第13話 エックス現る!

 数日後、魔法の授業を免除されているオレは変装して冒険者ギルドに行った。ギルドに着くと受付のリアが声をかけてきた。



「エックスさん。この前、“新緑の風” を助けたでしょ?」


「何のこと?」


「惚けても無駄よ! 仮面をかぶった冒険者はあなたしかいないんだから。」


「それで?」


「お礼を渡しておいてくれって頼まれてるのよ。」



 リアがオレに金貨を渡してきた。



「ブラックベアを売ったお金らしいわよ。」


「わかった。」



 オレはそのお金を受け取って、ギルドを出た。大通りから市場の方向に向って歩いていると、かすかに悲鳴のようなものが聞こえた。魔力感知で悲鳴の方角を探すと、どうやら複数の人間に襲われている人がいるようだ。オレは、急いで向かった。


 人相の悪い男達に、若い女性が囲まれている。



「やめてください。何をするんですか! 誰か—————!」


「こんな場所に誰も来るわけないだろう! それより、諦めて俺達といいことしようぜ!」


「放してください! 衛兵に言いますよ!」


「生きていれば言えるけどな! 死んだら言えないだろう。」



 オレは再度自分の姿を確認した。変装OK! 仮面OK! よし!



「おい。お前達何をしている! その女性から離れろ!」



 オレの言葉に男達が反応した。



「なんだ~! てめぇは何者だ!」


「仮面なんかかぶって怪しい奴だ!」


「怪しいのはお前達の方だろう!」


「おい。見られたぜ! こいつも殺しちまおうぜ!」

  

「こっちは5人だ! やっちまおうぜ!」



 一人は女性の近くで逃げられないようにしている。残りの4人は剣を抜いてオレに切りかかってきた。オレは魔眼を使って、男達の動きを見極めながら拳を腹に叩き込んでいく。恐らく、オレの動きが速すぎて何が起こったかわからないだろう。


「グホッ」


「ゲボッ」



 4人の男が口から血を吐いて、地面を転げまわった。女性を掴んでいた男の顔は蒼白状態だ。



「ゆ、ゆ、許してくれ!」


「なら、素直に捕まって、自分の罪をしっかり償うことだな。」


「わかったよ。」



 オレは女性を保護し、5人をロープで縛って衛兵に突き出した。女性がオレに何か言っていたが、目立ちたくないのでその場を後にした。


 

“ミライ! お前、大分強くなったな。”


“ハクのお陰だよ。”


“お前がしっかり自分を鍛えているからさ。だがな、その程度の力じゃ、他の大陸では通用せんぞ!”


“他の種族はそんなに強いのか?”


“ああ、強いな。特に魔族は別格だな。”


“なら、もっと鍛えるさ。まだ3年もあるからね。”



 その日は、他に何もなく寮に戻った。そして、それから数カ月が過ぎたころ、メアリー先生から重大発表があった。



「皆さんに今日は大事な話があります。1カ月後に東の森で合同演習があります。しっかりと準備を整えておいてください。」


「先生! 合同演習って何をするんですか?」



 ハヤトが手を挙げて質問した。



「はい。合同演習は森の奥の岩山まで4人一組で行ってくるんですよ。途中で魔物が出たら、魔物を狩って来てもらいます。」


「先生、でも強い魔物が出たらどうするんですか? 逃げきれませんよ。」



 今度はタケルが手を挙げて聞いた。



「大丈夫です。森の所々に学園の先生方が待機してますから、安心してください。」



 今度はオレが手を挙げて質問する。



「先生、狩った魔物が大きすぎて持ってこられないときはどうするんですか?」


「はい。そんな大きな魔物はいないと思いますが、空間収納が付与された鞄を貸し出しますから大丈夫ですよ。」



 他には誰も質問しなかった。

 


「では、他に質問がないようですから4人一組になってください。」



 オレのメンバーはすでに決まっている。オレとハヤトとタケルとナナだ。A~Dまで1クラス20人なので、どのクラスも5チーム作れる計算だ。その日の午前の授業が終了した後、オレ達はいつものように食堂に向かった。すると、そこにアリスとキャサリンとその従者達がやってきた。



「ミライ! あなたのチームはこの4人よね。」


「そうさ。ばっちりだよ。ただ、怪我をした時に困るから、ポーションをもっていかないといけないかな。」


 

 すると、アリスがない胸を張って自慢気に言った。



「えっヘん! 私は光魔法使えるけどね。」



 すると、ハヤトが反論した。



「僕達だって、剣の達人のミライ君がいるから、魔物で怪我することなんてないよ!それに、合同演習まで皆で訓練するから大丈夫さ。」


「おいおい、ハヤト。オレはそんなに強くはないぞ! ホーンラビットやホーンボア程度なら何とかなるけど。」



 すると、キャサリンが声を出して驚いている。



「ミライはホーンボアを狩ったことがあるの?」


「あるよ。でも、アリスだって狩ったことあるよな?」


「まあね。でも、私の場合はミライが少し手伝ってくれたけどね。」


「そーなんだ~。やっぱり2人は幼馴染だけのことはあるわね。」


 

 その日の午後も魔法の授業だったので、オレはいつものように寮に戻ってからハクと一緒に街に出かけた。大分王都にも慣れてきたが、足を踏み入れたことのない地域もあった。娼館が並ぶ歓楽街だ。前世の記憶が残っているオレとしては、少し興味があったが今は子どもだ。


 オレがギルドに顔を出すと、何故か一斉に全員がオレの方を見る。



「あいつがエックスだぜ!」


「なんだかまだ若そうね。私、今夜誘っちゃおうかな。」


「馬鹿言え! あいつは、女には興味ないみたいだぜ!」


「あの一緒にいる子犬もモフモフで可愛いわ。どうして肩の上にのせてるのかな~。」


「あの犬も相当強いらしいぜ!」


「うっそー! でも、モフモフしたいわ~!」



 そんな話声が耳に入ってくる。オレは一切を無視して、掲示板の前で確認している。オレは、ブラックベアに襲われていたBランクパーティーを救助したことや、街で襲われていた女性を助けたこと、街道に出没する盗賊団を壊滅させたことなどが認められて、Dランクから一気に最高ランクのAランクに昇格していた。目立たないようにと思ったが、すでに王都では “エックス” は謎の男として有名になってしまっていた。

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