第17話 合同演習

 オレ達はリンタと他の子ども達を連れて教会まで行き、司祭様に頼んで学園まで戻った。学園まで戻る途中で、アリスやキャサリン達に今日あったことをタケルが説明していた。すると、アリスがオレと2人だけになった時に聞いてきた。



「ミライ。あんた、いろいろ隠してるでしょ!」


「なんだよ。急に。」


「正直に言いなさい! だって、大銀貨1枚をあの子のために使ったんでしょ!」


「そうだけど。」


「なら、明日からのお昼ご飯どうするのよ?」



 アリスは昔から鋭い。そこまで考えていなかった。



「あんたは馬鹿だけど、昔から緻密で自分の生活が出来なくなるようなことはしないわ。正直に言いなさい。」


「当分、晩飯を抜かすから大丈夫さ。」



 アリスが完全にオレのことを怪しんでいる。だが、女神様に言われた通りこの世界を平和にするには、学園を卒業したらすぐに危険な旅に出るしかない。アリスには悪いが、今の内から強くならないといけないのだ。


 オレ達は学園まで戻った。オレはお土産に買ったステーキをハクにあげた。



「ハク! 冷たいけどお土産だ!」


「ミライ。わかってるじゃないか。」


「実はさ~! アリスにばれそうなんだけど。」



 オレは今日あったことをハクに話した。アリスに疑われていることもすべて話した。



「あの娘は、お前にとってどんな存在だ? それによって対応が変わるな。」


「どういうことだ?」


「簡単な事さ。彼女の記憶を操作してしまえばいいのさ。」


「それはダメだ!」


「なんだ! お前、アリスに惚れてるな?」


 

 オレはアリスと子どもの頃から姉弟の関係で育ってきた。だから、彼女のことを異性として意識したことはない。だが、ハクに言われて考えてみると、アリスのいない生活など考えられない。



「ハク。もしかしたら、お前の言う通りかもしれない。自分でもよくわからないんだ。」


「この学園を卒業する時までに答えを出せばいいさ。」



 そして、いよいよ合同演習の日が来た。1年生全員が闘技場に集合している。目的地は全チームとも同じだが、学園の森の中のルートはそれぞれ異なる。別に早く到着することが目的ではない。チームで協力して、魔物を退治しながら無事に目的地に到着することが目的だ。


 ここで、騎士団長のユリウス先生から注意事項が言い渡された。そして、一斉にスタートする。オレ達はオレがエックスとして魔物を狩っておいたルートで進むことにした。


 するとザイルとそのチームメイトがやってきた。



「貴様らは魔物のいない道を行くがいいさ。俺達はこの森の魔物を討伐しながら進むがな。ハッハッハッ」


「お前は馬鹿か? この演習の意味を分かっていないのか? この演習はみんなで協力して、安全に目的地にたどり着くことが大事なんだろ!」


「ふん。やはり下民の考えだな。魔力のない下民が考えそうなことだ。」



 ザイルは取り巻き達を連れて、いそいそと出発した。



「ミライ君。このルートだと、安全だけど少し遠回りだよね?」


「ああ、中央を行こうとすると、岩山に到着するまでに魔物と遭遇する可能性があるからさ。」


「えっ?! なんでミライはそんなことが分かるんだ?」



 まずいことを言ってしまった。オレも今日初めて森に入ることになっていたんだった。



「長年の感ってやつさ。昔から、父さんとよく山に狩りに行ってたからね。」


「ミライ君って頼りになるのね。」



 そんなことを話しながら進んでいると、少し離れた場所から魔物の魔力が感じられた。



“確かあの方向は、アリス達が向かった方角だけど、大丈夫かな?”



「どうしたの? ミライ君。急に黙り込んで。」


「ちょっと、あっちの方に行ってみようか。その方が近いし。」


「でも、あっちには魔物がいるかもしれないんじゃないの?」


「アリス達が心配なんだよ。」


「分かったよ。」



 オレ達は魔物のいる方角へと進んだ。すると、ブラックベアとアリス達が遭遇したようだった。アリスとアカネとタクトがキャサリンを守るようにブラックベアに対峙している。なぜか、近くに学園の先生はいなかった。



「ミライ君。あれブラックベアじゃない? あれはまずいよ。冒険者達でも勝てないよ。」


「ミライ。どうするんだ?」


「みんなを助けるさ。全員で協力すれば倒せるかもしれないだろう。」



 オレは剣を抜いてブラックベアに切りかかった。魔法を使わず、普通の剣で戦うのはかなり厳しい。剣の刃がブラックベアの硬い皮膚に弾かれてしまう。



「アリス! 大丈夫か?」


「ミライ! 大丈夫よ。ただ、かなり厄介な相手よね。昔のことを思い出すわよ。」


「ハヤト! 土魔法で、奴の前に壁を作ってくれ。」


「うん! わかったよ。」


「ナナは風魔法をタケルは火魔法を同時にあいつにぶつけてくれるか。2人の魔法が合わされば、あいつにダメージを与えることができるかもしれない。」


「やってみるわ。」


「ナナ! 同時にやるぞ! 3,2,1。発射だ!」



 ナナとタケルが同時に魔法を放った。すると、タケルの放った火炎放射がナナの風魔法でその勢いを増した。ブラックベアは後ずさりをしている。



「アリス。あいつの目の前に光球を出して目くらましをしてくれ!」


「了解!」


「タクトは右足! アカネは左足を同時に剣で攻撃してくれ! オレは奴が体勢を崩した瞬間に首を狙うから。行くぞ!」


「わかった!」



 アリスの光球で目が見えなくなっているブラックベアに、タクトとアカネが一気に近づいて切りかかった。ブラックベアの足から血が流れている。ブラックベアが体勢を崩して身体が前のめりになった瞬間、オレはみんなに悟られないように剣に風魔法を付与して、一気に首に切りつけた。すると、ブラックベアの頭が地面に転がった。



「やったぞ————! 倒したぞ!」



 だが、森の一部に火がつき、燃え広がろうとしている。



「キャサリン。森の火を消してくれるか。」


「分かったわ。」



 キャサリンが両手を前に出して、水魔法で辺り一面の火を消火した。



「ミライ君って、やっぱりすごいわね。」



 ナナの言葉にその場の全員が頷いている。



「オレの力じゃないさ。みんなが協力したから倒せただけさ。」


「そうじゃなくて、指示が的確だったってことよ。近衛騎士団でもミライのように咄嗟に指示を出せる人は多くないわ。」



 キャサリンのその言葉にタクトもアカネもうなずいていた。

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