第9話 王立学園の友人達

 自己紹介が終わった後、その日は解散となった。オレが配られた教材を片付けていると、さっそくオレの周りに何人か集まってきた。



「僕はハヤトです! ミライ君って、入学試験の時凄かったですよね! 剣術を誰に習ったんですか?」


「父さんだよ。元冒険者だから。」


「え~! ミライ君の家って農家じゃないの? あっ、ごめん。私はナナ。よろしくね。」


「昔は冒険者だったけど、今は農家だよ。」


「へ~! なら、ミライは狩りに行ったことがあるのか?」


「あるよ。ホーンボアとかホーンラビットなら狩ったことあるよ。」


「すげーな。お前。貴族の俺だってホーンボアなんか狩ったことがないぜ!」


「君の名前は確か・・・・」


「俺か? オレは貧乏男爵家の3男でタケルだよ。よろしくな。」



 その日、いきなり3人の友人ができた。いままで、アリス以外に友人らしい友人がいなかったので、少し戸惑ってしまった。オレが帰りの準備をしていると、アリスが教室に迎えに来た。



「ミライ! 何してるの? 遅いよ! 早くご飯食べに行きましょうよ。」



 すると、オレの近くにいた即席の友人3人がオレを見てきた。恐らく、紹介しろってことだろう。



「ああ、彼女はアリス。オレの幼馴染だ。一緒に学園に入学したんだ。」



 すると、ハヤトが赤い顔をして自己紹介を始めた。



「ぼ、ぼ、僕、ハヤトと言います。父は王都で武器屋をやっています。良かったら今度、買い物に来てください。安くしておきますから。って僕何言ってるんだ!」



 その場で笑いが起きた。武器屋の息子のハヤト。食堂の娘のナナ。男爵家の3男のタケル。みんないいやつだ。


 こうしてオレ達の学園生活が始まった。


 みんな一旦寮に荷物を置きに行った後、食堂に集合することにした。みんなで食事をすることになったのだ。オレとハヤトとタケルは寮の入口で待ち合わせをして、食堂に向かった。



「ねぇ、ミライ君。アリスさんて彼氏とかいるのかなぁ?」



 ハヤトがアリスのことを気に入ったようだ。何故かわからないが、いい気がしなかった。



「直接聞いてみればいいじゃん。オレは小さいころから姉弟のように育ったから、あまり意識したことないけどね。」


「えっ?! ミライ君ってアリスさんの幼馴染なの? 」


「そうさ。でも、なんで?」


「だって、2人はいつも手を繋いでるもんね。ミライ君が羨ましいよ!」



 オレ達3人が食堂に行くと、すでにアリスとナナが待っていた。



「ミライ! 遅すぎよ! もう、お腹ペコペコなんだから!」


「ごめんごめん。」



 オレ達は一番安い定食を食べる。ここの食堂は街に比べてかなり安いが、それでも実家に迷惑をかけられない。食事をしながらハヤト達に聞いてみた。



「この学園ってアルバイト禁止なのかな~? 誰か知ってる?」


「ミライ! 急にどうしたのよ!」


「親にあまり迷惑かけられないだろう。それに、修行もしたいし。冒険者ギルドとかでバイトできたら、実戦も経験できるし、お金ももらえるじゃん。」


「今度メアリー先生に聞いてみたら?」


「あの先生って新米だろ? 多分答えられないと思うぜ!」



 言い方はきついが、タケルが言っていることは正しいと思う。別にダメとなったら抜け出してバイトすればいいだけだ。


 全員が食べ終わって話をしていると、3人組がやってきた。侯爵の息子ザイルとその取り巻きだ。

 


「よお。無能! お前まだいたのか? 目障りだ! 早くやめちまえ! お前のような魔力のない下民がいると飯がまずくなるぜ!」



 ハヤトとナナは困ったような顔をしている。同じ貴族の子であるタケルも、黙って拳を握り締めていた。関わり合いになりたくないオレは、ザイルを無視している。だが、一人だけ席を立った者がいた。



「あんた何よ! 男らしくないわね! 貴族様っていうのはそんなに偉いの? 学園長先生も言っていたけど、この学園では身分なんて関係ないでしょ!」


「なにを~! 生意気な女だ! 俺様に向かってよくもそんな口を!」



 すると、後ろから声がした。



「ザイル殿! おやめなさい! あなた、この前も注意しましたよね! 次はお父様に言いますから、そのつもりでいてくださいね。」


「キャサリン様。違うんです。こいつらが先に喧嘩を売ってきたんですよ。」


「まっ、いいわ。私、この方達とお話があるの。あなたは席を外してくれるかしら。」


「わかりました。」



 ザイルは取り巻き2人を連れて、俺達に悪意に満ちた目を向けながらその場から立ち去った。



「ありがとう。キャサリン。」


「どういたしまして。それより、ミライもアリスもすごいわね。いきなり友達出来たの?」



 オレとアリス以外の他の3人が緊張して固まってしまった。



「ハヤト、ナナ、タケル。大丈夫よ。この学園ではキャサリンは普通の友達だから。ねっ!」



 アリスがキャサリンにウインクして合図した。



「そうですよ。学園にいる間は、私は王女ではありません。皆さんの仲間です。」



 ハヤトもナナもタケルも緊張が少しだけ解けたようだ。キャサリンの後ろに立っている従者達もニコニコとほほ笑んでいる。だが、この従者達もただ者でない。一つ一つの動きに無駄がない。いつでもキャサリンを守れるようにしている。オレの魔眼にはそう映った。


 オレは食事を終えて部屋に戻ると、ハクが何やら怒っている。



「わしを置いて飯を食いに行くなど・・・・」


「ごめんごめん。今度美味しものを食べさせてあげるから、今日はオレの魔力で我慢して。」


「まあ、ミライの魔力は濃厚だし、美味だから許すけどな。」



 ハクは食事から栄養をとることもできるが、基本的には食事は不要だ。大気中の魔素をエネルギー源にしているのだ。

 

 そして翌日、いよいよ授業の初日だ。最初は算術だった。小学生、中学生レベルの内容だ。オレにとってはあくびが出てしまう時間だ。オレが授業をそっちのけで、外の剣術の授業を見ていると、メアリー先生にいきなり当てられた。



「ミライ君。この問題の答えを言ってみなさい。」



オレは慌てて黒板を見た。黒板に書かれていたのは四則の混合計算だ。オレはすかさず暗算で計算して答えた。



「すげー! あいつ、一瞬で答えたぜ!」



大分消えかかってしまっているが、それでもうっすらと前世の記憶がある。そんなオレにとっては簡単すぎる問題だ。算術の授業が終わると、ハヤト、ナナ、タケルがオレのところにやってきた。



「ミライって農家の出身だよな~! お前、算術をどこで勉強したんだ?」


「ミライ君、商人の僕より全然すごいよ!」


「私も家の手伝いするけど、あんなに早くは計算できないわよ。」


「ここに入学するとき、アリスとそれなりに勉強したからね。」



 ここでハヤトが反応した。



「なら、アリスちゃんも計算早いの?」


「どうかな~? あいつは戦闘狂だからね。剣術や魔法はそれなりに使えるけどね。」



 すると後ろから嫌な声がした。



「誰が戦闘狂だって!!」



 後ろを向くと、そこにはアリスとキャサリンの姿があった。キャサリンはニコニコしているが、アリスの頭が噴火状態だ。


 

「いや、アリスは努力家で剣術も魔法もすごいって話してたんだよ。」


「まっ、いいわ。それよりもうお腹ペコペコだから、早く食堂に行きましょ!」

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