第12話 初めての人助け
身体強化の魔法は剣の鍛錬をするときに使用しているのですでに使える。現場まで駆けつけてみると、やはり魔力の大きなブラックベアがいた。冒険者3人が対峙している。その後ろに、冒険者の仲間と思われる女性が1人怪我をしてうずくまっていた。
“ハク! オレに治癒魔法を教えてくれ!”
“いいぞ! 傷が治るイメージや病気が治るイメージで治癒するのが『ヒール』だ。怪我や病気が重たい時、あるいは欠損してしまっているときは『リカバリー』だ。どっちもイメージが重要だぞ!”
“わかった。ありがとう。”
“これで、ステーキ3枚だからな!”
オレは倒れている女性のところまで駆け寄った。女性を見てみると、お腹の辺りを鋭い爪で切られた跡が数本あった。なんとか押さえて止血しているようだが、かなり危険な状態だ。オレは迷わず、『ヒール』を使った。すると、女性の体が暖かい光りに包まれ、見る見るうちに傷が修復していく。傷の癒えた女性は、オレの方を見て聞いてきた。
「あなたは誰?」
オレは何も言わずにブラックベアに向かった。冒険者が3名がかりで戦っているが、かなり劣勢だ。オレは、冒険者達に言った。
「ちょっとそこをどけ!」
オレが彼女を治療する様子を見ていたせいか、冒険者達は黙ってオレの指示に従った。オレは以前と同じように、剣に風の魔法を付与してブラックベアに切りかかる。魔眼のせいかブラックベアの動きがまるでスローモーションだ。
オレはブラックベアの鋭い爪の攻撃を軽々かわして、一気に首を切り落とした。ブラックベアは大きな音を立て、その場に崩れ落ちた。
「すごい! 一撃だ!」
「感謝する。俺達は “新緑の風” というBランクのパーティーだ。お陰で死人を出さずに済んだよ。」
「通りかかっただけだから大丈夫だ!」
「ところで、君は何者だ? この街の冒険者なら、俺達が知らないはずはないんだが。」
「先日登録したばかりだからな。」
すると、怪我をして倒れていた女性が近づいてきた。
「うそでしょ————! 登録したばかりで、ブラックベアを一撃?」
心の中では、“やったー! ブラックベアを倒したぞー!” と騒いでいる。だが、人前ではあくまでも沈黙の男を演じた。
「あなた強いのね? 名前はなんて言うの!」
「たまたまだ!」
「たまたまで、ブラックベアは倒せないぞ! それにあの動き、まるで風のようだ! よほどの達人でなければできない身のこなしだよ。」
「オレは先を急ぐから。」
このままだとまずいと思い、オレは急いでその場を離れた。ちょっと疲れたので、オレは森の中から寮の部屋まで一気に転移した。
「ミライ! お前、ブラックボアの報酬はどうするんだ?」
「彼らが見つけたんだから、彼らのもんだろう?」
「だが、討伐したのはお前だぞ! お前がいなければ、あいつらは死んでたかもしれんぞ!」
「まっ、人助けできたんだからいいじゃないか。」
「よくない! ステーキが食べられんだろうが!」
「今度食べさせてやるよ。」
「約束だぞ! 3枚だからな!」
「はい。はい。」
部屋で横になっていると、部屋をノックする音が聞こえた。ドアを開けるとハヤトとタケルがいた。
「どうしたの?」
「夕食に行こうと思って、誘いに来たんだよ。」
「わかった。すぐに行くから中で待っていていいよ。」
ハヤトとタケルが部屋の中に入ってきた。何か不思議そうにキョロキョロしている。
「どうかしたの?」
「ミライさ~! さっき誰かと話してなかったか?」
「いいや。ずっと一人だよ。」
ハクは気配遮断で透明化している。オレは急いで準備を整え、食堂に向かうことにした。
「さぁ、準備できたよ。行こうか。」
オレ達が食堂に着くと、すでにほぼ満席状態だった。アリスとナナとキャサリンもオレ達のことを待っていたようだ。
「あなた達! 遅すぎ! 席が埋まっちゃったじゃない!」
「ごめん。オレが手間取ったから。ハヤトとタケルを待たしてしまったんで。」
「ミライ! あなた魔法の授業を受けてないじゃない。何してたのよ。」
「部屋で筋トレしてた。」
「あなた。ダンテおじさんみたいにマッチョ目指してるの?」
すると、ナナとキャサリンが、オレの身体を上から下までじろりと見た。自分でもそれなりに筋肉はついていると思う。
「魔法が使えないんだから、体を鍛えるしかないだろう。」
そんな話をしていると席が空き始めた。オレ達は席を確保して夕食を買いに行った。ちなみにキャサリンも、オレ達と同じで一番安い定食を食べる。
そんなキャサリンの様子を見て、タケルが不思議そうに言った。
「前から思ってたんだけど、キャサリン様も同じ食事でいいんですか?」
「なによ! タケル! キャサリンも私もみんな同じでしょ!」
何故かナナがむきになってる。オレの方を見ながら、タケルに文句を言った。何故だろう?
「タケル。以前話したように、私もここでは一人の生徒だから、王女だってことは忘れてね。」
「はい。畏まりした。」
「タケル! 君、まだ敬語になってるよ!」
ハヤトのその言葉で全員が笑った。そして、その日の夜は寮に戻ってぐっすりと寝た。
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