣諸国では戦火に巻き込まれた商家も多いと聞く。堺だけが
ふと気づくと、松風が老けすぎて
松風は釜の音の一つで、釜の音にはいくつかの段階があった。「
その他に「
「いかんいかん。茶の湯の最中に考え事とは」
手に取ったままの柄杓を横に構え直し、合を水指の中ほどまで沈め、清らかな水を取ったところで、汲み上げる。釜の口に運んで、水を差すと、一瞬だけ無音となり、再び松風を奏で始めた。水指とは水を入れておく器で、巾五寸の陶磁製の筒桶で共蓋が格上とされる。合とは竹でできた柄杓の先にある筒状の受けのことで、やや傾けた状態でほぼ一合入ることから、合と呼ばれていた。
さっと、柄杓を釜底までくぐらせ、合が鳴金に強く当たらぬように止め、温められたばかりの湯を取って、湯返しをする。
「茶でも飲んで落ち着かな」
茶は心を落ち着かせると言われているのだが、落ち着くのではなく、落ち着いてやらねばならぬのだろうと
千屋にある殆どの茶道具は天王寺屋を通じて手に入れたもので、宗柏の好みなのか与右衛門の好みか、
耳を澄まして母屋の様子を伺うが、紗衣の子は、まだ生まれそうにもない。凪いだ松風が、再び荒々しく鳴りはじめた。
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