第一服 三午生休(弐)
茶の湯は近頃、堺の納屋衆の間で流行り始めたもので、元々は京都の武家それも公方や大名の周辺で行われていた。闘茶から賭け事の要素を無くし、唐渡りなどの珍しい器物を観て、愉しみながら茶を飲むのを主体とする遊興である。これを
この頃、堺で一番の茶の湯巧者といえば、天王寺屋助五郎――津田
半刻ほどまえ、妻の紗衣が産気づき産婆を呼んだのだが、厳しい顔で長く掛かると早々に母屋を追い出されて所在なく、座敷に籠もるしかなかった。
一番上の多呂丸が今年六歳になったとはいえ、二番目は二歳にもならぬ内に鬼籍に入り、三番目は生まれてまもなく母親を連れて逝っている。男
若い与兵衛にも悩みはある。それは兄弟が居らず、子が少ないことだ。何かあったときに六歳の子供が一人では何か困る上、商売は兄弟がいた方が心強い。分家するにも身内が安心だ。備中屋の湯川家は代々子沢山で現在では十六の分家すべてが会合衆に名を連ねている。田中家もそう有りたいと与兵衛は思っていた。
その上、後添えとはいえ正室である紗衣のことも考えれば、長男には別に店を構えさせ、新しく生まれる子供にこの店を譲るのが無難だろうかとも思えた。いや、逆に紗衣とその子を分家させるか。
「まだ……
しかも、多呂丸はまだ六つである。海の物とも山の物ともつかぬ
紗衣がまだ子をなしていないころ、使用人の中には「
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