第16話 合同演習の準備

 オレ達はアリスのチームと一緒に剣の訓練をした後、寮に戻った。そして、その週の休日は2つのチームで一緒に王都を散策することにした。



「アリス! 合同演習に向けて武器をそろえたいから、ハヤトの家に行こうぜ!」


「毎度!!」


「ハヤトは流石、跡取りだな。俺なんか、男爵家の3男だから卒業したら家を追い出されるんだ。それまでに、就職先を見つけるか、娘しかいない貴族のところに婿に行くしかないよ。」



 いろいろな話をしながら歩いていると、ハヤトの家に着いた。結構大きな武器屋だった。中に入ると、大きな両手剣、細長い片手剣がたくさんあった。だが、別の場所に奇麗に飾られた剣があった。


「ハヤト。こっちの値段が高いのはどうしてだ?」


「ああ、そっちのはミスリル製だからね。僕も本当はそっちを持ちたいけど、材料費が高いから我慢してるんだよ。」



 アリスがハヤトに聞いた。



「自分の店のものなのに持たせてもらえないの?」


「だって、一番安いミスリル製の剣だって大金貨1枚はするよ。そんな高価なものを持たせてもらえないよ。」



 オレは、エックスの時も同じ剣を利用している。今度エックスに変装した時に、このミスリル製の剣を買いに来ようと思った。


 オレ達は不足している武器やポーションを購入して、再び街を歩き始めた。タクトとアカネは常にキャサリンの後ろに控えている。どちらも、それなりに剣の腕はありそうだ。握手した時に、剣を振っているのがすぐ分かった。皮の厚い固い手をしていたからだ。

 

 ここで食いしん坊のアリスがみんなに提案してきた。



「じゃぁ、今度はナナの家に行こうよ。ナナの家で美味しいものを食べようよ。」


「賛成だわ。」


「俺も腹減った~。」



 みんな腹が減っているようで、そのままナナの家に向かった。ナナの家は、冒険者ギルドの方角だ。市場の近くだった。


 昼間は普通の食堂で、夜は食堂兼飲み屋になるらしい。店の中に入ると、ナナをふっくらさせた感じの女性がいた。



「あら、ナナじゃない。お帰り! 後ろにいるのは友達?」



 さすがにキャサリンのことを見た瞬間、ナナのお母さんの顔色が変わった。



「これはこれは王女様。このような店にようこそおいでいただきました。」


「私はただのキャサリンです。今はナナの友人として食事をしに来たんです。気を使わないでください。」


「はい。わかりました。」



 ナナのお母さんはオレを見つけると、いきなり声をかけてきた。



「あなたがミライ君ね。ナナのことを末永くよろしくね。」


「えっ?!」


「ちょ、ちょっとお母さん! 誤解されるようなこと言わないで。」



 アリスの顔が般若のようだ。オレを思いっきり睨みつけている。なぜだ?


 オレ達は、ナナの家でそれぞれ食べたいものを頼んだ。オレは、当然ホーンボアのステーキだ。ハクへのお土産にもう1枚焼いてもらった。


 すると、キャサリンが不思議そうにオレに言って来た。



「ミライは夜もステーキを食べるの?」



 オレがハクと一緒にいることを知っているアリスは、慌てて言い訳してくれる。



「小さいころから、ミライってステーキが好きだったのよ。いつも夜寝る前にも、食べていたぐらいなのよ。」



 そんなアリスの様子をナナが羨ましそうに見ていた。



「そうなんだよね。それに、ナナの店のステーキって、なんか母さんの焼いてくれるステーキに味が似てるんだよね。」



 何故か今度はナナが思いっきり喜んでいる。



「ミライ君! 私、今度お父さんにステーキの焼き方聞いておくね!」



 その後、オレ達は街をぶらぶらした。女性達はアクセサリーや服屋を眺めていたが、男のオレ達はめちゃくちゃ暇だった。すると、小汚い服の男の子が手にフルーツを抱えてこっちに走ってきた。



「その小僧を捕まえてくれ————!」


 

 慌てていたらしく、オレ達の目の前で男の子が思いっきりこけた。



「ドテッ」


「君。大丈夫かい?」



 オレがすかさず男の子のところに行くと、足から血が出ていた。だが、男の子はオレの手を振り払ってフルーツを掴んで逃げようとしている。周りには少しずつ見物人が出始めている。



