第10話 アルバイトに向けて

 オレ達が食堂に行くと、ザイルが取り巻き達といた。オレ達の方を睨んでいたが、キャサリンがいることに気づくと目をそらした。別に無視するからいいけど。


 午後は剣術の授業だ。剣術と魔法の授業は、学年ごとの合同授業になっている。食事が終了した後、オレ達は闘技場に向かった。オレ達が1番乗りだった。すでに、ユリウス先生がいる。ユリウス先生がオレに声をかけてきた。



「君も合格したようだな。ところで、あの剣術を教えた親の名前を教えてくれるかい? 確か元冒険者だったよな?」


「はい。父はダンテと言います。昔、闘技大会でユリウス先生に負けたといっていました。」


「そうか。やはり、君はダンテの息子か。どうりで強いわけだな。ダンテは元気かい?」


「はい。今は農業しながら、村に出る魔物を狩っています。」


「あいつらしいな。あいつは、俺が騎士団に何度も誘ったんだが、“国民を脅かす魔物を退治するのがオレの役目だ” とか言って、誘いを断ったんだ。あれほどの腕を持ちながらもったいない話さ。」



 オレは父さんの知らない一面を見た気がした。



「ところで、マリア様は元気かい?」


「マリア様?!」


「お前、何も聞いてないのか?」


「はい。」


「なら俺も余計なことは言わないほうがよさそうだな。」



 そんな話をしていると、他の生徒達が集まってきた。いよいよ剣術の授業だ。最初は全員で素振りからだ。オレは学園に入学した後も、毎朝欠かさす訓練しているから他の生徒とは音が違う。



「さて、次は2人1組になって打ち合い稽古だ。2人1組になれ!」



剣術でオレの相手をしようとするものは誰もいなかった。アリスはキャサリンが相手だ。すると、ユリウス先生がオレのところに来た。



「ミライ! お前の相手は俺がしてやろう。打ち込んで来い。」


「はい。」



 最初はみんなそれぞれ打ち合いをしていたが、一人また一人とその動きが止まり、いつの間にか全員がオレとユリウス先生の打ち合いに注目している。



「スゲーな! あいつ!」


「彼はDクラスなんだよな?」


「なんか、算術もすごいらしいぜ!」


「あの子、ちょっとカッコよくない!」



生徒達の声が耳に入る。オレは、気にせずそのまま続けた。当然、魔眼は使っていない。練習にならないからだ。



「よし! 今日の授業はここまでだ!」


「ありがとうございました!」



 生徒全員がユリウス先生に挨拶をする。ただ一人を除いて。ザイルだけはオレをずっと睨んでいた。


 その日の授業がすべて終了したので、オレはハヤト達やアリスと一緒に職員室にやってきた。先日のアルバイトのことを聞くためだ。



「メアリー先生、ちょっといいですか?」


「どうしたの? みんなで。」


「学園ではアルバイトは禁止なんですか?」


「アルバイトですか?」



 メアリー先生はやはり新米のようだ。即答できない。メアリー先生が困っていると、少し嫌みなザハト先生がやってきた。



「君達の家は、子どもにアルバイトをさせないといけないぐらい貧しいのかい?」


「違います。ただ、社会勉強にもなるし、体を鍛えたいと思っただけです。」


「君は、勉強や体を鍛えるのは、学園の授業だけでは不十分ということですか?」



 すると、近くにいたユリウス先生が話に入ってきた。



「まぁ、まぁ、ザハト先生。そのくらいにして、学園長先生に相談してみましょう。」


「ユリウス先生がそういうのなら。」



 ザハト先生はバツが悪そうにその場を離れた。



「ところで、ミライ。どんなバイトをしたいんだ?」


「冒険者ギルドに行って、学園の隣にある森の魔物の討伐をしたいんです。」


「あそこは強い魔物もいるから少し危険だぞ!」


「はい。危なくなったら逃げますから、大丈夫です。」


「そうか。なら、学園長に聞いてみよう。いいですよね? メアリー先生!」


「は、はい。」



 その日は結論が出ず、全員自分の部屋に戻った。後日、アルバイトは3年生になるまでは禁止と言い渡されてしまった。ただ、学園では東の森で演習をする予定があるようだ。



「なあ、ハク~!」


「なんだ?」


「誰にも気づかれずに、学園を抜け出す方法ってないのかなぁ?」


「ないこともないな。わしはお前がいない間、街を散歩してるからな。」


「えっ?! 本当か?!」


「ああ、いろいろ調べたいこともあるからな。」


「なら、教えてくれよ。その方法。教えてくれたら、バイトで稼いだ金でステーキをご馳走するからさ~。」


「何?! 本当か?!」


「ああ、約束するよ。」


「しょうがないな。“転移” という空間魔法を使えばいい。だが、お前のその姿だとすぐに学園の生徒とばれるぞ!」


「なら、変装できる魔法とかないの?」


「ないこともないがな。」


「ステーキ2枚!」


「わかった。わかった。教えてやろう。」



 オレはハクから姿を変える魔法と転移という魔法を教えてもらった。だが、転移は一度行ったことがある場所にしか使えないようだ。その日から、オレの変装と転移の魔法の練習が始まった。変装は何とかできるようになったが、転移が思った以上に難しい。



「ミライ君。なんか、最近授業中に寝てることが多いよね。」


「ハヤト。当たり前よ。ミライ君は勉強しなくても、算術が私達よりできるんだから。」


「そうだ。今度、俺達にも算術を教えてくれよ。家に帰った時に父上や兄上に自慢してやりたいからな。」



 その日も夜遅くまで転移の練習をしていた。すると、初めて街まで転移することに成功した。



「やったぞー! ハク! 成功だ————!」

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