第〇服 安赦帰堺(参)
暫くすると、秀吉は狭い座敷へと入った。大広間などの広い場所で、華美な席を好んていた秀吉が、侘びた座敷――しかも、利休が好んだ二畳敷に、である。
「利休によう似とる……」
点前を見ながら、秀吉はそう呟いて、大きく頷いた。
その座敷にいたのは天下人・
「利休の遺品な……あれを、そちに返そう」
「……あれは太閤さまに献上した物でございます」
「そうか。……ならば、そちの義弟に息子がおったであろう」
「
猪之吉とは
「昔、利休があれを小坊主に使っておってな、愛らしゅうて小姓にしようとしたら、利休は喝食に入れてしもうての。そちが受け取らぬなら、あれに取らせよう」
この辺りの感覚が、武家と商家の違いなのかもしれない。
それは、利休と違う茶の道を歩むということだった。利休の道具を受け継げば、他人は利休と同じ道具組みや茶風を心の何処かで求めるであろう。それでは利休の猿真似になり、
それと、
「茶堂として仕えるようにな。利休の茶は、そちにしか点てられん」
秀吉とて
「かしこまりました」
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