「おい、小僧! 毎日毎日うちのものを盗みに来やがって! 今日は許さねぇぞ!」


「・・・・・」



 子どもは泣きもせず、そっぽを向いている。



「兄ちゃん達、こいつを捕まえてくれてありがとうな。」


「この子をどうするんですか?」


「こいつは衛兵のところに連れていくさ。」



 すると、男の子が初めて口を開いた。



「お願いだ! おっちゃん! 見逃してくれよ! 二度とおっちゃんの店のものは取らねえからさ!」


「ダメだ! 信用できねぇ!」



 果物屋のおじさんが男の子の手を引いて連れて行こうとした。オレはそれを止めておじさんと話をした。



「あの~。この子が盗んだ果物の金額ってどのくらいになりますか?」


「そうだな~? 今までの分も合わせると銀貨7枚ってとこかな。」



 オレは大銀貨1枚をおじさんに渡して言った。



「この子の盗んだ果物の代金はオレが払います。利息分も含めてこれで許してあげてください。明日からは、この子に盗みはさせませんから。」


「お前さんがそういうなら、今日はこの辺にしておいてやるよ。小僧! 明日からくるなよ!」



 周りにいた見物人達がオレに注目している。



「ミライ君。どうするの? この子。」


「事情を聴いてみるさ。」


「オレの名前はミライ。君の名前は?」


「おいらはリンタだ。お兄ちゃん、ありがとう。おいら、働いてお金返すよ。」


「どうやって働くのさ?」


「・・・・・」


「君、家族はいるのか?」


「みんな死んじまった。」


「そうか~。なら、リンタはどこに住んでるんだ?」



 子どもはスラム街の方を指さした。



「あっちさ。」



 そこに、アリスとキャサリン達がやってきた。それまでの事情を説明すると、キャサリンが提案してきた。



「ミライ。この子は教会に預けましょう。王都の教会には孤児院が併設されてるから、そこなら面倒見てくれるわよ。」


「どうする? リンタ? キャサリンはこの国の王女様だ。一緒に教会まで行ってもらえば孤児院に入れるぞ。そうすれば、盗みなんかしなくていいだろう。」


「ありがとう。お兄ちゃん達。でも、他にも仲間がいるんだ。」


「分かった。じゃあ、仲間のところに案内してくれるかい?」


「うん。」



 オレ達はリンタに案内されて、スラム街に足を踏み入れた。始めてきたが、ども家もボロボロだ。雨が防げるだけましなようだが、地震の多い日本ならすぐにでも倒壊してしまうだろう。



「ミライ。何か臭わない?」



 アリスが聞いてきた。キャサリンや他の人もみんな臭そうにしている。この世界では、どこも下水のようなものが完備されているが、この辺り一帯には下水はないようだ。



「お兄ちゃん達。もう少しだから、我慢しておくれ。」



 なんか、ここに住んでいるリンタやこの地区の住人には申し訳ない気持ちになった。 



「あそこさ。」



 リンタが指さした先には、洞窟のような場所があった。中に入ると、意外と奥深くまで続いている。だが、奥に行くにしたがってだんだん暗くなってきた。



「リンタ兄ちゃん。お帰り~!」



奥から男の子や女の子が走って駆け寄ってくる。



「ねぇ。この人達はだ~れ?」


「おいらの恩人さ。」


「恩人って?」


「ああ、今日ちょっとへましちまってな。」



 すると、リンタと同じぐらいの年齢の男の子が言って来た。



「リンタ。明日は俺が行くよ。」


「マック。もう盗みをしなくていいんだ。このお兄ちゃん達が、おいら達を教会の孤児院に入れてくれるってさ。」


「リンタ。お前、騙されてるんじゃないのか? 以前も、同じように言われて売られたやつもいるじゃねぇか。」



 すると、キャサリンが前に出て行った。



「大丈夫よ。私はこの国の王女だから。安心して。」


「お、お、王女様?!」


「そういえば、確かに銀髪だ。ってことは、こっちの兄ちゃんも王子様なのか?」


「オレは違うよ。オレは、平民さ。」



 キャサリンがオレを見ている。オレはなぜ見られているのか、その時はわからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る